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天国への白い夜 ~ほら、こっち来いよ

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 いつもいつも、影山は俺の後を追いかけて付いてきた。ZECT時代からずっと。
 そして、俺のすることをマネる。

 考えてみれば、ザビーの件も裏切りも、俺がしたのと同じ事を影山は繰り返しただけ。結果、俺と同じ地獄に堕ちたことも、当然であり、必然だったのかもしれない。

「兄貴のコート、なんで片袖なのさ」

 俺たちが相棒になった直後、影山にそんな風に聞かれた。

「さぁな。戦ってる時、何かに引っ掛けたんだろう」

 あの頃の俺は、すべてがどうでもよく。破れた袖を直そうという気もなく、面倒なのでそのままにしていた。ただ、それだけの事。
 なのに、影山は俺が渡したもうひとつのコートの左袖をわざわざ切り落とす。呆気に取られる俺に、少しはにかんだ笑顔を向けた。

「なら、俺が兄貴の右袖を受け持つから。兄貴は、俺の左袖ね」

 不合理で意味不明な、影山の言動。また俺のマネをするのか、と眉を顰めたものだった。





 さすがに真夜中、冬のノルウェーは寒い。

 俺は相棒の部屋のドアを静かに閉めると、今は両袖ある防寒コートに腕を通した。
 薄く積もった雪の上に、さらに追加されていく新雪。天からの有難くない白い贈り物は、今夜は降り止む様子がない。
 出掛けるには最悪の天候だった。

 暖房は、眠っている相棒のため、点けたままにしておく。部屋の明かりだけ消そうと、スイッチを探る俺の手に、ふいに別の手が重なった。

「ヒーター消し忘れてる、兄貴」
「……え?」

 驚く俺に、何食わぬ顔でそう注意するのは、今しがた寝顔を確認したばかりの相棒。
 俺の方も多少ぼんやりしながら、窓から外を眺めていたとはいえ。物音も気配も感じさせず、一体いつの間にベッドから抜け出たんだろう。

「寝たフリしやがったな」
「俺だって、ただ兄貴のマネしてるわけじゃないよ」

 仏頂面で見据える俺に、相棒は得意げに答えた。

「兄貴ならこうするだろうな、とか、だんだん分かってくるんだよね」
「……お前に行動パターン読まれるようじゃ、俺もおしまいだな」

 俯き加減に顔を片手で覆って、俺は溜息をもらす。

「夕食のピンネショットさ。美味しかったから、また作ってほしいんだけど」
「自分で作れ。レシピ、書いてやったろ」
「無理に決まってるじゃん。兄貴の作ったのが食べたい」

 ノルウェーのクリスマス料理の定番、塩漬けにしたラム肉のピンネショット。時期的に早過ぎたことがアダになり、相棒に気づかれたのか。

「外、かなり寒いんじゃないかな」
「……で? 俺を引き留める気か」
「俺の言う事聞いてくれるほど、兄貴、優しくないだろ」

 首を横に振り、悪意のない嫌味をサラリと言ってのける。

「俺も、一緒に行く」

 言いながら、コートを纏い、マフラーを巻く。
 見れば相棒の方も、外出するための完全防備を済ませていた。着替えるほどの時間はなかったはず。ブランケットに隠れて見えなかったが、身支度したままベッドに潜り込んでいたに違いない。

「連れてってよ。兄貴が行くところなら、どこでもさ」

 相棒が俺に右手を示す。掌を上に向けて。屈託のない表情には、少しの迷いも表れていなかった。
 迷っていたのは、むしろ俺の方。

「……OK、相棒」

 伸ばされたその掌を、俺は自分の右手でパンと叩き、強く握ってやる。
 あいにく、分厚い手袋に包まれた相棒の手では、『Give me five』も軽快な音を立てることはできなかったけれど。

「うわ、寒っ」

 外気に触れた途端、相棒は悲鳴を上げた。

「特に冷えるな、今夜は」

 身を刺すような冷気に、俺もコートの襟を立てる。
 見渡す限り、白の世界。太陽が消えたノルウェーの街中に、動くものは俺たちの他、落ちてくる雪のみ。

「ほら、こっち来いよ」

 夜の闇の中、雪まで降っては視界が悪い事、この上ない。ここまで来たら、途中ではぐれても厄介だ、と俺は相棒の腕を引く。

「兄貴が優しいなんてさ。雪降るわけだ」
「言ってろ」

 相棒はいつも俺の後を付いてきて、俺と同じ事をしたがる。それを、今日ほど鬱陶しく感じたことはなかった。
 同時に、嬉しく感じたことも。

 この世にいる時間が、後どのくらいかは知らないが。
 その最期の瞬間まで、相棒は俺の傍で、俺のマネをするのだろう。

 俺たちは、2人で歩いていく。
 終焉が待つ、無垢なる白い道を――。


 END

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※ついに、お題ファイナルです。ようやく達成できました。
コンプリートまで3年かかるとは・・・(^^;
最後ということで、ちょっと最後っぽい話にしてみましたが、マズったかな。甘くならなかったし(--;
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