学園迷走サバイバル

学園迷走サバイバル(7)

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 スピードを上げ、オートバイが風を切る。後ろに乗った俺は、矢車さんの背中にしがみつくのがやっとで、口を開くことはできなかった。
 矢車さんも、何も話しかけてこない。

 俺がプリン・ア・ラ・モードを食べ終わるのを待って、矢車さんは俺の腕を引き、店を出た。
 天道も加賀美も、俺たちを引き留めなかった。何を言っても無駄だと諦めたのだろう。

 加賀美邸に向かう途中の公園の傍で、矢車さんはなぜかバイクを停めた。俺が降りかけると、「そのままでいい」と制止が掛かる。

「メットは取ってろ。鬱陶しいだろ」
「え、うん」

 どうしてこんなところで停まったのか尋ねようとした時、上空から、こちらへとまっすぐ飛んでくるものが目に入った。

 矢車さんの右の掌に静かに着地したそれは、矢車さんが所有する蜂型のゼクター、ザビーだ。
 ザビーゼクターは、何かを体に引っ掛けて運んできた。後ろから身を乗り出した俺は、思わず「あっ」と叫ぶ。

「俺のブレス!」

 教室に置いてきたはずの俺の護身用ガジェット。矢車さんはブレスを受け取った後、再びゼクターを空へ放つ。

「加賀美のガタックゼクターから、取り返してくれたようだ。さすが、ザビーだな」

 矢車さんはバイクに跨ったまま、俺の左腕を取り、ブレスをはめてくれた。

「あのっ、矢車さん。聞きたいことが……」

 今がチャンスとばかりに、口を開きかける。

「三年前、俺は、天道と共に反ZECT派にいた」
「へ?」
「お前の聞きたいことってのは、それじゃないのか」
「えっ。いや、その、そうだけど」

 あまりにもあっさりと矢車さんが答えてくれるので、戸惑ってしまった。絶対、はぐらかされるか機嫌を損ねるか、どちらかに違いないと身構えていたのに。

「別に、隠すつもりはない。加賀美総帥も知ってる。反ZECT派を離脱して、ZECTに寝返ったのさ、俺は」
「寝返る、って」

 先程の二人の会話が、俺の頭の中で再生された。
 天道が矢車さんを変節漢と呼んだのは、そういう過去があったせいか。

「どうして、矢車さんはZECTに入ったの?」

 反ZECT派や天道を裏切って、という言葉は、あえて仕舞っておく。矢車さんを非難する気持ちは、俺には毛頭ない。

「そりゃ、ZECTのほうが待遇が良かったからに決まってる」
「え、そういう問題?」
「俺にはZECTのほうが性に合ってたってこと」

 もう行くぞ、と告げられ、エンジン音が聞こえた。こちらも慌ててメットをかぶり直す。

(……結局、はぐらかされた)

 肝心なところを、矢車さんは告げない。
 反ZECTだった矢車さんをZECTの幹部クラスに迎え入れ、自分の息子が反ZECTと接触するのも咎めない加賀美総帥。反ZECTにしても、武力でZECTを攻め潰そうとする様子はなかった。

 ZECTと反ZECT派は、本当に敵同士なんだろうか。
 俺には分からない裏の事情が、まだ他にもありそうな気がする。





 一週間は、あっという間だった。

 審判が下されるその日の授業後、俺はレベル判定試験を受けるため一人教室に残っていた。判定に落ちれば、レベルE。俺の命運もそこまで。

 あの日以来、俺は俺なりに矢車さんと勉強を頑張ってきたし、加賀美も反ZECTの件は持ち出さなかった。
 田所さんは、「香典は五千円でいいか」など、まだそのネタを引きずりつつ励ましてくれる。けど確か、「金額ははずむ」と言ってたくせに。

(深呼吸、深呼吸)

 どうでもいいと豪語しても、一応俺の生死に関わることだから、やはり緊張から手が汗ばむ。

(矢車さん、どうしたのかな……)

 朝別れたきり、今日に限って矢車さんと連絡が取れなかった。こちらから連絡しても、応答なし。判定試験が始まる前に教室に来てくれると、約束したにも関わらずだ。

 心配ではあるけれど、俺にはどうしようもない。
 絶対諦めるな、途中で試験を放棄するな、と矢車さんにさんざん念を押された。今は判定試験を頑張ることが、自分の務め。
 そう頭を切り替えようとした矢先、俺の携帯が鳴った。発信者は、加賀美だ。

「何だよ、こんな時に」
『影山さん、非常事態です! 落ち着いて聞いてください!』

 落ち着け、とこちらの方が言いたいぐらい、携帯から響く加賀美の声は切迫していた。
 嫌な予感に、手だけでなく背中に冷たい汗が伝う。

「まさか、矢車さんのこと? 何かあったのか!?」
『矢車さんが、ハンターの手に落ちました。監禁されたようです』
「カンキン?」

 咄嗟に漢字に変換できないほど、俺には信じられない言葉だった。
 監禁、つまり、矢車さんが捕まるなんて、一体どうやったら想像できるだろう。

「それで、矢車さんは無事なのっ!?」

 何よりもまず、その最重要事項を問う。

『多分』
「多分て何だよ、多分って!」
『犯行声明のメールがZECTに送られてきたんです。矢車さんの携帯から。メールに書かれてたのは、矢車さんを捕らえたことと、その場所だけです』
「場所? どこさ、それ!」
『とにかく落ち着いて! 影山さん』

 携帯を握り締め叫ぶ俺を、加賀美は必死に宥めようとする。

 加賀美の話によると、矢車さんはプロのハンター集団に拉致された。目的は不明だが、矢車さんへの私怨込みでZECT転覆を狙っている可能性が高いとのこと。

『ご丁寧に場所を教えてくるなんて、罠に違いありません。これから、SATの要請を』
「矢車さんがいる場所、教えろ。加賀美!」

 矢車さんや天道のようにドスのきいた口調は、俺には無理。それでも、精一杯の威圧感で訴えた。

『……エリアX。ZECTの治外法権区域です』
「ちがいほうけん?」
『毎年数十人が、そこで行方不明になってます。とんでもない危険地帯なんですよ』

 脅しの上手さは、俺より加賀美のほうが数倍上らしい。暗に、俺などが行っても、簡単に殺されるという含みを込めている。

『矢車さんは必ず助けます! 影山さんは、矢車さんのためにも試験を受けてください』

 矢車さんのため、と言われ、俺の反論は言葉にならなかった。
 同時に、試験開始5分前の予鈴が、加賀美との通話を強制的に終わらせた。試験官の足音が、廊下から響く。

 試験開始とともに、教室のドアは施錠される。
 外へ出るなら、今しかなかった。
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