悪魔は夜歩く

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影山の夜 第44夜


 俺の撃った弾が、ことごとく城を破壊してしまった。田所さんに教えられた通りにしたつもりなのに。
 ミシマさんはさっさと自分だけ逃げ、俺の左遷の話がうやむやになったのは、とりあえず良し。

 けど、早く城から出ないと危ない。頭上から瓦礫が降ってくる廊下を、俺と兄貴は階段を目指して走った。

「まずいな」

 いきなり、兄貴の足が止まった。
 廊下の一歩先では床が崩れ落ち、階下が見晴らしよく吹き抜け状態になっている。走り幅跳びの金メダリストでも、跳び越すのは、まず無理だ。

「捕まって、兄貴!」

 思い出したように、俺は翼を広げた。

「影山。お前、飛べるのか?」
「……俺を、何だと思ってるのさ」

 心底意外そうな目を向ける兄貴に、俺の魔物としての自尊心は激しく傷付く。

 コンクリートの固まりが落ちてくる城内を走るより、一気に窓から外へ出た方がいい。
 兄貴を抱えて空へ羽ばたいた直後、地響きを上げて城全体が崩れていく様を、俺と兄貴は呆然とした面持ちで見守った。





 巨城が、今や巨大な瓦礫の山。
 これを誰が片付けるんだろうと、ぼんやり敷地を歩いているうちに、俺と兄貴は天道たちと合流した。

「矢車さん、影山さん、無事だったんですね!」

 あちこち服が破れ埃まみれの加賀美が、手を振り駆け寄ってくる。天道と田所さんも、無傷でなくとも元気そうだ。

「待て! 矢車はヴァンパイアになってるかもしれないぞ!」

 田所さんがそう言って、加賀美を腕で制した。

「ミシマからサプリを奪うことはできませんでした。俺は、まだ人間ですよ」

 両手を挙げて、降参という仕草をする兄貴。次いで、俺の方を向き自嘲気味に笑った。

「……驚かないのか」
「うん」

 問い掛けに、俺は顔を伏せたまま頷く。

 本当は、兄貴が人間だということは、ZECTの医務室で兄貴の掌を見た時から分かっていた。魔物なら、薔薇の棘の傷など一瞬で治る。
 ミシマさんとやり合った際も、魔物であれば、あれ程傷は負わない。
 ただ俺が、今まで認めたくなかっただけだ。

「ミシマさんに、ライフエナジーのサプリを飲まされたんだろ。だから、兄貴、時々ヘンだったんだ」
「お前に言われたくないな」
「そうだね」

 兄貴に頭を小突かれ、俺はぎこちなく笑みを浮かべる。俺もまた、ライフエナジーではっちゃけ過ぎてたから。

(ライフエナジーは、人間をヴァンパイアに変える)

 人間がライフエナジーを摂取したらどうなるか。以前、兄貴に聞かれた時には思いもしなかったが、今ならはっきり答えられる。

 俺がヴァンパイアになってから105年。でもヴァンパイアとして生まれ育った覚えはなく、気がついた時には、今と同じ姿で魔物として存在し、ミシマさんに仕えていた。

 つまり、ヴァンパイアになる前の記憶がない。
 多分、俺は、兄貴たちと同じように。

「俺も、昔は人間……、だったんだ」

 確信を込めた呟きが、俺の口から自然とこぼれ落ちた。
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