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悪魔は夜歩く

悪魔は夜歩く(33)

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影山の夜 第46夜


 緑色の魔物に変異したミシマさん、いやミシマは、完全に絶命していた。不死身のヴァンパイアといえど、銀の弾丸は致命的。
 その姿を目にし、俺の胸には恨みや怒りの他に複雑な感情が湧いてくる。
 良き上司だったとは、断じて言わない。それでも、100年余りの間、一番身近にいた存在だったから。

 けど、これですべてが終わったわけじゃなかった。
 天道と加賀美がいなくなった後、今度は兄貴が苦しみ出した。ライフエナジーの禁断症状だ。

「影山、本当に、ミシマからサプリは渡されなかったんだな?」
「もらってません……。サプリはみんな、あの下です」

 田所さんに聞かれ、俺は撤去するのにダンプカー数十台は必要と思われる瓦礫の山を指差した。

「確か、ミシマはサプリの小ビンをポケットに入れてたろう」

 田所さんは、ポケットはどこだ、と言いながら、ミシマさんの体を探る。
 俺には、あの緑色の体のどこがポケットなのかまったく分からない。

「つ……っ」

 兄貴は時折身をよじり、唇を噛みしめて呻きを漏らす。激痛に顔を歪める様は、見ているだけで辛い。俺は何もできないんだろうか。
 いっそ兄貴もヴァンパイアになればいいのに、といけない考えさえ頭をかすめる。

「影山……」
「何、兄貴」

 兄貴の唇が動いて何かを呟く。俺はその口元に耳を寄せた。

「お前の、ライフエナジーを……、分けてくれ」



矢車の夜 第47夜


 もう無理だ、と思った。
 天道と違って、俺には禁断症状に打ち克つ術がない。人間のままで、守らねばならない存在などいない。

「矢車、耐えろ、耐えてくれ! 俺のために!」

 田所さんに懇願されても、それはなおさら無理だ。

「兄貴……、でも、ライフエナジーを飲んだら……」

 影山は戸惑いも露わに目を逸らした。
 人間は、ライフエナジーを吸い尽くされれば死ぬ。だが、ヴァンパイアは死ぬことはない。

「やめておけ! 魔物のライフエナジーは、激マズだ!」

 実家がそば屋の田所さんはやたら味にこだわり、人間のライフエナジーは、まろやかでほんのり甘味があって、喉越しさわやかだと主張する。しかし、この場で人間は田所さんのみだと、考えていないからこそ言える台詞だろう。

「いいの……? 兄貴、ヴァンパイアになっちゃうよ」
「構わない」

 諦めより、むしろ開放感に似た穏やかさが心を満たしていた。

 ZECTに身を置く意味を、俺はずっと考えてきた。魔物と人間、そして己の存在の意味を。
 俺が俺であるために、人間という種族の枠は必要ない。

「いいんだ、本当に。だから……、頼む、“相棒”」

 再度告げれば、影山は「分かった」と頷きを返す。

 苦痛に引きちぎられそうな自らの体をかき抱き、俺は影山の首元に顔を近付けた。ヴァンパイア化を促すように、俺の犬歯は通常よりも長く尖り、ライフエナジーを吸い取りやすい形に変わっていく。
 いっきに5メートルほど後ずさった田所さんの態度は、この際どうでもいい。

 影山が拒まないのを確認すると、その白い首筋に初めて使う自分の牙を突き立てた。
 牙を通じ、脈々と流れ込んで来る生命力。あれほど苛まれた痛みは嘘のように消え、全身を行き渡るライフエナジーに恍惚感を覚える。

「……マズイ」

 しばらくして身を離した後、正直な感想が口をついた。
 影山は、失礼な、と言いたげにむっと眉を寄せるけれど、この不味さは想像を遥かに超えている。 

「どんな味だ?」
「強いて言えば、マヨネーズと味噌とタバスコをミックスして味付けした、納豆というところです」

 おそろおそる尋ねる田所さんに、俺は的確に描写した。口を押さえ呻いているところを見ると、田所さんも味覚に関しては繊細らしい。

「これからどうする、矢車」
「ZECTへ戻りましょう。後の事は、それからです」

 田所さんと影山の気遣わしげな視線に気付きつつ、普段通りの顔で答える。俺は車のキーを上着の内ポケットから取り出し、二人を促した。

 尖った歯は元に戻り、外見上の変化は見られなかった。ただ人でない身は、この先半永久的に生き続ける。
 ZECTを追われることは、必至だ。

 停めた車まで歩いていく途中、影山の様子を窺う。
 いつもうるさく騒ぐのに、先程から妙に静かなのはライフエナジーを分け与えたためか。献血後、だるさを感じるようなものかもしれない。
 俺は悪かった、と一言告げ、影山の顔を覗き込んだ。

「辛いのか、体」
「違うよ。違うけど、兄貴も鎖につながれちゃったんだな、って」

 下を向いたまま、影山が懺悔めいた言葉を口にする。
 永遠という『鎖』。一人なら、おそらくその孤独に耐えられない。

「鎖じゃない。絆、だ」

 力強い口調で言い、影山の背を叩く。
 その日、何かが終わって、何かが始まったことを、俺は心の深くで意識した。
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