学園迷走サバイバル

学園迷走サバイバル(8)

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 夕焼けの空の下、俺は半ば喘ぐように呼吸しながら全力疾走する。

 試験官を突き飛ばして教室を出た後、またも校門で待ち受けていた雑魚ハンターに襲われる始末。
 ブレスの麻酔針で珍しく撃退できたものの、レベルE認定されたらどうなることかと、先が思いやられた。

 すべては、俺が弱すぎるせい。その弱い俺が、大事な試験を放棄して、どこへ向かっているんだろう。

(バカかも、俺)

 冷静に考えれば、俺が行ったところで何の役にも立たない。それが分かっていても、走る足はUターンすることを拒んだ。
 途中何回か止まって息を整え、再び駆け出す。自転車でもあれば楽だけど、市街地にあるエリアXは走って行けない距離ではない。

 三十分程して、ぜいぜいと肩を上下させつつ、立ち入り禁止のロープをくぐる。

 エリアXと呼ばれる一帯は、昔隕石が落ちたために地盤がもろく、復興が進まない廃墟だった。崩れかけた家々や瓦礫等、住居の名残がそこかしこに点在している。

「SATが来るんじゃないのかよ」

 心細さから、声に出して呟いた。危険エリアには、部隊どころか、人っ子ひとり、猫の子一匹見当たらない。
 コンクリート片や陥没した地面に足を取られ、何度も転びそうになった。周囲の建物はもれなく全壊し、ハンター集団のアジトなどありそうにない。

(本当に、ここに矢車さんがいるのかな)

 不安に思いながら覚束ない足取りで歩いていると、倒壊した建物の後ろで、五、六人の影が動いた。
 慌てて瓦礫の後ろに身を隠せば、各々型式の異なる銃を構えたラフな格好の男たちが、俺の方を指差して何か叫んでいる。

 SATではない。つまり、捕まったら一巻の終わり。
 急いで駆け出す俺の頭上で、突如黄金色が煌めいた。蜂を模したガジェットが、俺を導くように眼前を横切って飛ぶ。

(ザビーゼクター!?)

 ゼクターに気を取られた俺は、足元への注意がおろそかになり、瓦礫に躓いてしまう。転んだ先で、すり鉢状の巨大なクレーターが口を開いていた。

「うわっ!」

 勢いが付いたまま穴の底まで滑り落ち、その衝撃で地盤が緩んだのだろう。さらに下の地面が割れるように崩れた。
 大量の土砂とともに、俺の体は重力に従い流されて落下する。

(ほんと、バカだよな……)

 自嘲するうち、いつの間にか俺は意識を手放していた。

 それからどのくらい経ったのか、ペチペチという音とともに、断続的に襲ってくる頬の痛み。
 音が大きくなるにつれ痛みも増していき、俺の覚醒を促した。

「……って、痛いってば!」

 叫んで、向けに寝ていた体をがばっと起こす。

「おたふくになるだろっ」
「……起き抜けの台詞がそれか」
「あれ?」

 周囲の薄暗さも手伝って、開いたばかりの瞳は状況を把握しきれない。
 しばらくぼんやりしていたが、次第に目が慣れ、周りが見えてきた。自分の体を見回せば、服は土まみれでも、頬以外は痛みもない。
 ようやく正気づき、俺の頬を叩いていた人物へ振り向いた。

「矢車さん……!」

 呼び掛けた声音は掠れてしまっていた。驚きと安心、どちらが強かったのか分からない。
 無事でよかった、と言い掛けた俺の唇は、途中で止まる。無事、ではなかった。少なくとも矢車さんの方は。

「撃たれたの!?」
「大丈夫だ。たいしたことない」

 上着もネクタイもない矢車さんの白いワイシャツが、右肩から腕にかけ、赤く染まっていた。相当量の出血。
 あちこち傷だらけで、シャツはところどころ破け、手荒な扱いを受けたことを示唆している。

「なんでお前がここにいる。試験はどうした?」
「あ、その……、なんというか」

 矢車さんは口の端の血を手の甲で無造作に拭うと、鋭い視線を向けた。
 痛々しい姿を直視できず、俺は顔を逸らしてもごもごと言い訳をする。

「……馬鹿か、お前は」

 言われるだろうと覚悟していても、心底呆れた表情をされれば、さすがにへこむ。

「そりゃ、SATが来るんだから、俺なんか役に立たないかもしれないけど」
「SATなんて、来るわけないだろ」

 じめじめと卑屈な言葉を並べる俺をよそに、矢車さんは淡々と続けた。

「弱ければ死ぬ。頼れるのは、自分の力だけだ。お前も、身に染みてるんじゃないのか」

 あまりに平然としたその口調に俺は愕然とした。
 弱肉強食のこの世界では、ZECTの幹部クラスといえど、条件は等しく同じ。矢車さんは、もとよりZECTの体制を受け入れている。

 少し考えれば、予想できたかもしれない。
 たとえ、加賀美がSATの派遣をどんなに頼んでも、きっと総帥は首を縦に振らないと。

「仮に、俺がここで死んでも代わりはいる。ZECTには、レベルAの人間はいくらでも……」
「代わりなんて、いないよっ。矢車さんがいなくなったら、俺はイヤだ!」

 思わず声を荒げていた。ZECTにとってどうであれ、俺にとって矢車さんの代わりの存在なんていない。矢車さんの口から、そんな事を言って欲しくなかった。

「仮定の話だ。生きて戻るさ、当然」

 困ったように笑い、矢車さんは俺の頭をくしゃりと撫でる。
 その手は、生きていることを証明するがごとく温かかった。
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