地獄兄弟は今日も平和

□ 白夜行~想と瞬 □

白夜行 [第二夜]

「俺は、誰も気にかけちゃいない」

 加賀美陸が餌にしているのは、間違いなく影山だ。
 だが、この男につけ込まれる隙を見せたら、こちらが不利になることは経験上よく知っている。

「言っておくが、彼は生きているよ」
「……何の話だ」
「手加減したんだろう? ホッパーのキックをまともに食らっていれば、あの程度では済むまい」
「馬鹿な! 手加減なんて……」

 陸の言葉に、俺はまんまと釣られた。
 認めることになってしまった俺に、抜け目のない狸親父は眼鏡の奥で満足そうな笑みを浮かべる。

「……ちっ!」

 舌打ちして目をそむけるが、漏れてしまった言葉はもとには戻らない。

「影山は、本当に生きてるのか」

 苛立たしい気持ちを抑えて、俺は聞いた。誤魔化しがきかない以上、こいつの話に乗るしかない。

「集中治療室で、ね。ワーム化を抑えるためにも、眠ってもらっているんだよ」

 ゆったりと芝居がかった口調が、さらに俺を苛付かせる。

「“仕事”、は何だ」

 俺は刺すように冷ややかな視線を向けた。それが今できる唯一の反抗だ。
 結局はこうやって、この男の手の上で踊らされてしまう。

 陸は大袈裟に嘆息し、戦いの顛末を語った。
 ワームはカブトとガタックに倒され、表面上ZECTは解散となった、と。
 それでもまだZECTには、ワーム化した人間たちを保護するという仕事が残っている。

「“保護” ……ね。“捕獲” の間違いじゃない?」

 皮肉を込めて俺は笑った。

「どちらでも構わんよ。何にせよ、動かせる駒が他にいない」

 要は、ワーム狩りに動員できるライダーが欲しい、ということだろう。

「汚い仕事はこっちに回す、って?」
「君も知っている通り、カブトとガタックはいまだ『赤い靴』を履いている。彼らを行かせられると思うかね」

 わざとらしく正論を唱える陸に、納得せざるを得ない。
 もともと、否と言えない取引きだ。

「ワーム化した人間はどうなる?」

 元に戻せるのか、とは聞けなかった。聞くのが怖かったのかもしれない。
 ネイティブが残した技術とZECTの開発力が、人間をワームに変えた。
 しかし逆に、ワームを人間に戻すことは可能なのだろうか。

「それは、君の協力次第」

 明確な答えを示さず、煙に巻く。この男独特の物言いに、俺は問い詰めるのを諦めた。
 やはり俺は、地獄から抜け出せそうにないらしい。





 透明な棺とも思える医療ポッドの中に、影山は横たわっていた。
 さすがにコートは取られているが、あの時のまま。目は固く閉じられ、ピクリとも動かない。
 血のように赤いタンクトップと青白い顔色が、異様なコントラストをかもし出していて、俺は背筋が冷えるのを感じた。

「……相棒、生きてるか」

 確かめるように声に出すも、もちろん答えが返ってくるはずはない。
 エリアXのZECTの施設に “保護” という名目で影山は捕らわれていた。
 呼吸に合わせ、影山の胸がわずかに上下するのを認めて、俺はほっと息をつく。

 陸の言葉によれば、影山はかろうじて蘇生し、ワーム化抑制の治療を受けているという。
 緑色の硬い皮膚に変わってしまった影山の手は、元通り人間のものに戻っている。
 体に付けられた何本もの電極やチューブは、今の影山に必要なものなんだろう。しかしその光景は、どこか、いびつだ。

『早く、兄貴と一緒に白夜の国に行きたいな』

 俺に変貌した手を見られまいと、相棒は必死に隠していた。熱に浮かされながらも、手を毛布で隠し影山は笑っていた。
 相棒の異変に気付いてはいたが、俺は何も言わなかった。言えなかった。

「矢車さん、そろそろ時間です」

 影山の医療ポッドの側に立ち尽くす俺に、白衣を着た医療チームのひとりが声を掛ける。
 続いて、白衣の集団の中から、不釣合いな黒衣の男が顔を出す。俺をここに案内したゼクトルーパーだ。

「分かってる」

 俺は踵を返すと、部屋を出た。
 振り返ることはしない。今は、前だけを見なければならない。

 首尾よく、外にはすでに十数人のゼクトルーパーが待機していた。
 加賀美陸により、俺はワーム捕獲のための先陣を切る役目を押し付けられた。しかも、ZECTの小隊を率いて。

「Aブロックでネイティブ化した市民が確認された。行くぞ」

 即席の部下たちに告げ、俺は長いコートの裾を翻す。

「あの、隊長はそのお姿のままで……?」

 遠慮がちに小隊の部下が聞いてくる。

「スーツでも着ろ、と?」
「い、いえっ! そんなことは」

 ねめつけるような俺の視線を受け止めると、その勇敢な部下はすくみあがった。

「ZECTは解散したんだろ。お前たちも気楽にしてろ」

 俺は背を向けたまま、背後の部下たちにひらひらと手を振って見せた。
 どうあがいても、俺はもうシャドウ時代の矢車隊長に戻れはしない。
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Date:2007/03/30
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Thema:二次創作:小説
Janre:小説・文学

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