悪魔は夜歩く

悪魔は夜歩く(34)

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(ここにもいない、か)

 崩れ落ちた高層ビルや建物を見渡し、俺は溜息をついた。この街にも、生き残った人間の気配はない。
 夜の闇に大きく浮かんだ満月は、昔と少しも変わらないのに。

「……兄貴! こっちは誰もいなかったよ」
「ああ。俺の方もだ」

 右袖だけの黒いロングコートを翻し、影山が駆け寄ってくる。
 同様に左袖だけの黒コートをまとった俺は、ブーツの踵に滑車が付いた片脚をくるりと回し、地面に印を描いた。

「別のエリアを探すか。2キロ先に居住区があったろ」
「えー、今から?」
「文句言うな」

 頬を膨らます相棒に涼しい顔で言う。満月の今夜は、多少無理をしても疲労はたまらない。少しでも捜索の手を広げておいた方がいい。

「ジュネさんのお店、この道沿いにあったんだよ」
「サブの店だろ」

 廃墟となった大通りを示し、影山は懐かしげに目を細める。
 過去は美化されるとはいえ、あれから一世紀以上経った今でも、店のママを美しい思い出として変換することは、俺の脳内ではできなかった。

 影山の背を押して歩きかけた時、腕に付けた通信機がアラームを鳴らした。
 帰還するようにとの、天道からの合図。ZECT本部で何かあったのだろう。

「勝手な奴だ。先々代と一緒だな」

 戻れと命じられた以上、捜索は中断する他ない。軽く肩を竦め、俺たちは車へ向かった。

 現在、ZECTを率いる天道は俺たちが以前知っていた天道ではなく、その血を引く人間。
 かつてヴァンパイアの対抗組織としてあったZECTは、生存者探しと復興のための組織へ生まれ変わった。生き残ったわずかの人間たちをまとめあげ、新生ZECTを発足したのは、奴の力量だ。

 ヴァンパイアの長が倒されて以来、魔物はひっそりと身を潜め、人間を襲うこともなくなった。
 ところが、七年前新たな脅威が空から降ってきた。巨大隕石と、他惑星の生命体。よくよく、人間はついていないらしい。

「明日があるじゃん。明日、やればいいって」
「お前、それ一生できないパターンだぞ」

 真っ先に車に乗り込む影山に苦笑し、俺は漆黒の空を仰いだ。心地よい満月の光を全身で吸収する。
 人間であったなら、とうに尽きていた寿命。長く生きた分、苦しみも哀しみも数多く経験した。

「まあ、長い一生だしな」
「銀の弾丸を食らわなきゃね」

 悪戯っぽく笑って、影山はゼクトガンのトリガーに指をかけてクルクル回す。
 俺はすかさず銃を取り上げ、車のキャビネットに突っ込んだ。安全装置がかかっていても、影山に限って、安全という言葉はあり得ない。

「戻るぞ、相棒。月があるうちに」
「了解、兄貴」

 多くの生物が辿ったように、人間の時代に終焉が訪れようとしているのかもしれない。
 もっとも、俺にとってはそれはあまり大きな関心事ではなかった。

 どんな最期を迎えても、後悔だけは決してしない。
 それだけで十分、自分の生は甲斐があったと思えるのだから。
 

 END
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