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始まりのアリス

始まりのアリス(10)

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 影山の姿が消えた直後、矢車は喉を詰まらせたように咳き込んだ。

「……残念? そりゃ、お前にとっては、だ」

 封じられていたその声は、まだ幾分掠れていた。
 矢車には為す術もなかったが、影山は己で正しい道を掴み取った。今頃は通常の眠りに戻っているだろう。

「ずっとここにいた方が、あいつも幸せ」

 チェシャ猫は影山が取り落としたジギタリスを拾い、ぱくりと食べた。
 影山がジギタリスを選んだら、また別の夢の世界を構築し、影山を住まわせるつもりだった。チェシャ猫にとって、夢を操るのは造作もない。 

「お前にしちゃ、回りくどいマネをしたもんだ。わざわざ『アリス』の世界を演出するとは」
「面白かった? でも、お前まで来たのは、計算外」

 互いに旧知である、矢車とチェシャ猫の会話。影山がこの場にいたら、目をむいて驚いたに違いない。

「その姿もその話し方もやめろ。鬱陶しい」
「無理。だって、オレは、自分の作った世界に入ること、できないし」

 眉を顰める矢車の傍を、チェシャ猫はニヤニヤ笑いのまま漂っている。
 チェシャ猫はあくまでマリオネットにすぎない。影山を夢に引き込んだ張本人は、現実世界で猫とは別人格を持つ男だ。

 夢は潜在意識につながり、顕在意識に作用する。文字通り猫をかぶったこの男は、夢を操ることで現実を操る。

「あいつは覚醒した。早く、手を打たなきゃ」
「違うな。影山自身は無意識だ」

 チェシャ猫の指摘に複雑な心境で矢車は首を横に振った。

 夢の設定を、影山はそれと知らず軌道修正していった。登場人物の話す言語を日本語に変え、同じ舞台に矢車を引き込んだ。聞こえなくなった耳を直したのも、トランプを消したのも影山自身。
 本来筋書きに手を加えることは、チェシャ猫以外できないはずだった。

「とにかく、お前は引っ込んでろ。まだ、強制者プッシャーの出る幕じゃない」
「お前も、プッシャーのくせに」

 矢車を嘲笑うかのごとく猫が笑みを深めた。

 この世界で矢車が二度言霊を使ったことをチェシャ猫は見抜いていた。キノコを食べようとした影山を止めた時、そして影山にトランプを消させた時。
 たとえその場にいなくても、夢の創造主であるチェシャ猫は起きたことをすべて把握している。

「……悪魔め。お前が猫の姿じゃなかったら、殴り倒してる」
「何、言うんだか。オレは、天の道を行く。言ってみれば、天使」
「ぬかせ、堕天使が」

 厄介な奴に知られてしまった、と矢車は唇を噛んだ。
 腕時計を見れば、日付が変わるまであと半時間程ある。なんとか間に合ったというところか。

「お前の力は、二十四時までだったな。シンデレラ」
「そう。今回は、時間切れ。お前も、帰れ」

 難癖をつけてくるかと思いきや、チェシャ猫は意外にあっさり引いた。
 一日以上夢の中に留まれば、二度と目が覚めず眠り続けるはめになる。

「今回は、ツケに、しといてやる」

 ネコの姿を借りた男の、本来の不遜さが垣間見えた。
 夢の終わりは、新たな悪夢の始まりかもしれなかった。





 その朝、影山の目覚めは珍しくすっきりしていた。
 いい夢を見ていた気がするけれど、内容まで思い出せない。

「うわっ、ヤバ。英語の宿題やってない!」

 鞄に教科書を詰め込みながら、頭を抱えた。今更どうにもならないので、潔く諦めるまでだ。
 慌しく支度を済ませ、「行ってきます」と誰に言うでもなく声に出し、一人暮らしのマンションを出る。朝の空気が清々しい。

 途中で黒いスーツの後姿を見つけると、影山は走って行ってその背を叩いた。

「おはよ、兄貴!」
「学校では、先生」

 いつも通りの矢車の小言も、なぜか嬉しい。

「今日は、やけに機嫌がいいな」
「うん、なんか夢見がよくってさ」

 屈託なく笑う影山に、矢車は「そうか」と短く返した。

「なら、授業も大丈夫だな。今日、当てるから」

 影山が宿題をやっていないと察しがつくだろうに、いつもながら少しの容赦もない。

「……兄貴って、時々悪魔」
「本当の悪魔は、これから来るさ」

 矢車は苦笑を浮かべ、空を仰いだ。
 ところどころ雲があっても、綺麗に晴れた蒼い空。嵐は今のところ来そうにない。それでも、必ずやって来る。

 雲間に十二枚の白い翼の幻覚を見た気がして、矢車は憂鬱な思いで目をすがめた。


 END



※かなり駆け足でまとめました
とりあえず、第1部完です。ありがとうございました。
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