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悪魔は夜歩く

悪魔は夜歩く(23)

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影山の夜 第32夜


 薔薇の棘で血まみれになった兄貴の左手が、ひどく痛々しかった。
 ライフエナジーは麻薬みたいなもので、一度中毒になると、なかなか止められない。でも人間を襲うことが難しくなってきたこの時代、ライフエナジーを絶とうとするヴァンパイアも多い。

「ライフエナジーガムとかパッチとか、グッズも色々出てるんだよ。試してみる?」
「断る」

 俺の提案に、兄貴はきっぱり即答した。辛い禁断症状を、これからもこうやって一人で乗り越えるつもりかもしれない。
 なんとかならないものかと考えながら、手当てのために入った医務室には、先客がいた。

「よぉ、矢ジロー! やっと検査する気になったか」

 田所さんの明るい声が、俺たちを迎えた。たった今注射を終えたところらしく、腕まくりをして上腕に脱脂綿を当てている。

「田所さんは、どうしてここへ?」

 あんなに元気そうにしてたのに、あまりにも意外で驚いてしまう。

「いや何。もし、矢ジローがHIVなら、俺も危ないと思って、念のために採血をだな」
「誤解を招く事は言わないでください。万が一、俺がHIVでも、田所さんは絶対確実に安全ですから」

 田所さんを安心させようとしているのか、力強く断言する兄貴。

「それから、俺が矢車だと、影山に知られました。もう、普通に呼んでくれていいですよ」
「何、そうなのか!?」

 兄貴の言葉に、田所さんが物凄い形相で俺の方を振り向いた。
 せっかく『ヤジロー』という呼び掛けに慣れてきたのに、と残念がる田所さんだけど、いつの間に、ジローからヤジローになったんだろう。

 医者の姿はなく、ともかく棚から包帯と傷薬を取って、兄貴を椅子に座らせた。

「怪我をしたのか」
「見ての通りです」

 兄貴と田所さんの間にシラッとした空気が流れる中、俺は兄貴の掌に消毒薬をつけた。
 ちなみに、ポビ●ンヨードという、なんだかドラクエのモンスターみたいな名前の消毒薬は実在する。

「……禁断症状って、苦しいでしょ」
「まあな」

 尋ねる俺に、兄貴は短く返す。

 俺は人間を襲って成功したためしが自慢じゃないが滅多にないので、ライフエナジーを摂らないことに慣れてる。かっこよく言えば、禁断症状を克服した状態。
 ライフエナジーは高級嗜好品扱いで、ミシマさんなんてライフエナジーサプリを常用してるんだから、ヴァンパイア間の格差は大きい。

(そうだ、サプリ!)

 古典的に電球マークを付けたいような、素晴らしいひらめきだった。いい考えを思い付いた。

「兄貴! 俺、ミシマさんのところに行って来る。人間を襲わなくても、サプリがあればいいでしょ」
「馬鹿言え。俺はそんなもの、摂るつもりはない」
「いいから、待っててよ。すぐ戻るから」

 善は急げ。包帯を巻き終えると、俺は兄貴に手を振り、医務室を飛び出した。
 明るいうちに空を飛ぶのはちょっと気がひけるけど、そうも言っていられない。ミシマさんに頼んで、サプリを少し譲ってもらおう。

 自分の背の黒い翼を広げるのは、久しぶりの感覚だ。



矢車の夜 第33夜


 俺の制止を振り切り、というより制止に気付かず、影山は外へ走り出た。
 おそらく、まだ勤務中だということも、あいつの念頭にはない。

「ライフエナジーを飲まされたようだな、矢車」

 愕然としている俺に、田所さんが珍しく真面目な表情を見せる。

「禁ライフエナジーグッズで、いいのがあるぞ。今なら、まとめ買いすると、激安超特価でお得だ」
「結構です」

 誰かと同じレベルの販促をする田所さんに、俺は項垂れた。ヴァンパイアの影山はともかく、この人はひどく胡散臭い。

「田所さん、ライフエナジーの禁断症状に詳しいようですね。どうしてです?」
「そ、それはだな……」

 直球で投げた質問が、クリーンヒット。嘘のつけないところは、ある意味、影山と同種だろう。

「それは、以前にも、禁断症状に苦しんだ人間がいたからだ」

 問いに答えたのは、別の声だった。開いたままの医務室の戸口に、天道が腕を組み寄り掛かっている。

「俺が禁断症状を克服できたのは、田所さんの協力もある」
「……まさに、命賭けの覚悟だな」

 天道の意外な告白に、俺は何とも言えない気持ちになった。よもや、その怪しげな禁ライフエナジーグッズとやらを使う人間がいたとは。
 明らかに正規ルートではない、個人輸入代行業者の利用はすべて自己責任。
 しかしグッズの詳細情報を聞くのは後でいい。とにかく影山の方が優先だ。

「影山を追いましょう。田所さん、加賀美にも応援を頼んでください」
「そんなに、あいつのことが心配か」

 天道がさらりと口を挟んでくる。俺は私情を押し殺し、ZECTのハンターとして告げた。

「ヴァンパイアの根城を突き留める、絶好のチャンスだ」
「そうだな」

 思いの外、天道は異論を唱えず頷いた。
 まずは俺と天道と加賀美で、影山を追跡する。準備が整い次第、トルーパーたちを応援に寄越して欲しい旨を田所さんに伝えると、田所さんは威勢よく鼻息を荒くした。

「久々の実戦か。腕が鳴るぞ。矢車、早退届と外出届、どっちを出すんだっけな」
「どちらも不要です……」

 頼んだ覚えは金輪際ないのに、どうやらこの人も来てくれるつもりらしい。
 一抹の不安がよぎるものの、頭数は多い方が良い。
 
「あいつの居場所は分かるのか」
「影山には、GPS付きの携帯を持たせてある」

 尋ねる天道に、俺はポケットから小型受信機を取り出して見せた。
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