白夜の果てより愛してる

白夜の果てより愛してる(2)

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「兄貴、今度は黒いヤツだよっ。リュングさんとこで!」

 相棒の言葉に、俺はデザート用に作っておいたプルーンのコンポートを前にして、がっくりとうなだれた。
 言った本人は平然と生クリームをたっぷりかけたプルーンを口に運んでいる。どうしてこういつも、絶妙のタイミングで言うのか。

「……うまいか?」
「うん! すっごくおいしい」
「じゃ、全部食っていいぞ」

 もともと甘い物はあまり好きじゃないのに加え、相棒の出した話題が俺の食欲を根こそぎ奪ってくれた。

「あのさ、明日もリュングさんちに行くんだ。少し持ってっていいかな」
「別に、いいが」

 俺の許可を得ると、いそいそとコンポートをタッパーに移す相棒。
 リュング家は、ダブルインカムで両親とも働きに出ているため、相棒がよくシッターを頼まれる得意先のひとつだった。けれど、日曜日に子守りとは珍しい。

「明日はシッターの仕事じゃないよ。アレが大量発生したから、害虫駆除」

 プルーンを食べながら、あの黒いヤツ、と相棒が再度強調するので、言わなくていい、と俺はジェスチャーで示した。

(害虫、ね)

 テーブルに頬杖をつき、俺は安アパートの壁に視線を走らせる。

 冷静に考えると、腑に落ちない。北海道でさえ生息していないあの黒い生物が、極寒のノルウェーにいるとは。
 世界中で異常気象だの生態系の破壊だのが取り沙汰されている昨今、あの生き物も、人間にとってありがたくない何らかの進化を遂げたのだろうか。

「でさ、兄貴も仕事休みでしょ。明日付き合ってよね。ほら、服も揃えたし!」
「は?」

「ジャーン!」ではなく、「タダー!」などと、ガラにもなく英語を使い、相棒が椅子の下にあった紙袋からそれを取り出してみせた。
 グリーンとグレイのツナギの作業服。ご丁寧にキャップ、手袋までワンセットになっている。

「兄貴のも用意したからね」

 にこりと無邪気な顔で、悪魔が笑う。

 俺に手伝わせることを前提に、俺が稼いだ金でこんなものまで買っていたとは、予想の遥か斜め上を行く。しかも、形から入りたがるところは以前と少しも変わっちゃいない。

「……なんだ、この “S&S” って」

 作業服の胸ポケットの上にある社名と思しき刺繍。どこかのチョコレートの商品名をパクったかのようだ。

「兄貴に言うの、後先になっちゃったけどさ。一緒に仕事をやろうと思って、名前考えたんだ」
「お前な……」

 ジャックオブオールトレイズ(なんでも屋)を始めるつもりだ、と相棒は言う。
 真剣な眼差しで告げる、その労働意欲は評価してやろう。だが、勝手に人を巻き込んで、「後先になっちゃった」で済むほど、俺は甘くない。

「やりたきゃ、お前ひとりでやれ。俺は無関係だ」
「えー、だってせっかく俺たちの名前の頭文字付けたのに」

 SとSは、想と瞬の意味らしい。これは多分、昔観た某ドラマに影響されたに違いない。
 冷たく突き放すと、相棒は泣き出さんばかりの表情で懇願してくる。口を閉ざしたままの俺に、「週末だけでいいから」だの、「謝礼はちゃんともらえるから」だのとしきりに粘る。

(やれやれ)

 結局は折れてしまう自分に辟易しつつ、俺は心の中で溜息をついた。

「最初のSは、どっちのSだ」
「へ?」
「俺か、お前か」

 せめてもの反撃代わりに、意地悪く尋ねてみる。想&瞬なのか、瞬&想なのか、この際はっきりさせておきたい。
 出演者の名前のどちらが初めに表示されるかで大きく差が付く、この業界。

「そ、そりゃ、兄貴のSが最初に決まってるじゃん!」

 妙にひっくり返った声で答える相棒は、Sと聞いて、別の意味を連想したとかしないとか。
 ちなみに、俺はSでもMでもどちらでもない。
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