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正しい喧嘩の収め方 ~嫌いだけど、好き

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 親しい間柄であれば、意見の衝突は頻繁に起こる。
 俺が隊長であり影山が部下だった頃、互いの立場上、喧嘩はあり得なかった。

 兄弟となった今、かつてのような溝はなくなった。
 それでも、俺たちの間に、『喧嘩』はやはり成立しない。





 まったく、馬鹿馬鹿しい。

「兄貴とは絶交だ」と息巻いてアパートを飛び出そうとする相棒に、俺は行くなら行けとばかりに、片手を上下に振った。
 別に俺の方は怒っちゃいないが、相手になるのも面倒で。無言で椅子に腰掛け、窓から外を眺める。

 雨が降る気配もないし、白夜の夏、一晩や二晩の野宿ぐらい平気だろう。
 そんな事を考えていると、ちらちら俺の様子を窺う相棒と目が合った。

「どうした、行かないのか?」

 揶揄するつもりはなく、単純な疑問形。しかし、相棒の気に障ったらしい。

「……もう少し、誠意示そうとか思わないんだ、兄貴は」
「誠意、ね」

 相棒の言葉に、俺はわずかに眉を寄せる。
 理不尽な理由で勝手に突っ掛かって来た相手に、腹を立てず聞いてやっている事自体が誠意だと、こいつは分かっていない。
 けれど、ここで調子を合わせたら終わりだ。

「今晩の飯は、ラボのカフェテリアへ行け。エミールに頼んでおいてやる」
「……余計なお世話だ」
「金、ないんだろ」
「兄貴には関係ない」
「ああ、そうだな」

 そう返しながらも、俺は500クローネ紙幣を数枚財布から取り出すと、相棒に手渡した。
 戸惑いつつも、しっかり受け取る相棒は、相変わらずしたたかだ。

「二度と、ここには戻らないからねっ」
「どこかに落ち着いたら、連絡をくれりゃいい」
「絶対帰らないよ」
「俺の方から会いに行ってやるさ」

 ドアへと向かう相棒の足取りは見るからに重そうで、まるでコマ送りのスローモーション。夜は冷えるぞ、とその背に片袖の黒いロングコートを放ってやる。

「どうして、そんなに優しくするんだよ!?」

 くるりと振り向き、たまりかねたように相棒が叫ぶ。
 泣きたいのか、怒りたいのか。顔を真っ赤にさせた相棒の複雑な表情に満足して、俺は口角を上げた。

「だから、誠意、だろ?」
「……兄貴のイケズ」
「意味が分からないな」

 相棒は唇を尖らせ俺を睨んでいるものの、それ以上は文句を言わない。

「今か、無期延期か、どっちだ」

 あえて相棒に二択を提示する。「出て行く」という前言を、撤回する選択肢は含めずに。

「……無期延期」

 小さく呟く相棒に、俺は心の中で、やれやれと溜息をついた。

 俺から離れたいたら、止めやしない。出て行きたいなら、出て行けばいい。
 “今” じゃない、“いつか” に。

 仲が良いほど喧嘩をすると言うけれど。
 俺の多大な努力とテクニックをもってして、俺たちに喧嘩は成立しない。


 END

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※久々のお題、久々の短編です。
糖分多めなのか、少ないのか(←ビミョー)・・・。
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