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大晦日の過ごし方2 ~そばを打つ人

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 日本で言うところの、今日は大晦日。
 殺人的なノルウェーの寒波の中でも、新年を祝う盛大な花火は、あと数時間で打ち上げられるのだろう。この日だけの、毎年恒例のお祭り騒ぎだ。

「真冬に打ち上げ花火なんて、妙な感じだよね。りんご飴も綿菓子もやってないしさ」
「お前の関心は、露店だけか」

 相棒の溜息交じりの言葉に、俺も恒例のツッコミを入れてやる。

 毎年同じ台詞を言う相棒。ノルウェーで何回新年を迎えたと思ってるんだか。
 とはいえ、相棒の浮かない顔には別の理由もあった。

「兄貴、腹へった」
「もうしばらく、待っててやれ」

 相棒はおあずけを食らった子供のように見上げてくるが、俺に訴えられてもどうしようもない。夕食も我慢しているのだから、空腹なのは分かっている。

「田所さん、よければ手伝いますよ」

 読みかけのタウン誌をテーブルの上に放り、黙々とそばをこねるその人に俺は声を掛けた。
 いつまでも人のアパートに居座られ、キッチンを占領されてはたまらない。
 激しく不本意ではあるものの、助力を申し出た俺に、

「いや、そば打ちは『こね』と『のし』がキモなんでな」

 と、真冬にもかかわらず健康的な汗を流し、田所さんはキラリと歯を光らせる。
 お前の気持ちはありがたくもらっておくぞ、と言われても、あまり嬉しくはないんだが。

「……白い光」
「あ?」

 再びタウン誌を広げた俺の前から覗き込み、紙面を指差して相棒が呟いた。何の事かと視線を落とすと、トロムソの、例のUFO騒ぎの記事が写真入りで載っている。

「あれさ、巨大隕石じゃなくて本当によかったよ」
「ああ、ワームでもなかったしな」

 リアルな隕石落下体験者として語る相棒に、俺も頷いてみせた。

 来るべき新しい年。世界は刻々と変わっていき、これからの自分がどうなるかなんて見当もつかない。しかし相棒はともかく、田所さんと一緒に年を越すのでは、ロクな一年にならないのは確かだ。

 やがて、キッチンからトントントンと包丁の軽快なリズムが聞こえてきた。
 時計を見ると、すでに新年へのカウントダウンが始まる時刻。

「やあ、何とか間に合ったな!」
「間に合ってません」

 田所さんが湯気の立つかけそばを三人前持って現れた時には、日付変更線を三十分近く越えていた。
 にべもなく言い放つ俺をものともせず、田所さんはテーブルに椀を置く。

「お前たち、なぜ大晦日にそばを食べるか知ってるか?」
「え? 俺、知らない」

 相手になるなと、俺が言う前に相棒が返事をしてしまった。
 そばを胃にかき込むのに集中してると思いきや、熱くてまだ口に運べなかったらしい。

「『長いものには巻かれろ』、という意味だ」

 自信満々でそんな嘘を教える田所さんはもちろんのこと、なるほどね、と納得している相棒も空恐ろしかった。むしろノルウェーにいて、なぜ年越しそばなのか、俺はそちらの方こそ知りたい。

「なぜノルウェーでそばなのか、と聞きたそうだな、矢車」
「え、いや別に」

 まれにこの人はエスパー魔美、もといエスパー並みに鋭い時がある。

「実は、俺の弟がそばのネット販売を始めてな。日本から通販で取り寄せた」

 そばの入手方法はどうでもいい。
 つらつら語り出す田所さんは、やはりいつも通りずれていた。

「インターナショナルだね。スゴすぎるよ、田所さん!」
「もちろんだとも。支払いはクレジット決済、送料は実費で海外発送可能だ」

 相棒と田所さんは意味不明な他愛もない会話を交わしながら、美味そうにそばをすする。

(何が、年越しだか)

 能天気な二人を眺め、思わず溜息がもれた。

「せっかく作ったんだ。意地をはらずに食え、矢車」

 そばに手を付けず不機嫌な顔の俺を、田所さんが見咎める。

「腹が減ってないんで」
「夕飯も食ってないくせにか」

 そう指摘されれば仕方なく、やれやれ、と箸を持ちかけたものの。

「上官の言う事は聞いておくものだぞ」

 次いで発せられた田所さんの言葉に、俺の手はピシリと固まった。
 嫌な事を思い出させてくれる。

 現在、このノルウェーで俺たちが属している対ワーム研究機関のヒエラルキーはZECTとは別だ。そして何の因果か、今はこの人が俺と相棒の直属の上官に当たる。

「職権乱用でしょ」

 俺はもう一度溜息をついた。

「そば、おいしいのに。何こだわってんのさ、兄貴?」
「こだわってない」

 相棒にまで突っかかられ、ますます気分が滅入ってくる。

 別に、田所さんが突然勝手にやってきたかと思うとキッチンを占拠し、頼んでもいないのに手打ちそばを作り始めたからといって、それを根に持ってそばを拒否するほど、俺は子供じみてはいない。

 大晦日にそばを食べるのは、日本で古くから続いてきた慣わし。縁起を担ぐことを否定するつもりもない。
 だが、ここは日本ではなく、第一俺たちに意味があるのだろうか。

 細く長く達者に暮らせるよう、願いをかける意味など。

「別にいいんじゃない? たとえ、『細く長く』 じゃなくてもさ」

 相棒がにこりと笑顔を見せる。

「ほら、『長いものには巻かれろ』ってことで」

 田所さんの方を目で示し、上司命令だよ、と続けた。そんな相棒に、俺は呆気に取られる。

(さすがは、俺の相棒だ)

 くっくっと喉の奥で笑った後に、すっかり冷めてしまったそばを食うべく、俺は箸を取った。
 相棒の言うように、長いものに巻かれてみるのも、悪くない。

「だけど、もう新年だし。年越しそばにはならないよね」
「うむ、まさしく」

 のほほんと話す相棒と田所さんの身も蓋もない会話は、この際聞かなかったことにしよう。


 END



※短編は書かないつもりだったのに、何となく突発的に書いてしまいました。
我ながら何が書きたかったんだろう、コレ・・・(--;
『白夜の~』設定なので、田所さんがノルウェーにいます。
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