スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←始まりのアリス(4) →始まりのアリス(6)
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



【始まりのアリス(4)】へ  【始まりのアリス(6)】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

始まりのアリス

始まりのアリス(5)

 ←始まりのアリス(4) →始まりのアリス(6)
3.Who are you?


 森の中を進んで行くと、視界が開け、キノコの群生地帯に行き当たった。高く昇った太陽も雲間から現れ、服を乾かすには、おあつらえむきだ。

 濡れた靴とズボンををいそいそとキノコの上に並べる影山を眺め、矢車は腕時計に目をやる。
 昨夜一時近くにベッドに入り、現在は昼の十一時。かなり時間が経ったのに空腹を感じないのは、本体が眠っているせいだろうか。

 影山は着衣を干し終え、鮮やかな色彩のキノコを物珍しげに見つめた。

「食うなよ、毒キノコだ」
「わ、分かってるよ」

 矢車の忠告を受け、キノコに伸ばしかけた手を引っ込める。
 そんな二人の様子を、一匹の青虫が巨大なキノコの上で水キセルを吹かしながら見下ろしていた。

「――お前たちは、誰だ」
「え?」

 唐突に青虫がしわがれ声を出した。しゃべる青虫に今更驚きはしないが、その質問は影山の奥深くに浸透する。

(俺は、誰)

 ふと考えた途端、体が石像のように固まってしまった。思考の底なし沼に沈み込む影山に、青虫は口の端を上げる。

 自分が誰かなんて、改めて意識するものじゃない。身分は高校三年で、どちらかといえば落ちこぼれ。しかし、本当の真実が別にあるとしたら。

(俺は、何?)

 青虫の青と、サイケデリックなキノコの赤や黄色。周りの色調が、チカチカと変化する。影山は、目に映る幻想的な色彩に魅了された。

「そういうお前は何者だ。本当に、青虫か」

 異変を見て取った矢車が、低い声で青虫を牽制した。

「食べれば、すべてが分かる」

 青虫はそう告げて、たくさんの手足で毒々しい色のキノコを示した。
 ふらふらと影山がキノコにかじりつこうと顔を寄せる。驚いた矢車が、危うくその腕を引いた。

「バカ! 瞬、やめろ!」
「……あ」

 矢車に下の名を呼ばれ、影山の瞳に光が戻る。巨大キノコを仰ぎ見れば、もうそこに青虫の姿はなかった。

 影山を支えてやり、矢車はなんとかキノコの群生地を離れた。キノコの毒気に当てられた影山は、まともに歩くことができない。矢車は影山を大樹にもたれさせると、まだ乾ききっていない上着に腕を通した。

「なんか頭痛いし、ふらふらする……」
「食ってたら、それどころじゃないぞ」

 大きな溜息とともに、矢車の手が影山の頭に置かれた。ドラッグもどきのキノコの影響はすぐには抜けず、しばらく残る。

 青虫の問い掛けもまた、影山の意識の隅でくすぶり続けていた。
 自分が、何者なのか。
 少なくとも影山瞬という人間であることは確かで、道を見失いそうになるたび矢車が呼び戻してくれる。今はそれでいい、と影山は頭を振った。
関連記事



【始まりのアリス(4)】へ  【始まりのアリス(6)】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【始まりのアリス(4)】へ
  • 【始まりのアリス(6)】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。