白夜行~想と瞬

白夜行 [第四夜]

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 資格者を待ちわびていたかのように、ザビーゼクターが上空に現われた。
 この前は、俺から拒絶した。だが今度はそうも言っていられない。
 苦々しく思いながら伸ばした手の中に、ザビーゼクターはふわりと収まる。

「変身」

 ゼクターをブレスに装着すると同時に、ザビーのライダースーツが体を覆っていくのを感じる。
 即座にキャストオフした俺を見て取ると、ワームたちはキックホッパーを守るかのように立ちふさがった。

「さすがシャドウ。いいハーモニーだ」

 全体が個を守り、個が全体を守る。
 俺が提唱していたパーフェクトハーモニーを連中は実践しているようだ。だが、使い方を間違えている。

 一気に片を付けるべく、俺は腕の武器で元部下たちを続けざま直線状に薙いだ。もちろん急所は外す。
 ザビーの特性上、今までの足技主体の攻撃からボクシングスタイルに切り替えなければならない。戦いの勘は実戦で取り戻していくしかなかった。

「さぁ、勝負といこうか」

 10体余りいたワームを地に伏せ、俺はキックホッパーと対峙する。
 ライダースティングの構えを取ったところで、ふと奴の様子がおかしいことに気付いた。苦しむように胸を掻きむしったと思うと、ガクリと膝を折る。

「おい!?」

 俺が近寄っても、キックホッパーは微動だにしない。
 自発的にホッパーゼクターはベルトから離れ、変身は解除された。装着者の意識がなくなったのだろう。
 あとに残ったのは、うつぶせに倒れた男の姿。ワーム化もしていない。

 見回すと、他のワームたちは人間に戻ることなく、トルーパーに捕獲されている。
 俺は変身を解くと、倒れている元部下の首に指を当て脈を見た。

(生きている。気を失っているだけだ)

 名残惜しそうに周りを跳ぶザビーゼクターに、俺は「行け」と短く命じる。
 手早くザビーブレスをはずし、俺にそれを寄越したトルーパーに詰め寄った。どこか影山を思い出させる、その部下に。

「どういうことだ? なぜ、これをお前が持っている?」

 ブレスを突き返そうとする俺をやんわりと拒み、そいつは照れくさそうに笑った。

「実はザビー候補だったんですよ、俺。でも、あんな風になったら怖いですしね」

 キックホッパーに変身し、倒れ伏したたシャドウ隊員を、その部下は目線で示す。
 心臓は動いているものの、突然苦しみ出し、完全にブラックアウト。救命措置を施さないまま放置すればおしまいですよ、と部下は肩をすくめて見せた。

 そこで、俺はようやく思い当たる。

(『リジェクション』か!)

 ザビーの資格者になる前に、聞かされたことがある。
 ゼクターは人を選ぶ。もし資格者と成り得ない者がゼクターを装着すれば、体内で拒絶反応が起こるのだ、と。
 だが、ネイティブはゼクターを自由に操れるはず。

「ネイティブにリジェクションは出ないんじゃないのか」
「他のライダーなら、そうですね」

 部下は妙にはぐらかすような言い方をする。
 何かの重要なヒントを与えられた気がして、俺はその言葉に結びつきそうな記憶を辿った。

 ホッパーは他のライダーとは違う。対 “ネイティブ” 用にZECTで極秘に開発されたライダーシステムだ。
 ならば、ネイティブに拒絶反応を起こさせるものが、ホッパーにはあるのかもしれない。

「矢車さんに隠し通せるわけないですよね。トップにどう言い訳すりゃいいんだか」

 頭を抱えるその部下を見て、俺はすべてのからくりを理解した。

「成程。まんまとはめられたわけだ」

 なぜ、もっと早くに気付けなかったのか、と自分自身に毒づく。

(悪い……)

 そしてひと月もの間、何もしてやれなかった相棒に、俺は心の中で詫びた。





 荒々しく部屋のドアを開け、俺は加賀美陸の座るデスクに、無造作にホッパーゼクターを放った。
 ライダーベルトも同じように投げ置く。ガシャンという金属音が、耳障りなほど大きく響いた。

「影山を返してもらおう」
「……言っている意味が、分からないのだが」

 陸は飄々と脚を組んだまま、椅子をくるりと回転させてこちらを向いた。俺の睨みにも、動じる様子はまったくない。

「俺をいいように使うために、影山を犠牲にしたのか? あんたになら、あいつを治すことができたはずだ」

 感情を押し殺して、それだけ問う。
 陸は一瞬目を丸くしたが、やれやれ、と嘆息した。

「犠牲になど、しておらんよ。時期が来たら、言われなくとも君の元に返すつもりだった」

 それは、俺の推測に対する充分な肯定だった。全身に湧き上がる怒りを俺は必死で抑える。

 影山が目覚めないのは、リジェクションのせいだ。
 ネイティブに変わりつつあった相棒は、ホッパーに変身したことでリジェクションを起こしたのだろう。
 装着者の拒絶反応は、ZECTによって治療法が確立している。影山を目覚めさせることはできたのに、陸は治療を行わなかった。
 おそらく、俺をZECTに縛り付けておくために。

「私は、“報酬” だと言ったはずだ。君の相棒を治療する。その代わりに、君に働いてもらう。これぞ、ギブ・アンド・テイク」

 悪びれない陸を前にし、俺は両の掌を力任せにデスクに叩きつけた。
 身を乗り出ようにして、低く告げる。

「……なら、俺はもう充分働いた」

 報酬を、と俺が言葉を続ける前に、陸は机上の電話に手を伸ばしていた。

「ゲーム・オーバー」

 受話器に向けて、それだけ言った。
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