悪魔は夜歩く [15] |
| 悪魔は夜歩く 第15話 ZECTへの入隊初日も無事終わり、すっかり日も落ちた頃、俺は兄貴とともに寮に戻ってきた。 頭上には、だいぶふくよかになった月が照らす。 くっきりとした月の輪郭を見て、俺は顔をほころばせた。 うん、明日も快晴。 「あー、疲れた。ハラへったなー」 何気ない俺の言葉に、兄貴はギクリと体を強張らせる。 「人間を襲うのは、厳禁だ」 「分かってるよ」 そんな、ビシッと指を立てて言わなくても。 「ライフエナジーがない時は、普通の食べ物で充分だもん」 むしろ、俺的には人間の食べ物の方が好きだけど、従わないとミシマさんがうるさかったから。 「でも兄貴、料理なんてできるの?」 「見くびるなよ」 今日は兄貴が夕飯を作ってくれると言って、帰り道のスーパーで食材を買い込んだ。 もとより俺に料理は無理だし、兄貴が来なければ、いつものようにサブさんのお店に行くつもりだった。 「サブって・・・誰?」 兄貴が眉を寄せて問う。 「兄貴と初めて会ったバーのママだよ。本名は、サブさん。源氏名は、ジュネさん」 俺がZECTに入ることが決まった時も、サブさんは大層喜んでくれた。 兄貴の次に、親切で面倒見のいい人だと思う。 俺がそう言うと、兄貴はなんとなくムスッとした顔をしてた。 どうしたのかな、と俺は気になって。 「あの人、優しくていい人なんだよっ。矢車探しを手伝ってくれたり、お店に行くと、ジュースとかお菓子とかくれるし」 「・・・そうか」 必死にアピールすればするほど、なんだかますます兄貴が不機嫌になるみたいで。 どんよりと気まずい空気が流れ始めたので、俺はとりあえず話題を変えてみることにした。 「え・・・と、そういえば、今日田所さんが矢車の事言ってたよね。矢車ってさ、ほんとは人間じゃなかったの?」 「・・・まあ、な」 部屋の鍵を開けて中に入ると、素っ気なく答えてレジ袋をキッチンに持って行く兄貴。 もしかして、スーパーで俺が「レジ袋欲しいです」と言って、レジ袋代2円取られたのを根に持っているのだろうか。 いや、だって『マイ・バッグ』なんて持ってなかったんだから仕方ない。 「兄貴、どうしたのさっ。なんか怒ってる?」 「別に。すぐ用意するから、向こうの部屋で待ってろ」 言い方は穏やかなのに、取りつく島がない。 夕飯ができる頃には兄貴の機嫌が直っていることを願いつつ、俺は外に面したカーテンを勢いよく開けた。 (月が、見たい) 「・・・う、わっ!」 けれど、目に映ったのは、月だけではなく。 「ミシマさん・・・どうして、ここが」 ガラス窓の外にあったのは、できれば会いたくなかった上司の姿。 黒い翼を広げ、宙に浮いたまま無言で俺を見下すその無表情が、いつもながら実にコワイ。 ミシマさんは、くいと眼鏡を指で押し上げてから、事務的に告げた。 「無断欠勤だ、カゲヤマ」 その言葉に俺はサーッと青ざめる。 俺の減給は、確定した。 →NEXT |
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