悪魔は夜歩く

悪魔は夜歩く(17)

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影山の夜 第24夜


 ミシマさんがジュネさんと知り合いだったとは驚いたけど、すぐに俺をどうこうしようという気はなさそうだ。ヴァンパイアだということも隠してるようなので、ひとまず俺の白夜行は回避できたのかもしれない。

 久しぶりにママと楽しく話ができたし、兄貴の名字も分かったし、まあ結果オーライ。
 でも右隣に座る兄貴は、なんとなくピリピリした雰囲気で、左隣に陣取ったミシマさんに時折鋭い視線を投げている。

「瞬ちゃんは、ミルクよネ」

 ママがそう言った時、ミシマさんが俺の前にすっとタンブラーグラスを差し出した。

「酒ぐらい飲めなくてどうする。これは、私のおごりだ」
「え、でも」

 ミルクの乳白色とは真逆の、血のような真っ赤な色のカクテル。色からしてちょっと遠慮したいものの、断ったらネチネチいたぶられるに決まってる。
 仕方ないか、と手を伸ばす俺より早く、兄貴が自分の方へグラスを引き寄せて。声を掛ける間もなく、一気に飲み干し、空になったグラスをテーブルに置いた。

「きみにやるとは言ってないが」
「影山には無理ですよ。明日の勤務に差し障ります」

 代金は払いますから、と兄貴はミシマさんに挑発的な目を向ける。

「エル・ディアブロ……『悪魔』。テキーラですね」
「そうだ」

 二人の会話は暗号みたいよく分からないものの、とりあえず激しい火花がビシバシ散っているのは感じ取れた。
 ミシマさん相手に渡り合うなんて、さすが兄貴だ。
 そんなやり取りを横目に、ママが切なげに溜息をつく。

「なんだか妬けるワ。あの二人、お互いのことをすごく認め合ってるワね」
「そうなの?」
「そうヨ! 私には分かるの」

 悔しいワァ、なんて、ハンカチをギリギリ噛み締めるママを見ながら、そうかなぁ、と俺は首をひねった。
 ミシマさんが俺の元上司でヴァンパイアだという事は兄貴に話してあるが、実際会うのは今日が初めてのはず。Sなミシマさんはいつもの事として、兄貴がむやみに挑戦的な気がする。

「そろそろ行くぞ、影山」
「えっ、もう?」
「明日も遅刻する気?」

 兄貴に指摘され、うっ、と言葉に詰まる。遅刻の前科がある俺は、何も言い返せない。
「また来るよ」とママに挨拶しているうちに、兄貴が支払いを済ませていた。

 兄貴の背後から、薄ら笑いを浮かべたミシマさんが声を掛ける。これは、絶対何か企んでそうな顔。

「飲んだのに、車か」
「あいにく、俺は酔わないので。アルコールチェックしてくれても結構ですよ」

 ミシマさんをドア越しに一瞥し、兄貴は店を出た。俺はその背を慌てて追いかける。
 なんだか、兄貴の様子がおかしい。

 飲んでもアルコールは検出されない、と言い切った兄貴が、車の運転席に座った途端、額を押さえて俯くので、ますます心配になった。

「大丈夫、兄貴?」
「影山……」

 兄貴はハンドルに頭を乗せたまま、息を荒げている。

「人間のライフエナジーを吸い取った時、どんな気分だ」
「どんな、って……」

 いきなり思いも寄らない事を聞かれ、俺は戸惑った。

「すごく気分が高ぶる、っていうか」

 その感覚を思い出しつつ答えた。最近はずっとご無沙汰だったけど、言ってみれば、それはマヤクに近い。ひどくハイになって、魔物の血が騒ぐ。

「……もし、人間がそれを摂取したら、どうなる?」

 顔を上げた兄貴は、酔ってるんじゃないかと思うほど、火照った顔に玉の汗を浮かべていた。
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