トライアングルハーフ

トライアングルハーフ(11)

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「隊長、この遺体は……」
「ワームに襲われたらしい。ZECTに搬送しろ」

 不審げな隊員たちに、たいした事ではないという口調で俺は指示を出す。瞬の事を、部下に説明するつもりはなかった。変に、勘ぐられては困る。
 後始末を部下に任せると、瞬にメットを放ってバイクの後ろに乗せた。

「矢車さ……」
「呆けててもいいが、振り落とされるなよ」

 ニッと笑って、俺もメットをかぶる。

「とばすからな」

 慌てて、俺の腰にしがみつく瞬。その様子はいつもと同じに見えるけれど。
 一刻も早くここから離れるべく、フルスロットルで、俺はオートバイを夜の闇に走らせた。





 ZECTには向かわず、自宅のマンションへ戻る。
 馴染んだ空間が、少しでも瞬を落ち着かせてくれることを期待して。

「ほら」
「……え?」

 いまだ小刻みに震えている瞬の手にマグカップを握らせてやった。湯気を立てるチョコレート色の飲み物の甘い香りが、部屋中に漂う。

「おいし」

 コクンと一口飲んだ瞬の笑顔に、ようやく俺も一息つけた気がした。

「ネオゼクトは、なんで、お前を連れていったのかな」

 頃合を見計らって、柔らかく切り出す。できれば蒸し返したくはないが、聞かないままにしてはおけまい。

「……あの人たち、矢車さんを仲間にしたいって言ってた」
「織田か。修羅も、いた?」

 うん、と頷く瞬に、俺はといえば別段驚きもない。

「酷い事、されなかったか」
「別に……」
「そうか」

 嘘を言っているわけではなさそうだ。明るい部屋の中であらためて確認しても、瞬の体に、暴行を受けた形跡はない。

(バカな女だ。俺を敵に回せば、どうなるか分かってるだろうに)

 浅はかな行動を取った女を思い、俺は口の端を上げる。
 瞬に危害を加えなかったのは、俺の怒りを買わない為。だが、もう遅い。
 ZECTの見習いなど簡単に手なずけられると踏んだのだろうが、あいにく、瞬は普通の人間とは違う。

「織田たちは、どうした」

 倉庫に転がっていたのは、ネオゼクトの下っ端ばかりだった。今後のネオゼクトの動向を頭の中でシミュレーションしながら、答えを待つ。

「……瞬?」

 一向に言葉が返ってこないので、顔を覗き込んでみる。と、瞬の眼は強い意志を宿し、剣呑な光を放っていた。

「俺の、本当の姿を見られたよ。早く殺らなきゃ、きっと……殺られる」

 相容れない、ワームと人間という二つの存在。
 その狭間で、まるで振り子のように、瞬はどちらの側へも振幅を繰り返す。

「お前が手を下さなくとも、どうせ奴らは死ぬさ。もうすぐ」

 明日の天気でも告げるように軽く流し、夕食の準備のためにキッチンへと向かった。
 そんな俺の背後で、瞬が口を開く。

「矢車さんは、俺のこと、怖くないの?」
「怖がる理由がない」
「へ? 何……?」

 瞬が発した間抜け声は、俺の返答に対してではなく、俺が瞬に渡したものに対して。

「ヒマなら、手伝ってくれ」
「……」

 自らの両手に置かれたジャガイモとピーラーに、瞬はきょとんと目を落とした。

「皮むきぐらいできるよな。とりあえず、今すべきことを考えろ」
「……で、これ?」
「終わったら、シャワー浴びてこい。埃っぽいぞ」

 畳み掛けるように告げて、強制的に瞬の意識を日常に引き戻す。
 チェッと膨れつつ、皮むきを始めた瞬に、俺は笑った。

 やがて、ワームがこの世界を支配するとしても。たとえ、人間という種が滅びるとしても。
 瞬を恐れる必要が、一体どこにあるというのだろう。
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