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白夜の果てより愛してる

白夜の果てより愛してる(4)

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 Godt nytt år。
 この文字化けしたようなスペルは、ノルウェー語の “A happy new year”。

 S&Sコーポレーションは、害虫駆除の需要の拡大により、昨年度飛躍的な成長を果たした。
 これに伴い、当初の見通しより来年度の業績予想を大幅に上方修正し――と、そんなことはどうでもよく、要は俺の週末は、ほとんど害虫退治のためにつぶされてしまった、ということだ。

 毎週毎週、白い物体や黒い物体と対峙していると、次第に気が滅入ってくる。
 俺の世界は、すっかり白黒のモノトーン。

「けっこう儲かったねー。今度は、俺が兄貴をフィヨルドツアーに連れてってあげるからさ」

 相棒は上機嫌で、エクセルに伝票を打ち込む。
 利益の半分は純粋に俺の取り分だと思うのだが、あえて指摘する気力もない。

「あ、でも株主に配当金渡さなきゃ」
「株主? 誰だ、そりゃ」

 伝票の束をファイルに閉じる相棒を見ながら、俺は自分用のノートパソコンを開いた。

「筆頭株主は田所さん、それと加賀美や岬と天道。あとは、ボーヒネン・ラボの知り合い」

 駆除剤とか備品とか、結構お金がかかってさ、と相棒はしらっと暴露する。
 俺の給料だけであそこまで揃えられるわけはないと思ったら、出資者がいたらしい。よもや、日本とノルウェーを跨いだ株式会社だったとは。

 配当金いくら渡せばいいのかな、などと俺に尋ねてくる相棒には答えず、俺はキーボードを叩いた。
 これ以上続けたら、『地獄兄弟が簡単解説! 株式法』だの『地獄兄弟のやさしいFX投資入門』だのという話になってしまう。
 返事がない俺の様子を窺いつつ、相棒がそろそろとパソコン画面を覗き込んできた。

「……メール? 誰から」
「加賀美」

 短く告げて、俺はメールに目を走らせる。あいにく、期待したような内容は書かれていない。

「加賀美とメアド交換なんてしてたんだ、兄貴」
「警察関係者の加賀美なら、いろいろ情報を持っていそうだからな」
「『明けましておめでとうございます(^-^ )/ 』だって。顔文字多っ!」
「こら、勝手に読むな」

 画面に張りつく相棒の顔を、俺はぐいと押し退けた。ついでに、俺の中の人のことがあるので、顔文字について言うのはタブー。

「やっぱ年賀の挨拶は、メールよりハガキじゃなきゃ」

 もちろんお年玉付きのやつで、と相棒は強調する。

「1等は、ペアで行く有名旅館・ホテル国内旅行プランだよ。 いいなぁ、ペアだって」

 せいぜい4等の切手シートぐらいしか当たったことがない相棒はうっとりと夢に浸る。
 第一、俺たちは今北欧にいる。年賀ハガキの当選賞品なんてローカルな情報を持ってきて、どうしろと言うのか。

「ってことで、兄貴、どこ行きたい?」
「は?」
「トロムソは、オーロラ観測できるって」

 唐突に相棒が、旅行パンフをずらりと取り出して見せた。つまりは、どこかへ遊びに行きたいという、やや苦しい前フリだったようだ。





「さ、寒いよ、兄貴。寒すぎるよ」

 一切状況説明のないままそう言われても、何の事か分からないのは、俺だけじゃあるまい。

「兄貴のおやじギャグが寒い」
「適当な事言うな。極寒の北欧だ。寒いに決まってる」

 じろりと冷たい視線を向けると、相棒は手で口に蓋をした。とにかく外気温はマイナスで、非常に寒い。

 そもそも、旅行を計画した相棒が、トロムソでオーロラを見たいなどと言い出すから、雪の降る夜中こうして雪原を歩いている。
 予算の都合で選んだホテルは、オーロラ観測のロケーションからは若干外れていた。オーロラを見るべく徒歩で移動する物好きなど、俺たちくらいなものだ。

「あーあ、カニ食べたかったなー」
「まだ食う気か」

 夕食に入ったレストランで、シーフードサンドイッチを二つも注文しておきながら、相棒の腹はまだ余裕があるらしい。

「目的はオーロラだろうが。見たらすぐオスロに戻るからな」
「えー、せっかくトロムソまで来たのにさ。水族館とか、犬ゾリに乗ったりとかしようよ」

 切々と相棒が訴えるものの、あいにく俺はカニも水族館も犬ゾリも関心はない。
 先程味わったマックビールのほろ酔いは、この寒さですっかり醒めてしまった。いい気分というのは、長くは続かない。

 天気予報では、今日のオーロラ出現確率は70%。
 お出かけの際には、折りたたみ傘を、もといカメラをご用意ください、とのことだった。

「で、どこまで行くのさ、兄貴」
「林を抜ける。その先に、港があるはずだ」

 固い雪を踏み砕いて歩くのに、うんざりしてきたのだろう。疲れ顔の相棒の背を叩き、もう少しだ、と励ます。

「相棒。この間、東京でオーロラが現れたってニュースを覚えてるか」
「うん、あれね。ズルいよねー、日本にいてタダで見れたなんて」
「変だと思わないか」
「タダが?」
「……タダから離れろ」

 相棒に意見を求めても無駄だと諦め、俺は溜息をついた。
 加賀美からのメールにも、オーロラの原因は依然不明と書かれていた。元ZECTの科学者たちが解析に携わっているというのに、分からず仕舞い。

「寒っ。なんで太陽出ないんだよ、太陽!」

 相棒が身震いし、一人で文句を言う。
 服の内側に日本製の某使い捨てカイロをいくつも貼っている上、もこもこに着膨れしていていても、まだ寒いようだ。

「汚してやるんじゃなかったのか、太陽なんて」
「そんな昔のこと、持ち出さないでよ」

 からかい混じりに指摘すれば、相棒が口を尖らせる。

「兄貴だって、うじ虫食っちまえ、とか言ってたのに、うじ虫苦手じゃんか」
「誰が食えと言った! 食わせちまえ、と言ったんだ」

 とうとう相棒は、俺があえて曖昧にしていたあの白いワームの正式名称を口に出した。加えて、その台詞通りを想像したら、吐き気がしてきた。
『妊娠中・食事中の人は読まないでください』と、初めに注意書きが必要なレベルだ。
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