想が瞬を駆け抜けて

想が瞬を駆け抜けて(9)

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17.真実

 半年ほど前。
 ZECTを去った矢車が陸によって初めてここに連れて来られた時、陸は同じように矢車にゼクターを差し出した。
 そして、ZECTの真実をすべて矢車に明かした。

 ZECTがネイティヴと呼ばれる別種のワームと手を組んでおり、『マスクド・ライダーシステム』はネイティヴの協力の元に生まれた もの――。
 陸から語られたその事実に、矢車は愕然とした。
 だが矢車を打ちのめしたのは、さらに恐ろしい秘密だった。

「人間をワームに変える……? どうしてそんなことをZECTは認めているんですか!?」

 ネイティヴは何年もの間、ひとりの被験者を使って人体実験を行っているという。
 ネイティヴの協力を必要とするZECTは、被験者はひとりだけにとどめるという条件で、ネイティヴのその要求を飲んだのだ。

 手術台に横たわり体にメスを入れられる被験者の痛々しい姿を、矢車は目の当たりにした。
 20歳にもなっていないような年若い少年だった。
 麻酔が効いているらしく目は閉じていたが、青ざめた顔に浮かべているのは苦痛の表情で。

 見ていられず、矢車は目をそむける。
 こんなことが許されるのか。

「我々も心苦しいのだよ」

 今はまだネイティヴを敵に回す時期ではない、と陸は言う。

「『赤い靴』の発動までは、何があっても沈黙を守り通さねばならない」

 ライダー達もやがてはネイティヴに取り込まれる。ネイティヴに対抗できるのは、暴走システムを持つカブトとガタックのみだ。
 陸の話を聞きながら、矢車はザビーの紋章のことを思い出した。
 ザビーゼクターは、ZECTへの忠誠を強いて資格者の心を支配する。あの現象は、ネイティヴの技術だったと考えれば納得がいく。
 あのようにして、ネイティヴは人間の体も心も乗っ取るつもりなのだろう。

「ひとつ、教えてください。最初にザビーの資格者に選ばれた日下部は……なぜ、死んだのか」

 震える唇で矢車は問いただす。
 ずっと胸にくすぶり続けていた疑惑に答えが与えられそうな気がした。
 しかし、それは決して好ましいものではない。

「君が思っている通り、だろうね」

 陸の言葉が無情に響く。

(ZECTに殺された……のか)

 日下部がどこまでZECTの秘密をつかんでいたのか分からない。けれど正義感の強かった日下部なら、ZECTのこんな非道を黙って見過ごせるはずがなかった。

「ちっ!」

 陸の頼みを聞く気など、もはやこれっぽっちもない。 
 舌打ちし、荒々しく扉へと足を向けた矢車の背に、陸は告げる。

「言っただろう。何があっても沈黙を守らねばならない、と。協力を拒むというのなら、君をこのまま返すことはできんのだよ。残念ながら」

 いつの間にか、矢車の背後には黒服の男達が数人立っていた。
 陸直属のSPだ。それぞれが小型の銃を手にし、銃口を矢車に向けている。

「脅迫、ですか」
「そうだ。君の『正義』への、な」
「俺はここで殺されても、ZECTには屈しません」

 怯えた様子を欠片も見せず、きっぱりと矢車は言い放つ。

「小事にとらわれ大事を見過ごす、か。君は、ワームが人間を蹂躙するのを放っておくつもりかね」

 諭すような陸の指摘に矢車の心は揺さぶられた。
 被験者の少年や日下部にZECTがしたことは、明らかに犯罪だ。許すことはできない。
 だが、それはすべて人間をワームから守るために耐えなければばらないことだと、陸は言うのだ。

 罪を、容認する。容認しなければならない。
 大きな目的のために。

 その決断が、矢車の今までの価値観を根底から覆し、人生を塗り替える大きな転機となった。
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