悪魔は夜歩く

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矢車の夜 第41夜


 ハックション、と大きなくしゃみをして田所さんが鼻をすすった。

「冷房の効き過ぎだ」
「いえ、魔物の殺気ですよ」

 身震いする田所さんに、加賀美が訂正を入れる。

「今誰かが助けを求めて、俺の名前を呼んだぞ!」

 激しく勘違い発言をする田所さんに、それは違うと言いたかったが、あいにく俺はその場にいなかった。

「誰かって、矢車さんですか?」

 状況から見れば、正しい推測だ。しかし断じて違う、加賀美。

「矢車の時間稼ぎは失敗らしい。気をつけろ、襲ってくるぞ」

 ヴァンパイアハンター用の特殊な銃・ゼクトガンを手に、天道は合図となる最初の一撃を発した。

(……始まった!)

 階下から響いた銃声に、俺は唇を噛む。一階に残った三人に、ヴァンパイアの総当たりが開始された。ゼクトルーパーの応援を頼めず、どの程度持ちこたえられるか。
 ミシマさえ仕留めれば、他の雑魚は抑えられる。俺はホルスターからゼクトガンを抜き、ミシマに向けて撃った。

 狙いが外れたのは、決して俺の腕が鈍ったからではない。影山が突然、俺の右腕に飛びついてきたためだ。



影山の夜 第42夜


 自分で意識しないうちに体が勝手に動き、俺は兄貴の手から銃をひったくっていた。

 兄貴の撃った弾は、ミシマさんの頬から数センチのところをかすめ、壁に穴を開けた。すると、そこからピシリと大きな音がして、亀裂が壁一面にみるみる広がっていく。
 欠陥があることは知ってたけど、想像以上に安普請。

「カゲヤマ、お前は私に恨みでもあるのか」
「えっ?」

 感謝されていいシチュエーションなのに、何だろう、ミシマさんのこのリアクションは。

「もう少しで、フレームをかすったところだ」

 ややずれた黒縁眼鏡を掛け直して、ミシマさんが睨みをきかす。
 ミシマさんにとって、眼鏡はマストアイテム。もしかしたら、ド近眼で鳥目のために、眼鏡がないとまともに見えないらしいという噂は、案外本当なのかもしれない。

「邪魔するな、影山。こいつは、俺の獲物だ!」

 なんだか性格が崩壊したような台詞を放ち、兄貴がミシマさんに飛び掛かっていく。その瞳は爛々と燃えていた。
 ライフエナジーは、身体と精神にもろもろの変化をもたらす。分かっていても、普段が普段なだけに、兄貴の変わりようはいまだ慣れない。

 兄貴から奪った銃は、俺の手の中。素手かと思ったら、兄貴は刃渡り10センチのダガーナイフなんか握ってるので、銃刀法違反じゃないかと心配になった。
 兄貴が拘置所に入れられたら、差し入れを何にするか悩んでしまう。

 二人の動きは素早く、ヴァンパイアの俺でも目で追うのがやっとで、とても割って入れる間合いじゃない。
 銀のナイフを振りかざす兄貴。鋭い爪と牙で切り裂くミシマさん。飛び散る赤い血は、多分兄貴のものだろう。
 応戦の末、スーツごと切り裂かれ、無数の傷を受けた兄貴は、ミシマさんの手によって頭を床に押し付けられた。

「矢車にとどめを刺せ、カゲヤマ」
「……あ」

 ミシマさんが、俺の持つ銃をくいと顎で示した。
 命令に従わなきゃ、という気持ちと、兄貴は撃てない、という気持ちが、俺の内で天秤みたいに上下する。

「差し入れは何がいい、兄貴」

 相当パニくっていたのか、銃口を兄貴に向けつつ、自分でもよく分からないことを口にしていた。さっきの拘置所のイメージが、まだ頭に残っていたせいだと思う。
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