トライアングルハーフ

トライアングルハーフ(8)

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 アジトに戻って来るなり、イラついた様子でドレスを脱ぎ捨てる修羅に、織田は目を見張った。
 戦闘服を纏う彼女は、もう女のそれではなく、男勝りの戦士だ。

「どうやら、矢車の懐柔は失敗だったようだな」
「黙れ!」

 ぎりっと強い眼差しで、修羅は余計な口を挟んでくる織田を睨んだ。

「搦め手でいけば堕とせる、と豪語したのは誰だったかな」
「……黙らないと、その口にコイツをぶち込んでやる」

 修羅が銃を装填するのを横目で見ながら、織田はハッと笑う。

「矢車は、何を考えてるか、腹が読めん。もともと俺は、奴を仲間にするのは気が進まなかった。直情型の大和と違って、奴は策士だぞ。ZECTのお偉方と通じてるという噂もある」

 機知機略に富むのは認めるが、と言い足して、苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。

 性格的に合わないのか、織田は矢車に対して、あまり良い印象を持っていないらしい。得体の知れない天道という男をネオゼクトに招き入れたのに、矢車を引き入れることには抵抗を示す。

(しょせん、こいつも単純バカだ……)

 現実が見えていない織田に向け、修羅は心の中で吐き捨てる。
 理想を追う子供じみたネオゼクトの信条よりは、やはりまだZECTの方がマシかもしれない。

 けれど。己の保身のためにも、こちらに矢車を加えた方が得策に違いない。

「……そういえば、矢車が入れ込んでるZECTの新しい見習いがいたな」
「あの矢車が、か?」
「別の搦め手でいくか」

 策を練る修羅の顔を、織田は信じられないと言いたげに見返した。





「……瞬、どこだ!」

 マンションの部屋の鍵は開いていたし、靴もある。いくらなんでも裸足で出歩くことはしまいと思いつつ、俺は大声をあげた。

「ここだよ」

 返事が聞こえたのは、ベランダから。瞬はコンクリートの上にペタリと座り、暗くなった空を眺めていた。
 荒廃した世界を照らす、星々と満月を。

「俺、今日ね、図書館で面白い本見つけたんだ」

 何をしてるのか、と俺が聞く前に、瞬が話し出す。大事そうに本を手にしているが、それは書物というより子供向けの絵本の類。
 瞬を笑うことなどできない。人間社会を学習してまだ日も浅いのに、本に興味を持つこと自体稀なのだ。

「……『たけとりものがたり』?」
「あ、矢車さん、知ってるんだ」
「そりゃ……」
「ロマンチックな話とかは、読まないと思ってた」

 これがロマンチックかどうかはともかく、俺に対する瞬の認識に言葉を失う。
 確かに、間違ってはいないけれど。

(竹取物語、か)

 少し昔を懐かしむように、俺は目を細めた。

「かぐや姫は、人間を別種のものに変える天の羽衣を持っていた。月よりの使者で、地球を支配するためにやってきた異星人……」

 幼い頃、俺はそう信じていた。かなり穿った見方をする子供だった、と我ながら可笑しくなる。
 ずっと昔から、もしかしたら俺は心のどこかで、この世界を変えてくれる存在を待ち望んでいたのかもしれない。

「人間の敵として送り込まれた彼女に、バカな男どもが求婚する」
「……だけどさ。月に帰る時、かぐや姫は哀しそうなんだよ」

 空にかかった丸い月を見上げる瞬は、何を考えているのか。

「かぐや姫は、人間の中で暮らすうちに、人間が好きになったんじゃないかな」

 瞬は、葛藤があるのだろうか。ワームとしての使命と、人間としての生活との間で。
 だが、それは俺の望むところではない。

「月に帰ったかぐや姫が、どうなったか知ってる?」

 瞬に尋ねてみる。もちろん、否定の答えは承知の上。

「えっ、そんなの、本に書いてなかったよ」
「想像してみろよ」
「んー……」

 首を傾げる瞬の鼻先を指差して、わざと意地悪く、俺は言葉を続けた。

「……制裁さ。裏切り者の末路は、いつも」
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