学園迷走サバイバル

学園迷走サバイバル(3)

 ←始まりのアリス(10) →学園迷走サバイバル(4)
「……ふぁ、ねむ……」

 涙目で大きくあくびをする俺にも、横を歩く矢車さんは知らぬふり。「眠い、眠い」と何度か呟いていると、矢車さんは苦笑しながら、眠気覚ましのミントキャンディーをくれた。

「睡眠時間は、六時間やったろ」
「全然足りないよ」

 鼻に突き抜けるような辛さに顔をしかめつつ、口の中で飴玉を転がす。

 駅までは矢車さんのバイクに乗せてもらい、そこから学校までの10分程度は徒歩というのが、いつもの俺の通学パターン。直接学校までバイクを乗りつけるのは、さすがに気が引ける。

 ただでさえ、矢車さんはいろいろ目立つ。俺としても、嫉妬にかられた女たちという敵を、わざわざ増やしたくはない。
 もっとも、歩いて行こうが、俺の傍らに矢車さんの姿がある以上、注目を集めるのはたいして変わらない気もするけれど。

「おお、今日も一緒か。影山、矢車」
「……おはようございます、田所さん」

 電車から降りてきた担任に駅前でばったり出くわし、俺はしぶしぶ挨拶を返した。矢車さんも、軽く会釈する。「先生」と言わずに、「さん」付けなのは、ニックネームみたいなもの。

 その強面と違い、義理と人情に篤い田所さんには、俺も何かと面倒を見てもらっていた。
 が、今回は少しばかり、恨みがある。矢車さんに、俺の学籍評価をばらしたのは、この人だ。

「随分眠そうだな。どうした、影山」
「大方、彼女でも泊まったんでしょう」
「何!? いや、それは、マズイぞ。やはり高校生のうちはだな」

 真剣にお説教を始めようとする田所に、矢車さんは「冗談ですよ」と笑った。
 そもそも俺の寝不足は、矢車さんのせいなのに、涼しい顔でそんな冗談を言えるところが、ある意味コワイ。

 俺の学習評価を、せめて今のDマイナスからDプラスに上げるべく始まった、矢車さんの家庭教師。
 日常の警護の為に、矢車さんも加賀美邸に寝泊りしているので、幸か不幸か、夜遅くなろうとも時間的な問題はない。

「勉強がちょっとキツいだけで。別に、大丈夫です」

 ちょっと、という部分にアクセントを置いてみたものの、皮肉は田所さんには伝わらなかったらしい。

「そうか。矢車に頼んだ甲斐があったな」
「できれば、もっと早く言って欲しかったですけどね」
「……え、頼んだ?」

 三者三様の台詞の中、事態を把握していなかったのは、どうやら俺だけ。
 田所さんが俺の成績について矢車さんに依頼したようで、その理由は、火を見るより明らかだった。

「もしかして、俺、レベルEに落ちる、とか」
「俺が、落とさせない」

 息を飲んだ俺に向けて、矢車さんが即座に否定を示す。
 しかし裏を返せば、レベル落ちは肯定ということ。俺の成績は、思ったより際どい崖っぷちにあるという事実。

(レベルEか……)

 俺は他人事みたいに考えた。

 すべての人権が剥奪されるランク。それが、レベルE。
 今のところまだ、殺人許可証を持つ者しか、俺をどうこうすることはできない。けれど、レベルEの人間に対しては、たとえ殺めたとしても罰されることはなくなる。
 すなわち、俺はますます危ない状況にさらされる。

「ハハ。まあ、もしものことがあったら、そのときは祝儀をはずんでやる」
「香典です」

 田所さんと矢車さんの会話に、俺はどうリアクションすればいいんだろう。

 校門が見えてくると、いつものように、矢車さんは俺の右手の護身用のブレスをチェックする。
「帰りに来てやるから」と背を軽く押され、俺は田所さんと共に暗雲垂れ込める校舎の中へ入っていった。

 校内ではさすがに外部の者に襲われる心配はなく、田所さんや加賀美のおかげで、他の生徒も表立って俺に手出ししてこない。今のところは。

「レベル判定まで、一週間の猶予があるからな。矢車にしごいてもらえ」
「……一週間もあるんですか」

 俺の身の上を案じてくれている田所さんの気持ちはありがたいが、俺はといえば、行くも地獄、戻るも地獄の心境。
 もういっそ、レベルEを宣告されたほうが楽なんじゃないかと、朝っぱらから思いきりネガティブ思考に陥った。
関連記事



【始まりのアリス(10)】へ  【学園迷走サバイバル(4)】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【始まりのアリス(10)】へ
  • 【学園迷走サバイバル(4)】へ