白夜の果てより愛してる

白夜の果てより愛してる(1)

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 太陽の出ている時間がほとんどなくなった、冬のノルウェー。

 仕事を終えてアパートに戻ってきた俺は、暗い部屋の明かりを点けた。
 いつも出迎えてくれる影山の姿が、今日は見えない。

(そういえば、今夜はシッターのバイトがあると言ってたな)

 理由が分かると、さして気にも留めず、俺は夕食の準備に取りかかる。
 買ってきたラム肉とキャベツで、フォーリコールを作るつもりだった。ノルウェーの伝統的シチューを、若干アレンジして。
 相棒が戻ってくるのはまだ先なので、じっくり煮込む時間はありそうだ。

 腕まくりをしてエプロンをかけて、テレビをつけたままキッチンに立つ。
 旦那の帰りを待つ新妻のようだ、と同僚にからかわれることも、無きにしもあらず。むきになって否定するのも馬鹿らしいので、言いたい連中には、勝手に言わせておく。

 コトコトコト、と心地よく音を立てるシチューパン。焦げ付かないよう鍋をとろ火にして、ソファーに身を沈めた。
 実に平和で、しかし変わり映えのない毎日。

「兄貴っ! ねえ、聞いてよ!」

 いきなり静寂と程遠い派手なドアの開閉音がして、影山が騒々しく部屋に駆け込んできた。
 知らないうちにウトウトしてしまったことに気付き、俺は慌てて身を起こす。

「しまった、鍋!」

 キッチンへ走り、急いで鍋の蓋を開けてみれば、まだ水分は残っていた。IHクッキングヒーターでよかったと、ほっと息をつく。

「なんか、所帯じみた兄貴って、ヤなんだけど」
「俺だって、好きで所帯じみてるわけじゃない」

 エプロンで手を拭きつつ、お前にだけは言われたくないとばかりに相棒をジロリと睨んでやる。
 時計を見ると、夜の8時を回っていた。

「で、何が、『聞いてよ』 なんだ?」

 相棒に皿を並べさせながら、俺は先程の言葉の続きを促した。
 フォーリコールは煮汁がやや少ない感はあっても、申し分のない出来だと思う。決め手は、地中海風アレンジを加えた雑穀米だろう。

「ブロースさんとこにさ、ワームがいたんだよ、ワームが!」

 相棒の言葉で、ぬるま湯のようなゆったりした時間が、いっきに凍りついた。
 ガタッと椅子から腰を浮かせた俺に、相棒が平然とした顔でスプーンの先端を向ける。人を箸で指すな、いや、スプーンでも同じだ。

「落ち着いてよ、兄貴。そっちのワームじゃなくて、別のワームだってば」
「別?」

 言いたくなさそうに、相棒はスプーンでライスを掬った。

「ほら。あの白くって、ウゾウゾした……」
「分かった。もう言うな」

 俺は額を押さえ、手で制止を示す。
 食事中には触れたくない話題だった。フォーリコールに白い米を入れるんじゃなかったと、ひたすら後悔する。英語では、あの白いものも、確かにワームに違いない。

「まあ、だが……、ワームなんて珍しいな」
「だよねー。なぜか、家の窓一面にベタッと貼りついてたんだよ」

 相棒が語るのは、まるで『悪魔の棲む家』さながらの光景。
 うっかり想像してしまうと、とてもじゃないが食事を続けられそうになく、諦めてフォークを置いた。一方、人を食欲不振に落とし込んだ張本人は、涼しい顔で肉に食らい付いている。

「あれ、兄貴。食べないの?」
「……おかげさまで」
「じゃ、俺もらうね。残したら、もったいないし」

 相棒のこういうところが、計算ではなく天然だからこそ恐ろしい。

「もう俺、あの家行きたくないなぁ。気味悪いもん」

 パンを頬張り、相棒がぼそぼそと続ける。
 それだけ食欲があるなら問題ないだろう、と言ってやりたかったもののなんとか堪えた俺は、我ながら人間ができてきたように思う。



※タイトルの「より」が"from"か、"more than"かは、お好きに解釈してくださいませ(^^;
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