悪魔は夜歩く

悪魔は夜歩く(11)

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影山の夜 第16夜


 ZECTへの入隊初日は無事終わり、すっかり日も落ちた頃、俺は兄貴と一緒にマンションへ戻ってきた。
 頭上には、だいぶふくよかになった月が輝いている。
 くっきりとした月の輪郭を見て、俺は顔をほころばせた。明日も快晴に違いない。

「あー、疲れた。腹へったな」

 そんなごく普通の俺の呟きに、兄貴はギクリと体を強張らせる。

「人間を襲うのは、厳禁だ」
「分かってるよ。ライフエナジーがなくても、普通の食べ物で大丈夫だし」

 むしろ、俺的には人間の食べ物の方が好きだけど、ミシマさんがうるさかったから。

「でも兄貴、料理なんてできるの?」
「見くびるなよ」

 今日は兄貴が夕飯を作ってくれると言うので、帰り道のスーパーで食材を買い込んできた。
 もとより俺に料理は無理だし、兄貴が来なければ、いつものようにサブさんのお店で食べるつもりだった。

「サブって、誰?」

 兄貴が眉を寄せて問う。

「ほら、おかまバーのママだよ。本名は、サブさん。源氏名は、ジュネさん」

 俺がZECTに入ることが決まった時も、サブさんは大層喜んでくれた。兄貴の次に、親切で面倒見のいい人だと思う。

「あの人、優しくていい人なんだよ。矢車探しを手伝ってくれたり、お店に行くと、ジュースとかお菓子とかくれるし」
「……そうか」

 サブさんの人となりを一生懸命アピールしていたら、なんだか兄貴が難しい顔になってきた。
 どんよりと気まずい空気が流れ始めたので、俺はとりあえず話題を変えてみる。

「え……と、そういえば、今日、田所さんが矢車の事言ってたよね。矢車って、ほんとは人間じゃなかったの?」
「まあ、な」

 素っ気なく答えて、レジ袋をキッチンへ持って行く兄貴。
 もしかして、スーパーで俺が「レジ袋欲しいです」と言って、レジ袋代5円取られたのを根に持っているのだろうか。でも、『マイ・バッグ』なんて持ってないんだから仕方ない。

「兄貴、どうしたのさ。なんか怒ってる?」
「別に。すぐ用意するから、向こうの部屋で待ってろ」

 言い方は穏やかなのに、取りつくしまがない。
 夕飯ができる頃には兄貴の機嫌が直っていることを願いつつ、俺は外に面したカーテンを勢いよく開けた。

(月が、見たい)

「うわっ!」

 けれど、目に映ったのは月だけではなく、思わず叫んでフローリングを滑るように後ずさった。

「ミシマ、さん。どうして、ここが……」

 ガラス窓の外にあったのは、できれば会いたくなかった上司の姿。
 黒い翼を広げ、宙に浮いたまま無言で俺を見下すその無表情が、いつもながら実にホラー。

 ミシマさんは、くいと眼鏡を指で押し上げてから、事務的に告げた。

「無断欠勤だ、カゲヤマ」

 その言葉に俺はサーッと青ざめる。
 減給どころか、白夜の国への左遷は確定した。
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