悪魔は夜歩く

悪魔は夜歩く(7)

 ←今日は何の日? →「キバ」17話
矢車の夜 第8夜


 さんざん好き勝手に騒いでおきながら、あっけなくその若い男は酔いつぶれてしまった。
 もたれかかってくる体を仕方なく支えてやって、俺は店のママに目を移す。

「この男、随分若いようだけど?」

 俺の言わんとしていることが分かったのだろう。彼女、もとい彼は、必死になって弁明した。

「未成年者を店に入れたりはしないワよ! 瞬ちゃん、これでもハタチだって言ってたから」
「二十歳? ふぅん」

 別に俺は、この店が未成年者飲酒禁止法に違反して、営業停止処分を受けようが知ったことではない。
 ただこの男について、できるだけ多くの情報が欲しい。

「俺はZECTの矢車だ。彼のことを教えてくれないかな」

 身分証を示し、俺は極上の、けれど有無を言わせない笑みをママに向けた。




   
「うー……んん?」

 呻きを漏らし、男の両の瞼が重そうに持ち上がる。

「起きたか」

 ソファから立ち上がり、俺は彼が横たわるベッドに近づいた。
 悟られないようZECTガンを服の袖に隠し持っている。きっちりしたスーツを着ていてはできない芸当だが、今のように私服なら容易い。

「あれ、ここは……?」
「休憩施設。俺が運んできた。店で寝てたんじゃ、迷惑になるからな」

 自分が寝ていた広いダブルベッドと、頭上の豪華な明かりを、この男は大層気に入ったらしい。
 きょろきょろと物珍しげに部屋を見回すので、俺はつい、からかってみたくなった。

「向こうに、浴室テレビやジェットバスもある」

 くいと首を振って、そちらの方を示してやると。

「すご……、風呂場まであるんだ!」

 と純粋にはしゃいでおり、到底演技には見えない。どうやら、これは天然だ。

「影山瞬。それが、きみの名前?」
「あ、うん」

 影山はもそもそとベッドから起き上がった。
 わずかに開いたカーテンから、爪ほどに細くなった三日月が覗く。

「店のママから、大体話は聞いた。でもなぜ、矢車を探してたんだ」

 今度はあえて自分が矢車だと告げず、俺は他人事のように聞いてみる。
 すると影山は、まったく警戒心もなく、素直に口を割った。 

「ミシマさんから、矢車を狩るようにって言われた」
「ミシマ?」
「俺の上司なんだけど、いつだって身勝手なんだよ、あの人。失敗したら、白夜の国に左遷だとか言うし。自分はこっそり人間のライフエナジーをサプリにして飲んでるくせに、部下には厳しいんだ。ほんと、ズルイったらさ」

 頬を膨らませ、こちらが聞いていないことまでつらつら語り出す。
 日頃からたまっていた上司への鬱憤を、ここぞとばかりに吐き出すタイプか。

 それはともかく、この男が俺を狙うヴァンパイアだったとは、拍子抜けしてしまう。
 俺を探し当てるために、あんな理解不能な噂を流したというのがまた理解できない。

 そんな俺の心境など知る由もなく、影山は屈託ない笑みを向けてきた。

「あんたの方も教えてよ。あんた、人間じゃないんだろ」
「え」

 何を言っているのかと思ったものの、泥酔していた影山は、バーでの会話を覚えていないのだろう。
 俺を矢車だと認識していないどころか、なぜか人間だとも思われていない。
 ならば、むしろ好都合と、俺はでたらめをでっちあげた。

「俺は……、そうだな、狼。人狼ワーウルフだ」
「ワーウルフ? 他に仲間はいないの?」
「ああ。みんな殺られて、俺だけさ」

 我ながら、こんな作り話がスラスラ出てくる自分の才能が恐ろしい。

 影山の方は、俺の話を頭から信じている様子。
 苦労したんだね、と同情の言葉まで出されては、俺としても反応に困る。

「あんたの名前、なんていうの」

 そう尋ねられた時は、さすがに一瞬戸惑った。本名を出すのはまずい。

「……ジロー、だ」

 それでも、ものの数秒で回答する俺は、嘘をつくことにかけても完璧かもしれなかった。



※ちょっと、冗談が過ぎたかも・・・です。イロイロな意味で(^^;
関連記事



【今日は何の日?】へ  【「キバ」17話】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【今日は何の日?】へ
  • 【「キバ」17話】へ