地獄兄弟は今日も平和

□ ナーサリー・ライム □

ナーサリー・ライム(2)

『ここに、私は沈んだの。橋を架けるための、生贄として。でも、まだ命が足りないの。だから、手伝って』

 自分に語りかけてくる声に、影山は必死に耳を塞ぐ。

「なんで俺が。俺には関係ないっ!」

 闇の中を、助けを求めて駆け回る。けれど、そのうち気付く。己が、ワームに変わってしまっていることに。

『――ほら、ね。人を殺すのは、簡単でしょ?』





 夢の中で叫び声を上げた影山は、自らの声にはっとしてベッドで目を開けた。
 耳障りなほどに鳴り響く心臓の音。最近、同じような夢を見て、頻繁にうなされる。

 額に浮かんだ寝汗を拭い、横を見ると、ベッドの傍らに矢車がいた。木製の椅子に斜めに座り、背もたれに腕を掛け、じっと影山の方に目を向けている。
 影山が起きる前から、そうして座っていたらしい。

「また例の夢、か」

 遮光カーテンの隙間から薄く射す日の光で、矢車の心配げな顔が見て取れる。

「……ごめん、俺、うるさかった?」
「別に。喉が渇いて水を飲みに起きたら、お前が苦しそうだったんでな」

 言葉に出さなくとも、矢車が気遣ってくれたのだと分かった。そのためますます、抑えていた不安があふれ出す。

「兄貴……、俺、もしかしたら、またワームに」
「お前はもうワーム化することはない」

 言い掛けた影山を遮り、矢車はきっぱり告げた。

 ノルウェーで治療を受け、影山は完全に元の状態に戻っている。信頼できる医者からのお墨付きを得ており、ワーム化の再発は杞憂だ。実際、影山に変化の兆候は一切見られない。
 なのになぜ今になって、そこまで恐れるのだろう。

(何か、理由があるのか)

 考えを巡らせ、眉を顰めた。よくない予感しかしない。

「兄貴、言ったよね。もう二度と、俺を死なせないって。だけど、もし俺がワームになったら、話は別だ」

 思い詰めた眼差しを向けられ、矢車は椅子を脇に退け、ベッドの縁に腰掛けた。
 相棒の言いたいことは想像が付く。だからこそ深く溜息を吐き、影山が望んでいるだろう答えを返した。

「お前がワームになったら、その時は、俺がまた引導を渡してやる」

 物騒な宣告の後、安心しろ、と優しい声で続ける。
 影山には、その言葉が安らかな眠りを誘う子守唄と同じに聞こえた。
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Date:2008/08/04
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Thema:二次創作:小説
Janre:小説・文学

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