想が瞬を駆け抜けて

想が瞬を駆け抜けて(3)

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5.完全調和

 戦闘において最も大切なこと
 それは、『パーフェクト・ハーモニー』
 ―― “完全調和” だ





 シャドウの隊長となった矢車が提唱したのが、『完全調和』だった。
 スタンドプレイをしない、常に全体として行動する、といった規律を盛り込んだそれは、いかにもエリートの矢車が好みそうなことだ、と皆がなんとなく納得していた。

 完全調和の精神は、個性を殺してしまう。
 それでも、犠牲を最小限に抑えて戦うにはこの戦法が一番であることを矢車は知っていた。
 自分ひとりで戦うのではない。
 隊長として隊員たちの命を預かる立場にある自分は、いかに彼らの命を守れるか、それが最重要課題なのだ。

 カブトとの対決で影山が負傷した時、『ザビー』はカブトとの決着をつけることを矢車に命じていた。
 ザビーの紋章が、矢車を苛む。
 しかし矢車は影山の手当てを優先させた。

 幸い影山の怪我は軽く、数日で退院できるとの医者の言葉に矢車は安堵した。
 ベットにしばりつけられている影山に何か欲しいものがあるか問うと、「矢車さんの麻婆豆腐が食べたい」と元気な返事が返ってくる。

「お前はいつでも、食い気だな」

 矢車は笑った。

「矢車さん、絶対カブトを倒しましょうね! 俺、今度こそ迷惑かけないようにがんばります」
「それでこそ、影山だ」

 影山の眼差しは、まっすぐで迷いがない。
 頷きながらも、矢車は心のどこかでカブトとの対決の日が来なければいいと願っていた。

 この次は、ザビーの命令に逆らえないかもしれない。
 ザビーの紋章は矢車の心も体も支配し、カブトを排除するというZECTの指令だけに執着してしまいそうになる。
 それによって、部下が犠牲になることもあるのではないか。

(お前たちの命は俺が守る。守ってみせる)

 強い信頼を寄せてくる影山を見ながら、矢車は唇を引き結んだ。
 部下たちを裏切るようなことだけは、絶対にしたくなかった。



6.堕ちる……

 俺は、カブトを倒さねばならない
 そうでなければ、俺が俺でなくなってしまう





 夕陽を背にカブトと対決した時、矢車は戦いに夢中で加賀美の危険に意識が及ばなかった。
 天道が加賀美を救ったが、それさえも気付かなかった。
 矢車の精神は、少しづつしかし確実に蝕まれていた。

「お前、部下を見殺しにするつもりか」

 ワームに苦戦するシャドウに目をやり、カブトが問うてくる。

 指揮系統を失い、ワームに追い込まれるシャドウたち。「隊長!」と自分の名を呼ぶ部下たちの声が耳に届く。
 聞こえてはいたが、ザビーとなった矢車の心には響かなかった。
 構わず、ザビーはカブトに向かっていく。

 そんなカブトとザビーの光景を、影山は信じられないように見つめた。
 いつもどんな時でも隊長は自分たちの命を守ってくれたのに、今の矢車は隊員のことなどまったく見ていない。

(矢車さん、どうして……!?)

 疑問を投げかける暇もなく、ワームは影山に襲い掛かってくる。

「くそっ!」

 もはや完全調和は崩れた。自分の身は自分で守らなければならない。

『助けてください、矢車さん!』

影山の声が聞こえたような気がして、矢車ははっと動きを止めた。

(影山……?)

 だがそれも一瞬で、思考はすぐに目の前のライダーを抹殺することに切り替わる。
 必殺の一撃を繰り出そうとした時、カブトが静かに言った。

「お前は自らの道を外れた」

 自分の腕から飛び去っていくザビーゼクターに、矢車は驚愕しながら手を伸ばす。

「戻れ、ザビーゼクター! 戻れーっ!!」

 叫びも虚しく、変身を解除した矢車を容赦なくワームが襲った。
 地に叩き付けられ、体に激痛が走る。矢車は口の端の血を拭うと、痛む身を起こした。

 頭の中が真っ白になっていた。
 至るところで、傷付き倒れている部下たちの姿が視界に映る。
 なぜザビーゼクターが自分の元を去ったのかと考えるより、なぜ自分はこんな行動をとったのだろうという当惑を強く感じた。

 すぐ近くでうつぶせに倒れた部下の一人を仰向かせ、その鼻先に自分の手を当てる。
 ――息を、していない。

(俺は……、部下を見捨ててしまった)

 矢車は声を上げて泣き出したい気持ちだった。激しい自責と後悔が痛いほど心を締め付ける。
 大事なものを失ってしまった、と矢車は思った。

 もう取り返しはつかない。
 ザビーゼクターより遙かに大切なものを、矢車はこの時確かに失ってしまったのだ。
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~ Comment ~

>maiko様へ 

コメントありがとうございますv
このシーンは、辛いけど一番書きたかった場面でした。
がんばれ、矢車!がんばれ、影山!
でも、どうやっても、この先の二人の未来は暗い・・・っていうのが、なんとも・・・。

… 

追記:
さっきの自分のコメント読み返してみたんですけれど…。
自分が言いたかったことをちゃんと言えていませんでした。
かといって、どう言えばいいのかも分からないんですけれど…。
矢車も影山も…見ていてつらかったですね、この場面。

泣 

この時に影山は矢車が嫌いになったのっしょうね…。
矢車さんを助けにいったのに(しかも入院中)…。
矢車は「俺が俺でなくなる」こと(?)を恐れるあまりに、影山達を見捨てたんですからね…。
多分このことも原因で影山はあんなふうに…。
でも矢車も…うん。
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