学園迷走サバイバル

学園迷走サバイバル(6)

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「加賀美。悪いが、そっちに移ってくれ」
「え、あ! はい」

 矢車さんと天道の醸し出す異様な緊張感の中で為す術もなく固まっていたところ、矢車さんは、加賀美を向かいの席に移動させ、俺の隣の椅子に座った。

「加賀美は、ホットでいいか」

 そんなふうに柔らかく尋ねる矢車さんの脇を、俺は軽く突付く。

「……俺には聞かないの?」
「お前はどうせ、プリンだろ」

 とりあえず、俺の分も注文してくれるつもりらしいので、そこで口をつぐんだ。これ以上、あれこれ聞けるような雰囲気じゃない。

「ひより。ホット二つとプリン・ア・ラ・モードを」

 オーダーを取りに来た若い女店員に、矢車さんがそう告げたとき、

「人の妹を気安く呼ぶな」

 地の底から響くような声を発し、天道が鋭い視線で射抜く。

 四人テーブルの対角線上に再び火花が散り、俺と加賀美は息を飲んだ。
 やはり、矢車さんと天道は顔見知りらしい。もうひとつ分かったのは、“ひより” という店員は、天道の妹だということ。
 発端となった彼女は、この一触即発ムードに怯むことなく、「店の中で揉めるなよ」とだけ言って厨房へ引っ込んでいった。

「いつ、ここにいると気付いた」

 それほど関心はなさそうに天道が矢車さんに尋ねる。

「発信機が妙な動きをするし、影山と通信もできない。サーチを加賀美に切り替えてみたら、案の定、ってところさ」
「ガタックゼクターには引っかからなかったのか」
「向こうは、ザビーゼクターに追跡させている」

 ピリピリした空気の中で、交わされる会話。
 加賀美はともかく、ZECTに忠実な矢車さんが、反ZECTのリーダーと知り合いというのも不思議な話だった。それも、妹の名前を知ってるほど親しい間柄なんて。

「天道、矢車さんと知り合いだったのか?」

 そして、どうやら加賀美も、俺と同じく蚊帳の外にいるという事実が思いがけず判明した。
 二人がどういう関係なのか、説明を求める加賀美に、天道は「古い知り合いだ」と返すのみ。
 俺の方も、矢車さんに直接確かめる度胸はなかった。いまだ、黒いオーラを背負っている矢車さんには。

「さて、話を戻そう」

 少し緩んだ空気が一転。突然矢車さんの手が動き、ホルダーから小型の拳銃が引き抜かれた。
 銃を目にした店の客たちにザワッと動揺が走るものの、大げさに騒いだり席を立ったりする者はいない。殺人許可証を持つ者と居合わせた場合、見て見ぬフリが鉄則だ。

 撃鉄を起こし、銃口を天道の額に突きつけてから、矢車さんは低い声で言う。

「影山から手を引け。こいつに構うな。反ZECT側に囲うつもりなら、俺も黙っちゃいない」
「そいつが殺されてもいいのか」
「殺させはしない」

 至近距離で拳銃を向けられているのに、天道はまったく動じない。

「影山に、ZECTを裏切らせるわけにはいかない」
「変節漢のお前が言うとはな。なぜ、そこまでZECTにこだわる」
「無駄話はいい。……返事は?」
「ノーだ」

 眉ひとつ動かさない天道を前に、トリガーにかかった矢車さんの指が引かれた。俺や加賀美が止める隙などなかった。てっきり、ただの脅しだと思っていたのに。
 俺は反射的に顔を伏せ、ぎゅっと目を閉じた。しかし銃声は轟かず、小さくカチリと音を放っただけ。

 あまりに驚いたおかげで、銃に弾が入っていなかったのだと気づくまで、しばらく時間がかかった。

「弾を込めないのは、今も同じか。よくそれで、殺人許可証なんて所持できる」
「……今日は偶然だ。悪運の強さに感謝しとけ」

 呟くように言って、矢車さんは銃をホルダーに戻す。
 最悪の事態にならずに済んだことにほっとし、俺と加賀美は大きく息をついた。

 矢車さんは、簡単に人を殺めることはしない。殺人許可証は、あくまで保険。そう分かっていても、時々矢車さんが怖い。
 なのに、天道は矢車さんが銃の弾を抜いていると確信していた。

(昔、何があったんだろう)

 知りたい気持ちと知りたくない気持ちが、俺の中でぐるぐる回る。
 悶々としつつ、口に運んだプリン・ア・ラ・モードは、それでもとても美味しかった。
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