悪魔は夜歩く

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矢車の夜 第45夜


 壊滅とともに、城は通常空間に戻ったらしい。
 周囲に待機していたゼクトルーパーがヴァンパイアたちを手際よく一網打尽にし、根城を失ったショックゆえか魔物たちは抵抗ひとつしなかった。
 しかしその中に、ミシマの姿はない。

 ZECTは、早々に俺たちに撤退命令を出してきた。城の倒壊を周囲に騒がれる前に退けと言う。だが、ここでヴァンパイアの長を逃したら、元の木阿弥だ。

「待ってください! ミシマが見つかっていません」
「上からの指示だ。やむを得ん」

 異論を申し立てる俺に、田所さんは渋い顔で答える。

「わああああああ!」

 突然影山が大声を上げ、上空に向けゼクトガンを撃ちまくった。続けざま四方八方に弾丸が飛び交い、影山を除いた俺たち四人は慌てて身を伏せる。

「ミシマだ、あそこに!」
「影山、とにかく単発に切り替えろ!」

 叫ぶ俺の声は、銃声にかき消されてしまう。

 影山の視線の先を追うと、空の一点に黒い翼が見えた。やがてそこから全身が現れ、異形を形作る。俺たちの目は、空に浮かぶ恐ろしい姿に釘付けになった。

 緑色の巨大なコオロギを思わせる魔物。
 あれが、ミシマの正体なのだろうか。

「ミシマが、俺を、俺たちを……、ヴァンパイアに変えたんだ」

 食い入るような瞳で、影山は翼を広げた魔物を見つめている。
 発砲が止まった隙に、俺は影山の元へ走り、辛うじてその手からゼクトガンを取り上げた。

 かつて、影山は人間として生きていたのかもしれない。その推測は、かなり以前から俺の頭の中にあった。
 生粋のヴァンパイアは、ミシマを含め、ほんの一握り。統計から考えれば、おそらく現存するヴァンパイアの半数以上が元は人間だったに違いない。

「銃を貸して、兄貴! 俺が!」
「影山、待……っ」

 再び奪われそうになった銃を高く掲げ、空いた腕で影山を抑えようとしたのだが。影山に飛び付かれた拍子にバランスを崩し、二人してもつれるように地に転がった。
 途端に、ミシマが大きな翼を垂直に立て急降下してきた。俺と影山を標的にし、鋭い爪と鉤状の触手を伸ばす。

「くそ!」

 体勢を立て直す暇もなく、影山に覆いかぶさられたまま、俺はゼクトガンを構えた。

「いかん、逃げろ!」
「矢車さん、影山さん!」

 ミシマは目に留まらぬ速さで動き、田所さんと加賀美は銃の狙いを定められない。眼前に魔物の顔が迫り、咄嗟に影山を背後にかばった俺は死を覚悟する。
 ところが、鉤爪が触れる寸前で、ミシマの動きが止まった。緑色の魔物が地に倒れ伏す様を、俺は呆然と眺める。

 後頭部に弾痕が穿たれていた。猛スピードで移動する魔物の頭部を、正確に一撃で撃ち抜ける腕を持つハンターは、認めるのは癪ながら、この男ぐらいだろう。

 天道はゼクトガンを手に、氷のごとく冷えた眼差しで動かない魔物を見下ろしていた。

「……借りは、返したぞ」

 その呟きは、俺や影山に向けられたものではない。
 かつての、ミシマとの確執に天道は自ら終止符を打った。

 俺たちに何も語ることなく、天道は踵を返して歩き出す。名を呼びながら、加賀美が後を追い駆けていった。
 この僻地から二人は徒歩で帰る気なのか、と思ったものの、余計な口出しはするまい。

「感動的なエンディングシーンだ」
「まだ、エンドじゃありません」

 半月の下、遠ざかる天道たちの背を感慨無量という面持ちで見送る田所さんとは反対に、俺は憂鬱そうに目を伏せた。

 また、手の震えが始まっている。
 ライフエナジーの禁断症状だ。
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