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悪魔は夜歩く

悪魔は夜歩く(8)

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影山の夜 第9夜


「ジロー……」

 告げられた名前に、俺はなんとなく違和感を覚えた。名前がイメージとそぐわない、というか。
 きっと、『イチロー』や『タロー』だったら、しっくりしたに違いない。

 ジローは、半開きのカーテンを全部開け放つ。
 休憩施設と言ってたけど、窓から見える月の位置から察するに、多分この部屋は四階か五階。
 ジローが俺をここまで運んできたんだろうか。

「どうだ、歩けそう?」
「うん、大丈夫」

 たとえ細い三日月でも、月は月。月の光があれば、俺の体調はいつだって万全。アルコールもすっかり抜けていた。

「じゃ、行くぞ」

 言いざま、ジローは自分の着ていたジャケットを俺の頭の上に放った。

「何」
「出る時に頭から羽織ってろ、それ」

 意味が分からないまま言われた通りにして、俺たちはエレベーターに乗り込む。
 背面にはめ込まれた鏡に目を留め、俺は「あっ」と思った。自分の姿が映ってない。今更ながら、ヴァンパイアの弱点に気が付き、ジローがジャケットを渡してくれた理由を理解した。

 フロントで、「休憩三時間」とか言いながら、ジローがお金を払っている。別に飲み食いしたわけじゃないのに、休むだけで千円札が4、5枚飛ぶなんて信じられない。
 こちらをチラチラ見る受付嬢から顔を隠すようにして、俺はジャケットを目深にかぶった。

「金、大丈夫?」
「気にしなくていい」

 こっそり聞く俺に、ジローは優しい笑顔を返す。

 この笑顔どこかで見たような、とふと思った。
 ヤケになって落書きしたもんだから、ほとんど原型を留めてない獲物の写真がなんとなく重なる。けど、「まさかね」と思い直し、首を横に振った。

「お前の家は? 送って行ってやるよ」
「ありがと。でもいいよ、俺には翼があるから」

 スマートにエスコートするジローは大人の男なんだなと、俺は羨望の眼差しを向けた。俺は今年で105歳。ジローに比べれば、まだまだ未熟だ。

「ジローの事、『兄貴』って呼んでいい?」

 俺がそう言うと、ジローは少し驚いた顔をする。
 それでも、「ああ」と了承してくれたことが、俺には嬉しかった。



矢車の夜 第10夜


 夜も更けてから、泥酔した奴を背負い、連れて入れる場所など限られている。
 仕方なく入ったそこでは、受付嬢に興味本位でじろじろ見られた。出る時は、俺の上着で顔は隠させたものの、影山が男だということはバレただろう。
 不本意ではあるけれど、既に俺について甚大な風評被害がある以上、噂が上乗せされたところでさほど変わりない。

 このヴァンパイアを懐柔し、連中を一網打尽にする。今の状況は、俺にとって降って湧いた好機だ。幸い、影山は俺を魔物だと信じ切っている。
 家まで送っていくという名目で、ヴァンパイアの住処を突き止めようとするも失敗。なんとか影山を手元に置く方法はないかと、俺は思案した。

「兄貴は昼間、何してるの?」
「ん、ああ。ZECTにいる」

 聞かれるまま、口に出す。
 驚愕の表情を浮かべる影山に、ZECTが敵という認識は持っているようだと分かった。
 警戒される前にと、俺はもっともらしい理由をつける。

「潜入捜査さ。内部にいた方が、動きがつかみやすいだろ。魔物だと知られないようにすればいい」
「すごいな、兄貴って。俺も、兄貴みたいになれたらいいのに」

 いつの間にか、俺の評価はうなぎのぼり。心からの称賛をくれる影山に、思わず苦笑してしまう。
 嘘八百にそこまで感動されると少々良心が痛まなくもないが、任務を優先せねばならない。

 影山はしばらく黙って何かを考えている素振りをし、ふいに顔を上げ真剣な口調で告げた。

「ねえ、俺もZECTに入れないかな」
「え?」
「お金もなくなってきたし、どっかで働きたいんだ」

 俺は予想外の申し出に驚いた。ヴァンパイアでも勤労精神があるとはなかなか見どころがある。これは、渡りに船、濡れ手に粟だ。

「分かった。なんとかしてやるよ」

 快く影山のZECT入隊の手筈を整えることを請け合い、俺は彼の顔の前に指を二本立てて見せた。
「Vサイン?」と聞いてくるこのヴァンパイアは、やはり天然以外の何者でもない。

「二つ条件がある」
「うん、何?」
「無闇に人間を襲うな。人間社会にいられなくなる」

 俺の言葉に、影山は当たり前だと言って力強く頷いた。
 矢車を探すな、という条件も、一つめに含まれる。

「二つめ。俺の名前を決して呼ぶな」
「え、どうして」
「どうしてもだ」

 適当に名乗った名前なので、呼ばれるといろいろまずい。何より、俺自身が呼ばれたくない。

「ジローさん」
「呼ぶな」

 試しとばかりに呼びかけた影山に、速攻で答え、じろりと睨んでやる。
 影山は気まずそうに首を縮め、「もう言わない」と約束した。

「ミシマさんのとこに帰ったら、左遷確実だもん。俺も、人間の中で生きてくことにする」

 なにやら決心を固めて影山は拳を握る。
 その姿を眺めつつ、ヴァンパイア社会も大変そうだと俺は溜息を漏らした。
 


※「兄貴って呼んでいい?」は、『想が瞬を』でも使ったような(笑)。
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