悪魔は夜歩く

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影山の夜 第36夜


 キャッスル行きのノンストップバスに乗ってみれば、予想通り、中はガラガラ。ローカル路線の赤字分を税金で負担するのだけは、勘弁してほしい。

 でもおかげで、夜になる前に、俺は目的地に着くことができた。
 城には多くのヴァンパイアが住まうが、大家、もとい実質上の城主はミシマさん。中世ヨーロッパのゴシック建築のたたずまいも、ミシマさんの趣味なんだろう。

 日本において異彩を放つ城は、『現在、都合により閉館しております』という立て看板で、うまく世間の目をカモフラージュしていた。

 重い鉄製の扉をギギッと押し開けると、そこは吹き抜けになった大広間。側面の壁には、アンティークなランプが灯り、自分の影がゆらゆら揺れて映る。
 この手の古城にありがちなクモの巣は、週一で来る掃除のおばさんがキレイさっぱり取り払ってくれている。

「よく戻ったな、カゲヤマ」

 赤いカーペットを敷き詰めた階段を、俺の元上司が下りて来る。
 よくあるハロウィンの仮装のように、黒いスーツに、黒いマントをなびかせながら。

 ランプの光が届かない空間には、ざわざわと大勢の魔物たちがうごめいていた。獲物を待ちわびている様子で、たとえて言うなら、注文した宅配ピザを待っている時のようなもの。

(今夜、人間を襲う、とか?)

 なんだかあまりいい予感はしないものの、俺は自分の用事を済ませようと、ミシマさんに向き直る。

「あ、ミシマさん、実は今日来たのは……」
「これが、目的だろう」

 分かっていると言わんばかりに、ミシマさんはポケットからサプリのビンを取り出して見せた。

「初めから、お前にやるつもりだった」
「いえ、その……。兄貴にあげたいんで」

 俺は慌てふためいて首と手を横に振った。
 そりゃ、ちょっとぐらい分けてもらえれば嬉しいけど、代金は兄貴に請求してもらわないと困る。

「それなら、お前もどうだ。味を思い出すようにな」
「え、タダですか?」
「そうだ」

 ミシマさんの甘い言葉に、俺はごくんと喉を鳴らした。
 冷静に考えれば、あのミシマさんが下心なく何かをしてくれたことなんて、一度もない。優しい囁きの裏には、打算がある。

『後悔先に立たず』と、『ただより高い物はない』。
 その日、俺は二つのことわざを学んだ。



矢車の夜 第37夜


 郊外にあるテーマパークの跡地で、影山の発信機が動きを止めた。
 中世ヨーロッパの城を再現した商業施設として建てられたものの、違法建築問題で閉鎖になった場所だ。

「もしや、影山はパークが閉鎖になったことを知らないのか?」
「遊びに行ったわけじゃないでしょう」

 田所さんが首をひねるが、状況から考えれば、テーマパークが魔物の城として再利用されている可能性が高い。

 陰鬱な影を落とす古めかしい居城を目に映し、俺は車を脇道に停めた。
 闇が降り、夜が来る。空に浮かんだ月は、ハーフムーン。

「さっきまでの馬鹿陽気はどうした」
「『馬鹿』は余計だ」

 俺は、口の減らない天道を軽く睨む。城を前にし、嫌な予感が胸に渦巻いていた。

 ポーの小説に出てくるアッシャー家とは、こんな感じかもしれない。壁に走っている亀裂まで、そっくり同じだ。

「まさしく、構造上の欠陥だ!」

 にわか建築士の田所さんが、耐震強度について力説する。この人だけは、城に足を踏み入れた瞬間からまとわりついてくる粘ついた視線に、多分気付いていない。

「なんか、ずっと俺たち見られてるような」
「ああ、魔物の気配だ」

 加賀美も天道も、それぞれに感じ取っている。

「ようこそ、キャッスルへ」

 突然暗闇の中に、聞き慣れた声が響いた。ランプの明かりに浮かび上がったのは、紛れもない影山。
 しかしその姿は、昼間とは違っていた。黒いスーツに、黒いマント。タイを付けていないことを除けば、ヴァンパイアの正装をしている。

「おいおい、影山。ハロウィンは10月だぞ!」

 豪快に笑ってそう言える田所さんは、余程ポジティブに違いない。
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~ Comment ~

>kumiko様 

コメントありがとうございましたv
参考になるかどうかは分かりませんが・・・(^^;
お互い、ブログがんばりましょう♪

はじめまして 

初めて書き込みます。よく参考にしています。これからも遊びにきます☆
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