SS・お題

ペイ・イット・フォワード ~笑ってるけど、笑ってない

 ←白夜の果てより愛してる(4) →ホッパーズ復活?
 新年に、行き場所のない俺たちが足を向けるのは、どうしたってこの店で。となると、あまり会いたくない連中と顔を合わせるのも、必然。
 新年会などとほざきながら、貸切り状態のビストロ・ラ・サルに、それでも招き入れられれば、断る理由は見当たらなかった。

 飲んで騒いでと、田所さんを中心に盛り上がる中、未成年者が一人いた。
 その未成年、というより子供は、酒の飲めない影山と先程からくだらない押し問答を繰り広げている。

 天道も加賀美も、そして風間も、口を挟まない。子供同士の会話に首を突っ込むほど、物好きではないから。
 同じく俺も、無視を決め込んでいたのに。

「ねぇ、兄貴も言ってやってよっ。なんで、俺がこいつに、お年玉なんてやらなきゃいけないのさ!」

 ついに、火の粉が俺の方にも飛んできた。

「だから、お金ないなら無理に、なんて言ってないじゃない」
「金がないんじゃなくて、お前にやる義理はない、って言ってんだよ!」

 サルに集まった面々の中で、唯一子供であるゴンが、年始恒例の特権的収入を相棒に見せたことが、事の発端。
 耳に入ってきた話から判断するに、ゴンが金銭をねだっているわけでもなさそうだ。いらないと辞退している相手に、相棒は何を突っかかっているんだか。

「お年玉は何に使うんだ、ゴン?」

 ようやく風間が仲裁に入った。いい加減、切り上げさせようと思ったのだろう。

「使わないよ、貯金するの。将来のために」
「うわっ、しっかりしてるな」

 感心したような呟きが、加賀美の口から漏れる。

 しあわせな子供と、そうでない子供。
 皆が楽しげに笑うけれど、相棒の瞳は笑っていない。なにがお年玉だよ、と顔を背け不貞腐れる。

 子供の頃、相棒がどんな風に生きてきたのか、俺は知らない。
 たとえば自分の昔と照らし合わせれば、心が痛むことのひとつやふたつ誰にだってある。俗に言う、トラウマ。過去から持ち越した負債だ。

「じゃあ、ここは気前よく」

 そう言って、加賀美が財布から抜き出した札は二枚。

「二千円で、気前がいいのか」
「うるさいな! お前も出してやれよ、天道」

 加賀美にじろりと睨まれた天道は、無造作に五千円札をゴンの手に置いた。

「将来のお前にだ」
「ありがとう! 私が大きくなったら、何かでお返しするね」
「……バッカだろ」

 ありふれた微笑ましいやり取りを横目に、相棒の機嫌はますます悪化するばかり。

「だったら、これは俺と相棒から」

 俺は五百円玉を二つ、指でピンと弾いた後、ゴンに放ってやる。もとより、金額で張り合う気はない。
 それでも俺がお年玉らしきものを渡した事実に対し、相棒は信じられないといった顔をするし、他の連中も目を丸くする。

「先送りだ。いつか、こいつの子供にでも返してくれればいい」

 くいと顎で俺は相棒を指し示す。

「あ、うん、分かった。ありがと」

 しばしリアクションできずにいたゴンが口を開くと、周りの時間も流れ始めた。

「ど、どういう意味だよ、兄貴。俺の子供って、何のことさ!」
「あ。今、影山さん、変なこと想像したでしょ」

 真っ赤になって目くじらを立てる相棒に、加賀美が余計な指摘をする。
 そもそも、こだわるところが違うんだが。

「俺が子供作るなんて、いつ言ったんだよ!」
「さあ? それは、俺も知りたい」

 相棒が今度は俺に食ってかかるので、俺はただ苦笑い。

 暗くなる前に、と一足先に引き上げていくゴンと風間。手を振るゴンの姿に、子供の頃の自分が重なって見えた。

 かつて幼かった俺たちから、今現在の子供たちへ。そして彼らが成長した頃には、今度は俺たちのまだ見ぬ子供たちへ。
 連綿と引き継がれていくそれは、形のない “何か”。

「俺まだハタチだからね、全然早いだろ!」
「……まだ、その話続いてるのか、お前は」

 呆れて溜息をついたまま、俺は顔を伏せた。くすりと笑ったことを、相棒に気づかれないように。

 俺が支払った、ささやかな先送りが戻ってくるとしても。
 おそらくこの分では、気の遠くなるほど、遥か遠い未来に違いない。


 END

→お題一覧はコチラ



※お題もあと2話、コンプリートを目指して。
とはいえ、お題タイトルと話が合ってません、これも(--;
関連記事



【白夜の果てより愛してる(4)】へ  【ホッパーズ復活?】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【白夜の果てより愛してる(4)】へ
  • 【ホッパーズ復活?】へ