ファイナル・デスティニー

ファイナル・デスティニー(1)

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 定めの運命からは、誰も、逃れられないのだろうか
 悪意も慈悲もなく、ただそれは、神の摂理





 晩夏の涼やかな風が、ゆるやかに髪を揺らした。
 傍で心地良さそうに影山が寝返りを打つ。屋外の土手で熟睡できる相棒を羨ましく思いながら、矢車は深い溜息をついた。

 ZECT解体後、早くも半年。影山は定期的にワーム化抑制治療を必要とし、白夜の国行きは保留となった。戦う相手もやるべきことも見いだせないまま、二人は以前と変わらない日々を送っている。

(何やってるんだ、俺は)

 自分たちばかりが取り残されたようで、無為に過ごす時間に次第に虚無感が募っていく。
 天道と加賀美はそれぞれに自分の道を歩み、他の面々も新しい人生を見つけた。なのに、矢車たちは一歩も前へ踏み出せていない。

 もし、“あの時” に影山が死んでいたら、今頃どうなっていただろう。一人で白夜の国へ行ったのか、あるいは相棒の後を追い、この世に別れを告げたのか。
 とめどなく展開していく空想に、矢車は自嘲した。

 過去の事をあれこれ思っても仕方がない。と言って、これから先どうしたらいいか分からなかった。

「相棒、そろそろ起きろ。飯、食いに行くぞ」

 影山の頬を軽く叩いて、目を覚まさせる。声を掛けただけで起こせないのは、立証済みだ。

「ふぇ……?」
「よだれ拭け、よだれ」
「飯って、どこへ?」
「例のところだ」

 寝ぼけ半分の影山を促し、土手沿いの道に上がった。

『ビストロ・ラ・サル』、その小洒落たイタリアンレストランは、二人にとって過去とつながる唯一の場所だった。
 店の経営者はあまり流行に流されない性質なのか、内装も外装も一年前とほぼ同じ。変わったのは、いくつか新しいメニューが追加されたことと、天道の義理の妹・樹花がこのレストランで働き出したことだろう。

 さほど客の入っていない店内で、矢車たちはいつもの窓際のテーブルに着いた。
 せわしなく人の行き交う通りを眺めながら、ぼんやりと一年前を思い出す。

「……加賀美はどうしてる?」

 カルボナーラのパスタセットを運んできた天道の実の妹・ひよりに、矢車は尋ねた。彼女の横から、手際よくサラダをテーブルに置くのは、天道の義理の妹。

「相変わらずさ。警察官の仕事も、板についてきたし」
「そうか、平和なもんだ」

 その呟きに含まれた棘を、まだ二十にもならない樹花が敏感に感じ取った。

「お兄ちゃんたちだって、色々大変なんだよ。ZECTの人のお悔やみが続いて」
「お悔み?」
「お兄ちゃんたち?」

 矢車と影山が同時に問い返す。

「お兄ちゃん、って。天道、日本に戻ってきてるのか」
「うん、一週間前に。でもずっと忙しくて、家にはいないけど」

 樹花の言葉に「ふーん」と頷き、影山はスプーンの上でパスタを巻く。

「お悔やみって、誰か死んだのか」

 食べるのに夢中の影山と交代し、今度は矢車が聞いた。

「元ZECTの医師が二人亡くなった」
「……ワームか?」
「事故死だ」

 その件は、あくまで内輪の話。無暗に話していいものか、ひよりが迷っていると、樹花があっさり告げた。

「なんかね、変死だったんだって」

 周囲に聞こえないよう声を潜め、樹花は食事中にはふさわしくない惨状を口にした。
 一人は機器に感電して黒コゲ、もう一人はエレベーターに挟まれ首がもげた、と身振り手振りを交えて語る。事故ではあっても、不審死のため、警察とZECT関係者で内々に調査が進められているとのこと。

 やがて客が増え始め、ひよりと樹花は厨房とテーブルの間を忙しく行き来し、話は中断となった。
 黙々と食事を続ける矢車を横目に、影山はげんなりと肩を落とす。

「……よく食べれるね、兄貴」
「お前の方が先に食ってたろうが」
「あんな話聞いたら、食欲なくなっちゃうよ」

 そう言って顔をしかめて見せるものの、影山の皿はきれいに空になっている。

「ZECTの医師って、俺たちの知ってる人かな……」
「かもな。加賀美や天道に連絡が来たんなら」

 考えつつフォークを置いた時、外からオートバイのエンジン音が響いた。
 店の前でバイクを止めた男が、片手でハンドルを握り、シートに跨ったまま店の様子を窺っている。フルフェイスのヘルメットをかぶり顔は分からないが、おそらくそれは見知った人物だ。

「出るぞ、相棒」
「え、デザートは?」

 メニューを吟味していた影山を引っ張り、急いで勘定を済ませる。
 外へ出ると、矢車はブーツの靴底をバイクの前輪に力任せに押し当てた。

「よぉ」

 低い声で呼び掛けると、男は一瞬驚き、仕方なさそうにエンジンを切る。

「バカ兄弟か。何の用だ」

 憎まれ口を叩いてヘルメットを取る天道は、以前と変わらない不遜さだった。



※『白夜行』その後の別バージョンです。


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~ Comment ~

>通りすがりのカブトファン様 

コメントありがとうございました。
最近なぜか、天道サマの出番が多いのは以前よりは書くのに慣れてきた、のかしら・・・(^^;
「ファイナル~」でのあの描写は、映画版設定をちょこっと流用しただけですので、決して加賀美⇔ひよりではないです。
続きがいつ書けるか分かりませんが、天道や加賀美を絡めて、シリアスでいきまっす(^^)
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