赤い白夜

赤い白夜(5)

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 影山は膝立ちのまま、倒れた矢車を見下ろしていた。
 視線を逸らすことも、その体にしがみついて泣くこともできなかった。

「さて、行くか。相棒」

 促す声にも反応を示さず、影山の足は縫い止められたようにその場から動かない。
 やがてのろのろと振り向き、『矢車』に聞いた。

「……公園から出られるの?」
「ああ、テントウムシがあれば」
「テントウムシ?」

 訝しむ影山に、擬態の矢車は「こいつ」と言いながら、本物の矢車のコートの内から椀型の機器を取り出した。

「俺たちの財産だからな。人間にくれてやるわけにはいかない」

 擬態矢車は、自慢げにガジットを影山の目の前にかざす。

 ワームは高度なテクノロジーを持つ生き物。ZECTのライダーシステムはワームから譲り受けた技術であり、人間がワームを根絶やしにするなど、初めから無理な話なのかもしれない。
 終わったつもりでいても、本当は何も終わっていない。ワームとの戦いは、この先も続いていくだろう。

「それだけ分かれば、もういいや……」

 影山は素早く擬態影山の手から銃をもぎ取ると、擬態矢車に銃口を向けた。右腕をまっすぐ伸ばし、狙いを定めて。

「さよならだ、『兄貴』」

 断ち切らなければいけない、と思った。こんな循環を。

 しかし放たれた銃弾は、確実に仕留められる距離だったにも関わらず、空を切った。
 構え直した影山の後ろで、空気が揺れる。クロックアップだ。

 気配を頼りに、撃ち込んだ二発目も手応えはない。気付いた時には、銃は叩き落され、背後から擬態矢車の腕で首を締め上げられていた。

「……何の冗談だ、相棒?」
「黙れ! お前に、相棒なんて呼ばれたくない」

 睨みつけて叫べば、締める腕に力が込められ、影山の首の骨が軋みを上げる。

(来い、ホッパーゼクター!)

 利き腕は拘束されているものの、なんとかベルトに届きそうな左手に望みをつなぐ。

「どうして俺を受け入れない? 一緒にいてやると言ったろ」
「……俺も……言った。お前は、兄貴じゃない、って……」
「そうか、残念だ」

 言葉とは裏腹に、擬態矢車は薄く笑うと、底冷えのする低い声で呟いた。

「まあ、お前の裏切りには、慣れてる」

 急激に強まった腕の力に、影山の頭で警鐘が鳴り響く。周囲の光がパチパチと点滅するような感覚。
 しかし意識が飛ぶ直前に、掌に待ちわびていたものが収まった。

「チッ!」

 ゼクターが発する波動に怯んだのか、締められた腕が緩む。その隙に、影山は擬態矢車から身を翻した。

「お前は……、変わらないのか」

 うまく声が出せず首は痛んだが、折れていないだけ運がいい。素早くゼクターを装着し、間合いを取る。
 ワーム体にならないのか、と問う影山の真意を、擬態は見抜いていた。

「この姿だと倒せないというなら、大人しく俺に殺されたらどうだ」
「……ダメだよ」

 パンチホッパーへと変わっていく中で、影山は空を仰いだ。日本にいた頃、港で矢車に別れを告げた時も、澄んだ、こんな夜空だった。

「前に、兄貴に言われたんだ。もう二度と死なせない、って。歳を取って、普通に寿命が来るまでは死ぬな、って。お前も、兄貴の擬態なら覚えてるだろ」
「そんな約束を、律儀に守る気か」

 泣いているようにも微笑しているようにも取れる影山の表情は、ホッパーの仮面に隠された。

「守るさ。だって」

 ためらわず、腕のアンカージャッキを入れる。戦いを長引かせず、ケリをつけるために。

(だって、もう絶対、兄貴を裏切らないって決めたから)



※影山のターンです。
兄貴は・・・「返事がない。ただの屍のようだ」(←待て)。
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