学園迷走サバイバル

学園迷走サバイバル(2)

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 普段学校の行き帰りは矢車さんが護衛してくれるが、今日は学校に用事があるから、とひとりで帰るように言われ、それを待ち構えていたかのように、あいつら狩人が襲ってきた。
 同じ学校の奴なら、ボディガードがいないと分かっていたわけだし、機を狙ったのも当然か。

「ま、ここまで逃げおおせたのは、褒めてやるよ」

 矢車さんはバイクに乗ると、メットを俺に放ってよこした。乗れ、と首をくいと後ろに動かす。

「いつ、俺のこと気付いたのさ」
「ん? 最初から」
「へ?」

 矢車さんが、ニッと笑ったようだった。フルフェイスのメットに隠れ、表情はよく見えないけど。
 後ろに乗った俺に、「しっかり捕まってろ」と告げるや、猛スピードでバイクを出す。

「なんで? 矢車さん、学校に残ってたんじゃないの」
「用事が早く終わったんだ。そうしたら、二年の連中が、校門前でお前を待ち伏せしてた」
「知ってたなら、どうして、もっと早く助けてくれなかったんだよっ!」
「簡単に助けたんじゃ、お前のためにならないだろ」

 ボディガードの言う台詞じゃないよな、とは思うものの、矢車さんはこういう人。優しげな顔をして、スパルタだ。

「もし、俺があいつらに捕まってたら、どうすんのさ」
「別に。高校生なら、お前の命を奪うことはしないだろうし。適当に痛めつけられて、終わりじゃないか」

 バイクを飛ばしながら、あっさり答えられた。つまり、俺が暴行を加えられても、見て見ぬふりを通すつもりだったと。

「それ、ヒドイよ! 俺を、守ってくれるってくれるんじゃなかったの!?」
「本気にとるな。冗談だ」

 振り落とされないよう、腰にしがみついたまま目くじらを立てる俺を、面白そうにからかう。

(そりゃ俺だって、強くなれれば……)

 何度思ったかしれない願望。でも人間、向き不向きがある。
 視界に入ったZECT総帥の邸宅、今は俺の家にもなっている加賀美邸を前に、俺は小さく溜息をもらした。





 力が絶対の世界で、ZECTは影の政府と呼ばれ、行政にも司法にも縛られず、事実上この国を牛耳っていた。
 ZECTのトップである加賀美陸は、見掛けは温厚な知能系の親父。矢車さんを筆頭に、武闘系や知能系の多くの優秀な人材を配下に置いている。

「今日も、襲われたそうだね」

 応接間のふかふかしたソファーに腰掛け、義理の父親は苦笑した。
 矢車さんは難しい顔をして腕を組み、ドアに背を付けた姿勢で、俺たちに視線を向けている。

「え、大丈夫でしたか? 影山さん」
「一応。矢車さんのおかげで」

 向かいに座り、コーヒーをすすりながら心配そうな目を向けるのは、総帥の実の息子・加賀美新。歳は同じ十八だが、俺より数ヶ月年下になる。その為、俺にも丁寧語を使う生真面目ぶり。

 息子の方の加賀美は、レベルAの武闘系。明るく気さくな好青年と、周りの評判もすこぶるいい。
 こんなしっかりした跡取りがいるのに、一年前、落ちこぼれのZECT訓練生だった俺を総帥は身内に招き入れた。

 身よりもなく、力を持たない俺にとっては、悪くない申し出には違いなかった。
 体裁は養子でも、名字が変わるわけでなく、ホームステイや下宿の感覚に近かったし。

 けれど、弱い俺がZETの権力を手に入れたとあっては、世間の槍玉に上がるのは必至。もとより、弱い者は狩られる弱肉強食の社会で、俺を襲ってくる奴が、以前以上に増えたのなんの。

「じゃ、俺、部屋に戻ります」

 今度は大きく溜息をついた俺の後を、矢車さんも無言で付き従う。

「しっかり守ってやってくれよ、矢車」
「分かってます」

 矢車さんは慇懃に答え、一礼してドアを閉めた。

 珍しく走り回ったせいで、俺の体力はもう限界。夕食までひと寝入りしようと思っていたら、矢車さんが部屋の前まで付いて来る。

「今日はもういいよ、俺、外へ出ないし」

 また明日、と手を振ろうとしたところ、眼前に紙切れが突きつけられた。目をしばたたく俺に、矢車さんは最後通牒を言い渡すがごとく、低い声で言った。

「『影山瞬 総合評価Dマイナス』」
「へ? あ、それは……」

 矢車さんが提示しているのは、紛れもなく、俺の学籍簿。

「このままだと、お前、卒業単位取るのも危ないぞ」
「な、なんで、それを矢車さんが……」
「さっき、お前の担任から渡された」

 先に帰ってろ、と言ったのは、この為だったらしい。余計な事をしてくれたお節介な担任に、俺はほぞを噛んだ。

(田所さん、よりによって矢車さんに見せるなんて)

 怒るでも呆れるでもない矢車さんの沈黙が一番厄介だということを、俺は知っている。護衛だけに留まらず、俺の後見人的役割も任されている立場上、こんな成績を取ったとあっては、面目が立たないだろう。

「俺で良かっただろ。それとも、総帥に知られたい?」

 その言葉に、俺はぐっと息を詰めた。確かに、加賀美の親父に知られるのはマズい。といって、矢車さんに知られるのは、もっとマズい感じがひしひしとする。

「心配するな。きっちり鍛えてやるから」

 いろいろな意味で、と付け加え、にこりと笑った矢車さんのそれは、残酷な天使の微笑。
 少なくとも、夕食前の静かな休息がフイになることは現時点で確定した。
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