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始まりのアリス

始まりのアリス(3)

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2.together with


「な、なんで兄貴がいるのさ!」
「なんで、お前がいるんだ!」

 目の前にいる互いを指差し、影山と矢車は同時に言葉を発した。

「俺は普通に寝たよ。今だってちゃんとベッドの中で」
「こっちだって、そうだ」
「……だから、なんで兄貴がいるんだよっ!」
「俺が知るか」

 またも紛れ込んでしまった夢の世界。驚いたのは、矢車にしても同じだった。

「お前の夢に、引っ張リ込まれたのか」
「兄貴が勝手に俺の夢の中、入ってきたんだろ!」

 不機嫌そうな声で呟く矢車に、影山もムッとして言い返す。

 気付いた時には、二人は古めかしい洋館の広間にいた。草原から場所を移しているものの、白ウサギのいる夢の世界の続きに決まっている。
 ただこれまでと違うのは、登場人物は影山ひとりではなく、矢車も一緒だという点。

 夢のはずなのに奇妙な現実感があり、二人の服装も至って普段通り。影山は学生服、矢車は黒いスーツに黄色のネクタイを締めている。回を重ねるごとに、細部に渡り現実味が増してきた。

「……お前の想像力の乏しさには呆れる」
「そんなの、俺に言われてもさ」

 矢車が窮屈そうにネクタイを緩め、ワイシャツの上二つのボタンを外す。
 リアルなその仕草は到底夢とは思えない。眉間に皺を寄せ、影山はおそるおそる尋ねた。

「あの……、ほんとに兄貴なの? ただの夢じゃなくて」
「夢の産物ってわけじゃないな、残念ながら」

 矢車は感触を確かめるように、腕時計をはめた自分の左手を軽く振った。
 影山の夢ではあっても、影山だけが見ている夢ではない。昨夜自分のマンションで就寝した矢車と、今回どういうわけか夢を共有しているらしい。

「お前、時計持ってるか」
「持ってない。兄貴が持ってるじゃん」

 なぜ聞くのかと思いつつ、影山は矢車の左手首を指差した。時刻は5時58分。

 広間の扉を開ければ、同じ色調の壁が真っ直ぐ続いている。長い廊下は果てがなく、さすが夢と変に感心してしまう。
 やがて矢車の腕時計が六時を示した時、警報のごとく廊下に電子音が鳴り渡った。何の音かと慌てる影山の傍で、矢車は渋い顔をした。

「アラームが鳴ってる。朝六時だ」

 腕時計に目を落とし、溜息をつく。

「まずいな。起きられない」

 現実の自室の置き時計が、起床時間を知らせている。しかし矢車がこの場に留まっているということは、体は眠ったままなのだろう。
 しばらくすると電子音は自然にかき消され、廊下は静寂に包まれた。

「……まさか、このまま目が覚めない、とか」

 考えたくもない想像が影山の頭をよぎる。

「お前の目覚ましは、何時にセットしてる?」
「……七時」
「その時に起きられるか、だな」

 矢車は前髪をかき上げ、再度腕時計を見た。

 影山が目覚めれば、この世界は消え、おそらく自ずと夢から出られる。それを待つしかない。
 じっとしていても居たたまれず、二人は長い廊下を先へと進んだ。十分、二十分と時間が経ち、一時間後、ジリリリリッとクラシックなベルがけたたましく鳴った。

 目覚まし時計の音は耳に届いている。それでも、ベルを止める手はなかった。
 壁が薄く、隣の部屋の音が筒抜けの1LDKの賃貸マンション。朝からさぞや近所迷惑になっているに違いない。

「きっと、両隣の人から苦情言われるよ」
「目が覚めてから、の話だがな」

 数分鳴り続けた後、ベルの音は止んだ。

(ウソだろ……)

 依然として夢の中にいる自分に影山は呆然とする。己の体を見回しても矢車の方を見ても、確かな質感を伴って存在していた。
 前回も前々回も普通に起きられたのに、今回に限ってなぜ目が覚めないのか。

 今日はまだ白ウサギに出会っていない。
 ウサギが持っていた『DRINK ME』で影山の耳が治ったのだし、ひょっとしたら、この夢は白ウサギが鍵なのかもしれない。

「白ウサギを探そう」

 同じ結論に至った矢車が、影山の背を叩いて促す。
 力なく頷き、影山もとぼとぼ歩き出した。矢車を盗み見ると、整ったその横顔は思ったより平然としている。とんでもない状況ではあるけれど、矢車がいるというだけでいくらか安心できた。

 静かな廊下には、矢車の靴音だけが響き渡り、影山のスニーカーは音を立てない。
 ところが足元に水の感触がし、唖然とするうちにザブザブという水音に変わった。どこからか廊下に流れ込んできた水が、膝上までいっきに水位を上げる。

「……な!? 水?」

 足を取られ転びかけた影山の体を、矢車が咄嗟に腕を引いて支えた。

「気をつけろ」
「あ、兄貴。ありが……」
「潰すなよ、せっかくの置きみやげだからな」
「え?」

 矢車は水中を目で示した。土砂の混じっていない比較的澄んだ水は、底まではっきり見通せる。

「持っててくれ」

 スーツの上着を脱いで影山に放り、腕まくりした右手を水の中に入れた。
 拾い上げたのは、子供のおもちゃのようなミニチュアサイズの扇。水に浸かりながらも、破れてはいない。

「持ってろ、白ウサギの落とし物だ」

 水気を丁寧に拭った後、上着と交換に扇を影山に差し出す。

「どうして、白ウサギのものだって分かるのさ」
「……お前、本当に俺の授業聞いてないな」

 もはや何度目か分からない落胆の溜息をつく矢車に、影山はただ首を傾げた。
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