悪魔は夜歩く

悪魔は夜歩く(18)

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矢車の夜 第25夜


 体が疼いて、ひどく熱かった。
 テキーラのカクテルごときで俺が酔うはずはなく、ミシマがあの酒に何か盛ったとしか考えられない。ミシマがライフエナジーのサプリを常用していると、以前影山が話していた。

 もし、人間がライフエナジーを飲んだとしたら。

「そんなの分かんないよ。だって、できるわけないもん」

 影山の答えは正論だ。普通のヴァンパイアは、人間の首筋に牙を立て直接ライフエナジーを吸い取るものだから。
 だが、ミシマのように吸い取ったライフエナジーをサプリにしてあれば、いつでも誰でも摂取できる。

「チッ!」

 クラッチをつなぎ、アクセルを開ける。車を急発進させる俺に、影山は慌てふためいた。

「あ、兄貴っ! ほんとに運転大丈夫?」
「安心しろ、ちゃんと送り届けてやるから」

 ライフエナジーは麻薬のようなもの、と影山は言う。

 異常なほどの体の火照りが鎮まると、今度はやけに気分がハイになってきた。酒に酔ったというより、アッパー系ドラッグでトリップした感じに似ている。
 鼻歌まで歌い出しては、さすがに影山もおかしいと思ったらしい。

「やっぱり、どこかで少し休もうよ。ね、兄貴」
「休憩か。三時間6200円のところでいい?」
「お茶飲むぐらいで、なんでそんなに高いんだよっ」
「この辺りの相場だが」

 影山との間に微妙な認識のズレがあるものの、別に今に限ったことじゃない。目指す建物に向けて、俺はアクセルを踏み込んだ。
 しかしその加速より速く、俺の車の横を一台のオートバイが追い抜いていった。開け放った窓から、勢いよく風が流れ込んでくる。

「いい度胸だ」

 赤い車体のバイクは、ますます俺の闘争心をかき立てる。

「何人たりとも俺の前は走らせない!」

 どこかのレーサーが乗り移ったかのような台詞を吐いて、俺はギアチェンジする。
 哀れな影山はもうマグロ状態、もとい、まな板の上の鯉。

「安全運転で、ね」

 胸の前で十字を切る影山に、いつからクリスチャンになったんだとツッコミを入れることもできない。
 それほど俺は、目前のバイクに意識を集中させていた。

 一気に飛ばしてバイクの横に並ぶ俺の意図を、相手のライダーも気付いたようだ。挑戦を受けるとばかりに、フルスロットル。
 夜更けとはいえ、都心の大通りで赤信号も速度制限も無視して、カーチェイスを繰り広げる俺たちを見過ごすほど、警察も無能ではなかった。

「そこのバイクと車、止まりなさい!」

 交通機動隊の白バイが停止を求めてくる。

「……どうする、兄貴?」
「しっかり掴まってろ!」

 白バイの制止を振り切り、俺は狭い裏道に滑り込んだ。赤いバイクの方も、大人しく捕まるつもりはないのか、速度を上げて突っ切っていく。

(勝負はおあずけだな)

 スピードを落とさず、巧みにハンドルを切りながらも、高揚感が抑えられない。この状況を、手放しで楽しむ俺がいる。
 やがてバックミラーに映っていた白バイも見えなくなり、俺は助手席へ目を向けた。影山は唖然とした表情で口をぱくぱくさせている。それがおかしく、思わず声を上げて笑ってしまった。

「さて、今度こそ送ってやるよ」

 ハイテンションのまま、夜遅いというのに少しも疲労感はなかった。
 そうして影山をマンションまで送ってやったところまでは覚えている。けれど、そこで俺の記憶は途切れた。

 空には、三日月が意地悪く笑っていた。


※違法ドラッグはいけません。交通ルールは守りましょう。
アブナイ話なので、注意書きです。念のため(--;
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