学園迷走サバイバル

学園迷走サバイバル(5)

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 てっきり倉庫か何か、人目に付かない場所に行くと思っていた俺の予想は見事に外れた。
 意外にも、加賀美が案内したのは、通りに面した小さなイタリアンレストラン。『Bistro la Salle』という看板が出ている。

「おごってくれるわけ?」
「コーヒーぐらいなら」

 俺の冗談にも、あいにく手持ちが少なくて、と加賀美は真顔で答えた。

 店の中に入った俺たちを、「いらっしゃいませ」と店員の声が迎える。まばらに座る数人の男女は、狩人ではない普通の客で、こちらには一切関心を示さない。
 きょろきょろと俺が周りを見回しているうちに、加賀美は奥のテーブルにいる若い男に声を掛けた。

「連れてきたぞ、天道」
「遅い。15分の遅刻だ」

 天道と呼ばれた男は、不遜な物言いで、コーヒーカップを口に運ぶ。
 少し癖のある髪と鋭い瞳が印象的な、整った顔立ちの男だ。歳は俺たちと同じくらいだろうに、この偉そうな態度。仮にも、加賀美はZECTのトップの御曹司なのに。

「しょうがないだろ。影山さんにはボディガードが付いてるんだから、撒くのが大変だったんだよ」
「大変? ゼクターに発信装置を付けて飛ばすのが、か」
「……え?」

 最後の「え」は、俺。会話の外にいた俺が声を発したことで、二人の視線が俺に突き刺さった。

「まさか、加賀美、お前……。ゼクターに俺のブレス持たせて、矢車さんをそっちに引きつけておくとか、したんじゃないよな」

 おそるおそる尋ねてみる。

 ゼクターは、ボディガードの役割も兼ねた多機能ガジェットの通称。ゼクターはそれぞれ特徴が異なり、加賀美のガタックゼクターは、クワガタの形をしている。
 ZECTの主要な人間は、このゼクターを持つ。ちなみに、俺は持っていない代わりに、ボディガードに護衛してもらってる。ゼクターを扱うにも相応の能力が必要で、レベルEの俺じゃ到底ゼクターは使いこなせない。

 加賀美は、ゼクターを操って机に入れた俺のブレスを引っ張り出し、矢車さんの目を欺いているらしい。

「ゼクターで時間稼ぎしてるんです。矢車さんに怪しまれないように」
「あちこち移動させて、矢車を振り回す手はずになってる。あいつには悪いがな」

 しきりに恐縮してる加賀美と、言葉と裏腹にちっとも悪びれる様子のない天道。
 加賀美がそこまでするなんて、余程のことだろう。天道という男にしても、矢車さんを知る口ぶりだった。

「あんた、一体誰だよ。俺に用があるんだろ、何?」

 さっさと済ませようと、俺は話を切り出した。

「金は自分で払えよ」
「……あのさ、会話のキャッチボールって知ってる?」
「オーダーしないのか」

 天道はあまり抑揚のない声で、向かいに座れと指図してくる。
 寄越されたメニューを開くことなく、俺はしぶしぶ腰を下ろした。その横で、加賀美も椅子を引く。

「まず、俺は、お前らと敵対する立場にいる。反ZECTの対抗勢力と言えば分かるか」

 自分だけコーヒーを飲みながら、何食わぬ顔で天道がサラッと告げた。
 衝撃の事実に固まるけれど、どうやらこれは引き抜きというやつ。加賀美が一枚噛んでいたことにも、驚いてしまう。

「お前も知ってるだろう。レベルEとみなされれば、人権さえ奪われる。俺たちは、この馬鹿げた社会体制を変えたい」

 天道の眼差しは、真っ直ぐで曇りがない。
 反ZECTといっても、想像していたようなテロリストと程遠いことは理解できた。他人の命や財産を脅かしたりはしない。俺を狩るハンターたちのほうが、よっぽど暴力的な上に過激だ。

 ZECTの体制に従わないという理由で、危険分子扱いされている反ZECT。天道はそのリーダーであり、加賀美とは親友同士だと言う。俺様な態度が癇に障るものの、多分悪い奴ではない。

 でも、だからといって、すぐさま反ZECTに寝返る気にはなれなかった。

「悪いけど、協力はできないよ。俺のことは、矢車さんが守ってくれてるし」
「守りきれなかったら、どうする」

 以前、矢車さんにも同じことを聞かれた。

「絶対、守るって言った」
「だが、実際今も、あいつはお前の傍にいない」

 反論できない俺に、天道が続ける。

「もし俺が狩人だったら、お前は今頃生きていないだろう」
『……もしお前が狩人だったら、生きてないのはお前だと思うけど?』

 ふいに加賀美の方から、加賀美以外の声がした。

 びっくりしてそちらに目を向ければ、本人も驚いているようで。慌てふためき、服のあちこちを探り始める。
 声が胸の辺りから聞こえたことに気づいた加賀美は、胸ポケットに差したボールペンを取り出し凝視した。

「……矢車さん、俺に盗聴器仕掛けました?」
『人聞き悪いな、加賀美。影山のブレスと同じタイプの発信機だ』

 それは、俺にとって聞き馴染んだ声。と同時に、店のドアが開き、客がひとり入ってきた。
 つかつかと靴音を響かせ、俺たちのいるテーブルまでやってきたのは、紛れもなくその人だった。

「矢車さん……」

 ゴクリと息を飲む俺。姿を見せた矢車さんは、ものすごい怒りのオーラをまとっている。傍目からは、いつも通り穏やかに見えるに違いない。
 矢車さんは加賀美の手からボールペンを取り上げると、ペン先を外して小さな機器を抜き取った。

「念のため、お前の動向も掴めるようにしてる。ZECTの大事な後継者だからな」

 薄く笑い、呆然と見つめる加賀美の胸ポケットにボールペンを戻す。

「出てくるつもりはなかったんだが。挨拶なしじゃ不義理だろ、天道」
「不義理のほうが、ありがたい」
「同感」

 不機嫌もあらわな天道に、矢車さんは身も凍るような絶対零度の微笑を返した。
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