トライアングルハーフ

トライアングルハーフ(14)

 ←トライアングルハーフ(13) →正しい喧嘩の収め方 ~嫌いだけど、好き
 ――すべてが、終焉を迎える。

 始まった銃撃戦。敵味方入り乱れ、鉛の弾が飛び交う。同時進行で、予定通り、一分の遅れもなくシャトルは宇宙へと飛び立った。
 それを確認した俺は、重い荷物を肩から下ろしたような心地で、前線に赴いた。

 ネオゼクトは、俺たちが襲撃を知って備えていたなど、思いも寄らなかっただろう。修羅の裏切りは、見事に織田の予想外だった。

「ようこそ、ZECTへ」

 少し首をかしげる動作で、俺はクスリと笑った。
 俺の姿を認めた織田は、プライドを失わない鋭い視線でねめつける。しかし、今や罠にかかった獲物も同じ。

「……矢車、この裏切り者め!」
「裏切り? なんで、俺が」

 心外だと言わんばかりに、俺は眉を顰める。

「まさか、ワームを飼っていたとはな。悪魔どもに魂を売り渡したのか!」

(ああ、瞬のこと)

 織田の言葉が何を示しているか理解し、俺の口元の笑みが深まった。
 しょせん、織田には分からない。人間の未来のためにこそ、外宇宙の力が必要なのに。
 これが、俺なりの正義。あと数時間もすれば、自ずと答えは出る。

「ひとつだけ、訂正しておくが」

 俺のことは、どう思われても一向に構わないけれど。

「……ワームは、悪魔じゃない」

 きっぱり言い放つと、俺はザビーゼクターをブレスに装着した。





 完全作戦パーフェクト・ミッションが、必ずしも勝利を収めるとは限らない。

 俺と織田の戦闘力、そしてヘラクスとザビーの性能を考えても、俺が一方的に敗れることはあり得なかった。運が良ければ、完全勝利。悪くとも、痛み分けのはずだった。
 あの時、俺の視界に、その姿が映り込まなかったなら。

(瞬……!?)

 戦いの場に現れたのは、ネイティブと呼ばれる一体のワーム。群れることなく単体で向かってきた異形に、ネオゼクトのみならず、ZECTのトルーパーのマシンガンブレードも火を吹いた。

「撃つな! やめろ!」

 声を張り上げた俺の命令は、ZECT側の部下たちには有効でも、ネオゼクトには何の意味もなさない。
 集中砲火を浴びたワームは、膝を折った。

 他の者にとっては、どこから見ても、ただのワームだろう。しかし、俺は気付き、判別できた。それが数日前にいなくなった瞬の、変異した体であると。

(どうして、来たんだ……!)

 今日が何の日か、瞬も知っている。ここが、最後の戦場になることも。

「また、よそ見か。悪いが、今度は容赦しないぜ!」

 織田の声が耳に届いていても、対処する余裕はなかった。
 俺の全ての意識は、倒れて動かなくなるまで銃弾を浴びせられた、瞬に向けられていたから。

「やめろ、殺すな!」

 我を忘れていたのかもしれない。冷静な判断を欠いた俺は、滑稽にも手を伸ばし叫んでいた。
 泣いて訴えれば、聞き入れられるというのならそれでもいい。だが、叫ぶだけでは願いは届かないのが、この世の道理だ。力がなければ、何も叶わない現実。

「殺すな、そいつは……」

 今まで封じていた言葉を搾り出すのと同時に、ザビーとなった俺の胸を、ヘラクスのアックスが深々と切り裂いた。

(……俺の、弟、だ)





 幼い頃、何度も俺は、不思議な飛行物体を目にしていた。そのせいか、異星の存在に対し、恐怖も嫌悪も抱いたことはない。

 なぜ、ワームとの接触が頻繁にあったのか。
 その理由を理解したのは、母が亡くなる直前に告げた、過ぎし日の狂宴。ワームに魅せられ、関係を持った事実を母は俺に告白した。

 母への反発も、安っぽい道徳観念も。当時の俺を満たしていた無為な感情はやがて浄化されていき、代わりに別のものが心に根付き、侵食し始めた。
 それは、“孤独” という、厄介なもの。

 ZECTに入隊後、ワームとの戦闘を義務づけられてさえ、俺の本心は違うところにあった。

『……結局さ。寂しかったんだよね、矢車さん』

 あれほど騒がしかった周囲の音はすべて止み、静寂に包まれた白い空間。暗闇には慣れているが、眩い光には戸惑ってしまう。
 たったひとりの弟は、人の姿で、以前と変わらず、俺の傍で笑っていた。

『そんなことは言ってない』

 否定する俺に、「ふーん」と言いながら、瞬は幸せそうな笑顔を見せる。

『これからは、俺が、一緒にいるよ』
『だから、違うと言ってる』

 人の話を聞いていない相手との問答を続けるのも、馬鹿馬鹿しい。
 俺が反論をやめるのを見計らって、瞬は腕を引いてきた。

『行こう、兄貴』

(兄貴、か……)

 初めて呼ばれた呼称に照れくささを感じつつ、俺は瞬と共に歩き出す。
 ZECTとネオゼクトとワームのトライアングル。俺たちを縛り括っていた枠組みが消失し、鮮やかに融解していく。

 もう何も考える必要はなく、俺は俺自身の本当の願いをようやく叶えることができた。
 今ここに開けたそれが、きっと。

 俺にとっての、完全な世界なのだろう。


 END



※や~っとENDが付けられました。
なんというか・・・KAITOのあれやこれやの歌にかなり影響を受け、消化できないまま文体がすごくカオスになってると自分でも思います(--;
スミマセン、精進します・・・。長らくのお付き合いありがとうございました。
関連記事



【トライアングルハーフ(13)】へ  【正しい喧嘩の収め方 ~嫌いだけど、好き】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【トライアングルハーフ(13)】へ
  • 【正しい喧嘩の収め方 ~嫌いだけど、好き】へ