白夜の果てより愛してる

白夜の果てより愛してる(3)

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 夏は白夜、冬は雪、と白のイメージがある北欧で、この黒い生き物の存在はまさに驚天動地。
 それが大量にシンクの付近から湧いてくるのを目にすれば、ノルウェー人でなくてもパニックだろう。

「こんにちは。S&Sでーす」

 相棒は明るい声で告げ、玄関のベルを鳴らす。いつの間にそんな広報活動を行っていたのか、『S&S』がすっかり社名として定着していることに俺は眩暈を覚えた。

 害虫駆除のため訪れた俺と相棒を、リュング夫妻はおろおろしながらキッチンへと案内する。
 生まれてこのかた一度もお目に掛かったことがない黒光りした生物が、三日前突然発生したのだと顔面蒼白でつらつら語った。

「こういう時こそ、日本人の腕の見せどころだよね!」

 意味不明のはりきり方をする相棒は、某日本メーカーの駆除剤を片手に仕事をこなしていった。
 家屋は、少なくとも俺たちのアパートよりはるかに立派で、害虫が出てくる要因は見当たらない。そもそも、こんな冬場のノルウェーに現れること自体おかしいのだが。

「俺たち日本人なんで、こういうの慣れてますから。また出て来たら、呼んでください」

 駆除を終えた後、相棒はアフターサービスとして夫妻にホウ酸団子の作り方を懇切丁寧に教えていた。
 果たして自慢できる事柄なのかどうかはさておき、俺たちにとって、その黒いものが未知の生物でないのは確かだ。

「スゴイや、シュンがやっつけちゃったの?」

 十歳になったばかりのリュング家の息子が、興奮気味に駆け寄ってくる。

「当然。俺と兄貴は、ワーム退治のプロだもん」

 そう言って、相棒は昨日のプルーンのコンポートをタッパーごと少年に渡した。

「兄貴が作ってくれたんだ。おいしいよ」

 少年の頭を撫でる相棒の姿を微笑ましく眺めていると、

「この前シュンが教えてくれた算数、間違ってて、恥かいたんだからね!」
「だから、そのお詫びだってば。日本とノルウェーじゃ、算数の答えも違うんだよ」

 と、あまりにも情けない会話が交わされ、俺は肩を落とした。やはり、相棒は相棒だった。

「けど、あんな虫初めてみた。標本にしとこうかな」
「やめとけ」

 目を輝かせる少年の言葉を俺は即座に全力で否定した。純粋な気持ちを無下にするのは心苦しいが、その知的好奇心はどうか別のところへ向けて欲しい。

「ラーズのとこもアルのとこにも出たって言っててさ。みんなびっくりだったよ」
「大量にか?」
「もう、真っ黒になるくらいウジャウジャって」

 プルーンを食べながら答える少年の無頓着さは、相棒と、いい勝負。子供の順応力というのは、すさまじい。

(変わった事が多いな、最近)

 俺はなんとなく引っかかりを感じ、記憶の糸を手繰る。

 先日の新聞には、東京の空でオーロラが観測されたという記事が踊っていた。本来なら起こり得ない現象で、専門家も原因については調査中とのこと。
 渡り鳥が渡りをしないだの、海水温度が急激に上昇しただの、地球環境の異常が連日のように報道されている。

(地球が静止する……か)

 宣伝されていた映画のタイトルが、頭にふっと浮かぶ。しかしそんなものは、あくまでフィクション。

「この分だと、まだまだ害虫退治の需要ありそうだよね」

 ほくほくと銭勘定をする相棒に俺は苦笑いする。これが、現実だ。
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