トライアングルハーフ

トライアングルハーフ(10)

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 ZECTの戦闘服を身に付けた連中に、「別の場所で待機しろと矢車から指示があった」と言われれば、瞬がそれを信じても無理はない。
 隊員たちひとりひとりの顔まで、覚えてはいないのだから。

 不審に思う前に当て身を食らい、車に乗せられ、どこかへ連れて行かれた。
 意識を取り戻した瞬がそこまで思い至ったのは、すでに戦闘から数時間を経た後だった。

「……俺……」

 木製の椅子にもたれかかるように座ったまま、周りを見回し、呆然とした。

(ここ、ネオゼクトの……)

 いくら実戦に不慣れでも、自分が置かれている状況ぐらいは把握できる。
 倉庫らしき殺風景な建物の中。開け放たれた小部屋のドアの前に、銃を持った見張りの兵士が立っていた。瞬の傍の椅子に腰掛けているのは、若い男と女。

「やっと、お目覚めか」

 男の方が、瞬の顔を覗き込んでくる。パチクリと瞬きした後、瞬はその2人が誰か、思い出した。
 織田秀成と北斗修羅。ともに、かつてはZECTにいた、反逆者のリーダーだ。

「なんで、俺を……? 俺はZECTの事は何も知らない。見習いなんだから!」

 拘束されているわけでなく、自由に動く自らの手足に、かえって瞬は恐れを感じた。

「分かってるさ。別に、お前から情報を引き出そうとは思っちゃいない」

 面倒くさそうに答えて、織田は再びドカッと椅子に腰を下ろす。

「じゃあ、人質……?」
「あいにく、お前に捕虜の価値はないな。ZECTにとっちゃ、隊員なんざ使い捨てだ」
「……だったら、なんで」

 はっきりしない織田の態度に、ますます募っていく不安。そんな瞬の前にかがんで、修羅が優しげに微笑んだ。

「私たちはね、あなたにお願いがあるの」
「お願い……?」
「そう、お願い」

 いつもの男言葉ではなく、女性の口調で語りかける。

「矢車さんにね、伝えて欲しいの。私たちの仲間になってくれるように、って」





「……部下ひとりを助けるために、隊を動かす、と?」
「そうです」

 努めて冷静に、俺はZECT総帥・加賀美陸に申し入れた。
 三島さんを通さず、直談判を試みたのは、厄介な説明をしたくなかった為だ。総帥は、瞬が何物であるかも知っている。

「影山は、『天空の梯子計画』の鍵です。影山にもしものことがあれば、あなたがワームと交わした密約もご破算になりかねないのでは」
「……確かに。きみの自由にするといい」

 ZECTの頂点に立つ男は、困ったように苦笑する。これが普通の隊員であったなら、俺の要望など歯牙にもかけられないだろうが。
 
 許可が下りるや、すぐさま小隊を集め車に乗り込む。
 織田にやられた脇腹がズキリと痛み、俺は顔をしかめた。応急処置の傷口は、いつ開くか分からない。けれど、構ってはいられなかった。

(瞬……)

 もうすぐ夜が来る。敵地の中という不安定な状態で、瞬が人間としての自我を保てるか。
 その答えは、今の俺には分からなかった。





 瞬に付けておいた発信機で、捕らわれている場所は特定できた。
 小隊を率いて乗り込んだものの、そこはネオゼクトの本拠というより、ただの倉庫に近い。たいした設備も戦闘装備もなく、おそらく時折使う程度の、隠れ家にすぎないのだろう。

 中空には、わずかに欠けた月がかかっている。

「……隊長。ネオゼクトの生存者は、見当たりませんでした」
「そうか」

 部下の言葉にも驚きはない。ある程度、予想はしていた。
 もともと瞬の見張り役に、さして人数をさいていたとは思われない。一介の見習い隊員ごときに戦力を削るほど、連中に余裕があるなら話は別としても。

(織田に……知られたな)

 倉庫内の薄暗いランプが照らすのは、凄惨な現状。
 首の骨を折られた者。鋭い爪で引き裂かれた者。どれも、人間のものではないやり方で命を絶たれている。

 部下が連れてきた瞬を見て、それでも俺はほっとした。戦闘服はボロボロになっていたけれど、瞬は人の姿だった。

「影山、大丈夫か」

 他の部下たちの手前、俺は隊長としての顔で問う。気の抜けた様子で、ぼんやりと見上げてくる瞬。

「俺が、分かる?」
「……う、ん」

 瞬は、たどたどしく言葉をつないだ。

「俺……人間を、殺した、よ」
「らしいな」

 床に転がった数人の遺体は、瞬が言わなくとも、状況を明白に告げている。

「仕方ない。こいつらは、ネオゼクト。俺たちの敵だ」
「でも……同じ人間、だよね」
「ああ」
「なんで、人間同士で、殺し合うのさ」

 何かを言いたげに、瞬は俺の腕をぐっと掴む。

「それが、人間の本能だから」

 そう答えて、俺は射抜くように瞬の瞳を見つめた。
 瞬の本来の使命を、邪魔するつもりはなく、瞬に躊躇わせたくもない。

(お前が、気にする必要はないんだ)

 瞬は、巨大彗星に位置を教える、ラジオビーコンの役割を果たしている。この世界にワームを呼び込み、新世界を創造するために。
 ZECTもネオゼクトも、まもなく終わりを迎え、人間同士の争いはなくなる。
 救世主とも言うべき、ワームの手によって。



※この手の話は重すぎて、我ながら胃がイタイです(苦笑)。
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