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ナーサリー・ライム

ナーサリー・ライム(3)

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 翌日の新聞に、小さな見出しとともにその事件は報じられていた。

『アーケル川に女性の水死体 橋から転落か』

 朝食後のコーヒーを手にしたまま、矢車は記事を隠すように折りたたんで、マガジンラックに放り込んだ。
 普段めったに新聞など読まない影山に、見つかる心配はまずあるまい。

(川と橋、か)

 影山が漏らしていた夢の内容が、喉に刺さった魚の小骨のように矢車の心に引っかかった。
 事件現場のアーケル川は、矢車たちのアパートから徒歩で行ける距離にある。

「おはよ……。早いね、兄貴」

 十時頃、半分寝ぼけた顔で、ようやく影山がダイニングに姿を見せた。
 早朝とは言い難い時間ではあるものの、悪夢のせいで寝付けなかった影山にとっては早いに違いない。

「顔、洗って来い。飯できてるぞ」
「んー」

 影山は目をこすりこすり、洗面所へ向かう。日曜ぐらいはもっと寝ていたかったが、昼からバイトがある。
 2ブロック先のオルセン家で、11歳の兄と4歳の妹の世話を頼まれていた。男の子の方がひどくこまっしゃくれた、俗に言う悪ガキで、オルセンの家に行くたびいつも手を焼かされる。

 タオルで顔を拭きながら、影山はコーヒーを注ぐ矢車にちらと目をやった。

「ねえ、兄貴も一緒に行かない? どうせ、暇でしょ」
「俺に、子守りをしろってか」
「子供の世話は俺がするって。兄貴は、いてくれるだけでいいからさ」

 顔をしかめる矢車に、影山はすがるような視線で訴える。拒んだところで、結局負けて相棒の頼みを聞き入れてしまうのが常だ。

「……面倒はみないからな」

 仕方なさそうに立ち上がり、矢車は片袖コートに腕を通した。





 オルセン家の広めのリビングには、遊びに来た他の子供たちも加わり、騒がしい事この上ない。

(まったく、よくやる)

 矢車は続き部屋のソファにふんぞり返り、片時もじっとしていない小さな集団を眺めた。

「こらっ、横入りしたらダメだからね。順番だよ」

 意外にも、影山は子供たちをうまくまとめている。思わぬ才能があったものだ。
 例のオルセンの長男は外へ遊びに行ったのか、部屋にいるのは幼児ばかり。子供たちは影山を交え、歌をうたって遊戯を始めた。

『Ring around the roses (バラの花輪を作ろう)
 A pocket full of posies (ポケットいっぱいの花)
 “Ashes, Ashes” (クシャン、クシャン)
 We all fall down! (みんな倒れちゃった)』

 スキップして輪の周囲を回り、“We all fall down” の時に、キャッキャッとはしゃいで倒れる。
 彼らが歌うその詩は、やはりマザーグース。

「あ、お兄ちゃん!」

 年長の少年がリビングに入ってきたのを見て、ひとりの女の子が声を上げた。やんちゃな顔つきのこの少年が、オルセンの息子だろう。

「バッカだなー。それ、ペストが流行った時の歌なんだぞ。そんなんで遊んでたら、みーんな病気で死んじゃうかもな」

 そう言って、少年は意地の悪い表情を浮かべ鼻を鳴らした。
 途端に妹はべそをかき、こわいよ、と他の子供たちも泣き出す始末。

「大丈夫だよ。病気になんかならないって!」

 影山は、彼らを宥めるのに忙しい。

(やれやれ……)

 そのまま二階へ上がりかけた少年を、矢車は首根っこを掴んで引き止めた。

「待て。お前、妹たちをいじめて楽しいのか」
「何すんだ、放せよ! 誰だよ、お前!」

 見たことのない日本人にも臆さず、少年は抗議の声を上げる。

「兄貴なら、妹を泣かせるな」
「本当の事教えてやっただけだ。何が悪いんだよ!」
「言ったろ。妹を泣かせることが、だ」

 さすがに子供相手ではきつい態度は取れない。首を放してやると、極力柔らかい口調で諌めた。

「泣かせちゃだめだ、兄貴ならな」

 少年の目の高さまでかがんで、言い聞かせるように諭す。けれど少年は矢車の体を押し離し、バーカと捨て台詞を吐いて階段を駆け上がっていった。『ロンドン橋』の入れ知恵をしたのも、このいじめっ子かもしれない。

 せわしない週末に、矢車はげんなりとした顔で額を押さえる。
 いまだ泣き止まない子らと、懸命に慰める影山の声がリビングから聞こえた。
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