学園迷走サバイバル

学園迷走サバイバル(4)

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 いつものこととはいえ、授業もうわの空。矢車さんは校内に入ってこなくても、学校の近くにいるはずなので、下手にエスケープしようものなら、あとが怖い。

「なんか、生気ないですね。影山さん」

 放課後になってもぼんやりと席に座ったままの俺を見かねたのか、加賀美が声を掛けてくる。
 同じ家から通い、同じクラス。それでも、矢車さんというボディガードがいる俺は、加賀美とは別々に登下校をしていた。

「どうせ、あと一週間の命だからな」
「あ、レベル判定の件ですか」

 冗談のつもりで返事をしたのに、レベル落ちの件を把握しているらしい加賀美。まさに、知らなかったのは当の本人の俺だけ。

「でも、まだ落ちるって決まったわけじゃないし」

 気を遣って励ましの言葉をくれる加賀美も、本当は承知しているだろう。宣告を受ければ、99%はレベル落ち確実。猶予期間なんて、お飾りに過ぎないということを。
 だからこそ、無駄に一週間も個人授業が続くのは気が滅入るし、矢車さんにも悪い。

「この辺りに、他にレベルEの奴って、いたっけ?」
「え?」
「いくらなんでも、落ちこぼれが俺ひとりってことないだろ。他にも、そういう奴いないのかな」
「……その、いないことはない、ですけど」

 俺の質問に、加賀美は奥歯に物の挟まったような言い方をする。

「え、いるの!?」
「反ZECTの対抗勢力なら、います」
「……ああ、そういえばそっか」

 思い出して、俺は肩を竦めた。
 ZECTに敵対し、弱肉強食の現体制を壊そうとする反ZECT派。そういった連中は、すべてレベルE認定されている。

「反乱分子はみんな生存権剥奪なんて……、間違ってます」

 加賀美の口調は、まるで対抗勢力の肩を持つみたいで、ZECT総帥の跡取り息子としては問題ありかもしれない。

 この熱血漢は、日ごろから親父のやり方に反発している。
 ZECTの幹部たちは、いつか総帥の息子が反旗を翻すんじゃないかと懸念してるけど、その点については杞憂だ。加賀美は、実の父親を裏切れるような男じゃない。

「なんにしても、影山さんがレベルEはマズイですよ」
「だよな」

 俺はといえば、自分の命が懸かってるというのに、実感がいまいち。
 ZECTの頂点に立つ加賀美の親父に対して、俺は別段恨んでないし、反ZECTに賛同してもいない。それは、養子として引き取ってくれた恩とかではなく。こういうルールがあるおかげで、混沌とした社会の秩序が保たれてるのは確かだから。

 まあ、要するに、世の中を変えようなんて考えるのが面倒くさい。
 今を生き残れさえすれば、どうでもよかった。

「それより、影山さん、今日これから空いてますか? ちょっと、紹介したい人がいるんですけど」
「え、まさか、お前の彼女!?」
「そんなわけないでしょ」

 否定しつつ、加賀美はどことなく不自然に目を泳がせる。
 他の生徒と違い、俺に危害を加える心配は皆無とはいえ、ぎこちない素振りに違和感を覚えた。

「いいけどさ。矢車さんに連絡入れとかなきゃ」
「その……、矢車さんには内緒で、っていうか。あとで俺から謝っておきます。だから、ブレスも外していってくれませんか?」

 意外な加賀美の申し出に、俺はただ目を丸くした。

 ブレスを通して俺の位置は矢車さんに知れる。外せば当然、俺の所在は確認不可能。何が起こっても、自分の身は自分で守るしかなくなる。

「あ、危険な場所じゃありません。影山さんの身の安全は、俺が絶対保証します!」

 誤魔化しようがないほど必死に訴える加賀美を前に、ま、いいかと自分自身の冷めた声が頷く。
 うまく嘘をついて俺を連れて行くこともできたのに、馬鹿正直に話すなんて、こいつらしい。

「で、行くってどこさ」

 俺は聞きながら腕からブレスを外すと、自分の机の中に入れた。
 教室に残していっても、そのうち矢車さんが来て回収してくれるだろう。無事にまたこのブレスをはめられるかは、ともかくとしても、だ。

 古い学校にありがちな、外部に通じる秘密の抜け道というやつが、体育館倉庫の裏手に存在する。

 鉄柵の下方の一部を外すことができ、人ひとり通れる幅ができる。
 教師はもとより、生徒の中でも、これを知ってるのは俺だけじゃないかと自慢したいぐらいの最高級の秘密。
 加賀美に教えてやるのは癪だが、矢車さんにバレないよう外に出るためには仕方ない。

「なんかこう……、レトロですね」
「レトロ言うなっ」

 加賀美は、かがみ込んで柵をくぐった。言っとくけど、シャレじゃない。
 俺より幾分背が高いから、俺より幾分キツいらしい。うわっ、とか、ひーっとか叫び、それでもなんとか脱出に成功した。

「あはは。冒険心、くすぐられただろ?」
「呑気ですね。これから誰に狙われるか分からないってのに」

 声を上げて笑う俺に、加賀美は服に付いた土を払い、呆れた風に言う。

「学校の奴に見つかってもヤバイし、さっさと連れてけよ。どこへでも行ってやるからさ」

 さすがに日が暮れる前には戻らないと、いろいろ厄介になる。

 赤く染まり始めた空を仰いで、俺と加賀美は走り出した。
 俺と話がしたいという人物が待つ、数ブロック先の目的地へ向かって。
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