赤い白夜

赤い白夜(2)

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 オスロで暮らすようになってから、フログネル公園には何度も足を運んでいる。
 ワーム調査のために訪れたのは、最初の一度きり。緑が多く、のんびりくつろげる公園は、気分転換をするのにちょうどいい。

 ノルウェーの彫刻家が作品を寄贈したという園内には、人間の彫像がたくさん立ち並ぶ。
 その中には、輪廻や人生の縮図を表現した奇妙なもの、骸骨のブロンズ像もあり、そういった類を、影山はあまり好きではなかった。

「お前にそっくりだ」

 有名な『おこりんぼう』の像を示し、矢車は相棒をからかう。

「やめてよ。今日は遊びにきたんじゃないだろ、兄貴」

 抗議してみるものの、影山の今の問題は、手に持った具沢山のサンドイッチをいかにこぼさずに食べられるかだ。

「昼飯食ったばかりで、よくそんなに入るな」
「まーね、育ち盛りだもん」

 プリプリの小エビを満足そうに味わいながら、影山は二口めをかぶりついた。
 果たして二十一歳が育ち盛りかどうかはともかく、本当によく食べる。

 最近少しふっくらしてきたんじゃないかと周囲に言われ、そのことを自分でも気にしているらしい相棒を、矢車はまじまじと見つめた。
 いつも一緒にいるので、太った痩せたと言われても、変化など分からない。
 それでも、その食べっぷりから思うに、周りの評価もあながち外れてはいなさそうだ。

「あれ? 隕石跡地って、ここら辺だよね。もしかして通り過ぎちゃった?」
「いや、この辺りで間違いない」

 公園内の一角にある、立ち入り禁止区画。隕石にえぐられ、半径数メートルのすり鉢状の穴が今なお残る跡地は、黄色いテープが張り渡されているはずだった。
 しかし二人の目の前に広がるのは、美しい噴水と観光客が行き交う並木道ばかり。

 トマトソースのついた指を舐めて首をかしげる影山の胸元を、矢車は指さした。

「シャツにケチャップ付いてるぞ」
「うわっ、ホントだ! シミになっちゃうよ、これ」

 店からもらった紙ナプキンで慌てて拭き取っても、赤黒い跡が影山のタンクトップにくっきり残ってしまった。

「よかったじゃないか。ちょうど赤い服で」
「よくないっ。しっかり目立つじゃんか!」

 水で洗い落とそうと影山は噴水に手を伸ばし、そしてふいに顔をしかめた。

「どうした」

 矢車が聞いても、影山は腕を組み「うーん」と唸っている。

「なんか、この噴水変な感じがする。半分、幻みたいな」
「ホログラムか?」

 すぐさま矢車も水に手を入れてみる。が、ひんやりとした心地よい水の感覚も、それが上げる水飛沫も、何も変わったことはない。
 濡れた手を握り締め、矢車はもう一度水の感触を確かめた。

「幻じゃないとは思うが。どんな風に変なんだ」
「ここにない物を、別のとこから無理矢理持ってきた、っていうか……」

 影山にも上手く言えないらしく、はっきりしない。けれど何かしらの違和感があるのだろう。
 影山だけに感知できるのは、以前ワーム化したせいかもしれない。

 あるはずの隕石跡地が見当たらず、ないはずの噴水がある。時間や空間の操作は、ワームが持つテクノロジーだ。
 公園内の空間が歪められているとしたら、ここで目にするもの、触れるものは何も当てにならない。

 矢車は体が濡れるのも構わず、噴水の中央の石柱を探った。

(……なんだ?)

 水面に隠れ、一見しただけでは分からない位置に、金属の異質な感触があった。片手に収まる程の大きさの椀型の機器が、ほのかな光を放っている。それを石柱から外し、矢車は噴水から出た。

 途端に、噴水が視界からきれいに消え失せた。気付けば、二人は隕石跡地のクレーターの底に立っている。

「ど、どうなってんの?」
「お前が言った通りだ。こいつの仕業だろ」

 矢車は手にしたものを影山に見せた。形こそ違えど、ゼクターと同種のガジェットのようにも思われる。
 昆虫にたとえるなら、テントウムシというところか。
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~ Comment ~

>春巻様 

食べ盛りの君たちへ・・・。
いやもう、最高のネーミングですって!さすがです(笑)。
ムチ山ネタは怒られるかなぁと思いつつ、書く機会を狙ってたのでした(^^;

個人的には、あんまりエビって好きじゃないんですが(愛知県人のくせに←エビフリャー)。
まー、ネガティブキャンペーンっすね(何が)。

心強いお言葉に、励まされました。じめじめした梅雨も、萌えで乗り切りませうv
コメントありがとうございました。

食べ盛りの君たちへ・・・ 

いや、なんでもない・・・

そうじゃなくて!食パンのCMに登場するエビとゆで卵のサンドイッチ、ということでよろしいか?
パンと影山のどっちが白いんでしょうねえ、ケチャップの赤が映えるよねえ。
マーリンさんに負けず劣らず、こっちもまだまだ萌えますよー。
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