悪魔は夜歩く

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矢車の夜 第39夜


 他の連中は影山の豹変に驚いているようだが、基本は何も変わっちゃいない。
 最初から、影山は無邪気でそれゆえ残酷な子供と一緒だ。ライフエナジーのせいで、普段より多少突き抜けているとしても。

「取引きしないか、ミシマ。俺は、ライフエナジーが欲しい」

 俺は目線を影山からミシマへ移した。
 まだ俺は、最後の砦を守っている。影山には、俺が魔物だと信じさせておきたかった。

「取引きは、互いに得るものがあってこそ成立する。私が得るものは、何だ」
「……天道だ」

 口の端を上げ、平然と答えて見せた。加賀美と田所さんが愕然と立ち尽くす一方で、天道本人は眉ひとつ動かさない。

「以前、お前は天道を仲間にしようとしたんだろう。なら、もう一度ライフエナジーを飲ませればいい」
「この男が、飲むと思うか」
「飲むさ。弱点を押さえれば」

 ミシマと話を交わす間も、「何故ですか」だの「見損なったぞ」だの、熱血漢二人から非難の声が上がる。

「矢車、お前が友を売るような男だったとは。そうとも知らず、俺はお前に、あんな事やそんな事を……」

 田所さんが苦悶に満ちた声を絞り出した。
 なじられるのは構わないとして、あんな事やそんな事が、どんな事だか気に掛かる。

「矢車さん。天道の弱点て、まさか……」
「お前も知ってるはずだ、加賀美。天道が一番大切にしているものを」

 そうだろ、と俺は首をかしげて問う。天道がZECTを離れた後も、加賀美とは親友同士だったと聞く。

「もしかして、俺ですか!」
「もしかして、俺なのか?」

 加賀美と田所さんが、素晴らしくハモった。よく分からないコンビネーションだ。

「このままライフエナジーを奪って殺すより、お前にとっちゃ、いい提案だと思うけど?」

 溜息をついて、俺は再度ミシマを促した。
 一夜限りのディナーを楽しむか、仲間に引き入れるか。ミシマが取引に応じるかどうかは、五分と五分。

「よかろう。ついて来るがいい、矢車」

 眼鏡を掛け直し、大きくマントを翻すミシマ。俺に手招きする影山とともに、俺はその後に従った。



影山の夜 第40夜


 ミシマさんの鶴の一声で、ディナーはお預けとなった。獲物を前にして食べられないんじゃ生殺しに近いけど、城主の命令は絶対。
 ミシマさんは、ニ階の自室へ向かうつもりなんだろう。城にエレベータはあるにはあるものの、電力不足で動いていない。やたらと長い階段を上るのは、結構しんどかった。

 何を考えているのか、階段を上がりながら、兄貴は腕時計にちらちら目を落としている。

「いい時計だね」
「ロレックスだ」

 話しかける俺に、兄貴は素っ気ない。

「いいスーツだね」
「アルマーニだ」
「……いい靴だね」
「ジョン・ロブだ」

 会話を続ける気がないようで、俺の方を見もせず、ただミシマさんの背中を追う。

「殺すよ、って言ったこと、怒ってるの? 兄貴」
「別に」

 そこでまた、会話が途切れた。
 俺は兄貴の横顔を窺い、あえて口に出さなかったことをこっそり告げる。

「俺が兄貴を殺せるわけないじゃん」
「どうして」
「どうしてって……」

 ふいに聞き返され、言葉に詰まってしまう。まさか、そこで突っ込まれるとは思っていなくて。

「だって、兄貴は魔族の王子でしょ」
「お前……」

 なぜか兄貴が足を止めたのと同時に、廊下の真ん中でミシマさんがこちらを振り向いた。

「茶番は終わりだ。カゲヤマ、矢車を殺せ」
「え?」

 唐突に命じられ、俺は目を瞬かせる。意味不明の超展開にすぐには対応できない。 

「時間が気になるか、矢車。残念だが、この城は現在亜空間にある。ゼクトルーパーは中へ入って来れまい」
「……道理で、連絡がないわけだ」

 ミシマさんと兄貴は、俺の理解が追いつかない会話を始めた。

「小賢しい取引を持ちかけたのは、時間稼ぎが目的だったようだな」

 思い切り悪人面で、ミシマさんがくっくっと喉の奥で笑いを漏らす。
 頭の中にハテナマークが飛び交っている俺は、現状から完全に置いてけぼりを食らっていた。
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