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白夜の果てより愛してる

白夜の果てより愛してる(7)

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 まるで土産を買い込みすぎた観光客のように、スーツケースといくつもの荷物を抱えて、田所さんはオスロ空港に降り立った。
 エミールの頼みで、半ば強制的に空港まで迎えに行かされた俺と相棒は、まったくいい迷惑。

 できることなら素知らぬフリを通したかったのに、大勢の人間でごった返す到着ロビーで、俺たちを見つける田所さんの目ざとさに絶望、もとい脱帽してしまう。

「いやー、全然変わってないな! お前たちは」

 目を細め、田所さんは俺たちの背を交互に叩いた。

「田所さんこそ、全然アラフォーとは思えないですよ」
「そう褒めるな」

 相棒と田所さんは懐かしげに笑い合っている。果たしてそれは褒め言葉なのか、と問いたかったが、二人の間で会話が成立しているので、深く追及するまい。

「早くラボへ向かいましょう。スタッフが待ってます」

 田所さんの大荷物に目をやり、俺はタクシー乗り場を指し示す。

「兄貴、そっちの大きいバッグ持ってあげなよ。俺、こっち持つから」

 相棒が率先して手伝おうとするので、やむを得ず大きな荷物を持ち上げた。

「すまん。手打ちそばを作ろうと思ってな」
「だから、こんなに重たいわけですね」

 やたらと重量のあるバッグの中身は、そば打ちセット一式だろうと見当がついた。『そば打ちが分かるDVD』なども、付属しているかもしれない。

「安くしとくぞ。お前もひとつどうだ、矢車?」
「ノルウェーへ来たのは、ワームウイルス対策のためですよね」

 確認がてら、念を押す。よもや、家業の販売促進目的ではないはず。
『For Sale』と印刷された宣伝チラシが100部ほどバッグの中に入っているのは、見なかったことにする。相棒と一緒になって、何やら売り込みの相談をしているのも、あえて無視。

「兄貴。S&Sでさ、そばの注文販売始めない? きっと当たるよ!」
「当たるか」

 興奮気味な相棒の提案を、俺は無愛想に突き返す。

「まあ待て、二人とも。俺のためにケンカをしてくれるな」

 田所さんの勘違い発言は相も変わらず健在だった。

「ともかく、研究所へ行く前にコンニャクをくれ」
「コンニャク?」

 田所さんの意図が読めず、俺は首をひねった。

「恥ずかしながら、俺はノルウェー語も英語もさっぱりでな」
「それとコンニャクと、どんな関係が」

 真顔で田所さんに言われ、ますます意味不明になる。

「どんな言葉も翻訳できるコンニャクがあると聞いたぞ」
「……これのことですか」

 俺はポケットから小型のインカムを取り出し、田所さんに渡した。ラボが開発した高性能の自動翻訳機だ。
 断じて、某ネコ型ロボットの秘密道具ではない。誰がそんなでたらめを、と言いかけた俺は、すぐさま情報源を特定した。

「やだな、田所さん。ほんの冗談だったのに」

 やはりお前か、相棒。

「そうか。ノルウェーにコンニャクがあるなんて、変だと思ったぞ」

 そういう問題でもないと思うが、田所さんはおおらかに笑う。

 懐かしくも馬鹿馬鹿しいやり取りに時間を浪費し、腕時計を見れば早くも17時半。食料品店が閉まるまでには、到底間に合いそうもない。





「今夜食べるものない、って。ひどいよ、兄貴!」
「だから、さっきから言ってるだろ」

 時間が押してしまい、今日はもう買い物に行けなくなったと告げた途端、相棒が騒ぎ出した。

 タクシーに乗り込み、田所さんは前、俺と相棒は後部座席という配置がまずかった。狭い車内で、相棒は俺の首を絞めかねない勢いで詰め寄ってくる。

「俺がリクエストしたフィッシュスープ、楽しみにしてたのに!」
「今度作ってやるから」

 すっかり、おさんどんの立ち位置になっている自分自身に眩暈がする。母親と駄々っ子のようなこの会話は何だろう。

「だから、買い置きしとけばいいのにさ。兄貴、いつも新鮮なものじゃなきゃダメだとか、特売まで待つとか言って、その日の分しか買わないんだもん」
「……お前な」

 相手になるのも情けないと思いつつ、そこまで言われれば俺も反論せずにいられない。

「いつも隠れて買い食いしてるお前はいいだろうがな。こっちは、毎日夕飯のメニューに悩むんだ」
「べ、別に買い食いなんかっ」

 図星を指され、ぎくりとする相棒。
 知らないふりをしておいてやろうという俺の親心は、もはや瓦解した。

「食事の前に甘いものを食うな、炭酸飲料ばかり飲むな。脳が溶けるぞ」
「えっ、ほ、ほんと!? 兄貴」
「知らないのか。炭酸は脳を溶かす」
「ど、どうしよう……。俺、飲み過ぎてるかも」

 青ざめて文字通り頭を抱える相棒に、俺は心の中でほくそ笑む。
 タクシー運転手に日本語で話す俺たちの会話は分からないとしても、田所さんには筒抜けだった。

「ははは。 痴話げんかはそのくらいにしておけ」

 後ろを振り返り、大人の態度で笑う。しかし、決して『痴話げんか』ではない。

 とりあえず、今夜は田所さんをボーヒネン・ラボへ送り届け、そこで夕食を取ればいい。
 ラボのカフェテリアは、安くてなかなか美味い。ただ長居をしてワームやワームウイルスの件に関わることになるのは御免だ。
 俺と相棒はもう、一般人なのだから。

「パンピーというやつか」
「それは、すでに死語です」

 人のモノローグにまで、田所さんはコメントをつけてきた。

「矢車、お前たちもウイルス感染の危険があったと聞いたが」
「検査の結果、陰性でした」
「俺も、陰茎だった」

 澄ました顔で相棒は妙な言い間違いを犯している。
 だがその点はスルーし、田所さんは前を向いたまま真面目な口調で語った。

「ネイティブの俺にとって、ウイルスは他人事ではないからな。何か協力できればと思い、ノルウェー行きを志願したんだ」

 本編でもなんとなくうやむやにされた、田所さんはネイティブという設定が、思いがけず今更引っ張り出された。
 人間のために体を張ろうとする田所さんを、俺は少しばかり見直しかける。

「ノルウェーでのそばの販売も、ラボが許可してくれた」
「……結局、そばのためですか」

 田所さんの大量の荷物から察するに、どうやら本格的にノルウェーでそば販売に着手するつもりらしい。
 ワームウイルスの事は、どうでもいいんだろう、多分。
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