白夜行~想と瞬

白夜行 [最終夜]

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「……よぉ」

 口をついて出たのは、いつもと変わらない言葉。

「兄……貴……?」

 相棒は目を瞬かせながら、掠れた声を出す。

「あれ、俺、寝過ごした……かな」

 寝ぼけているのか、単にぼけているのか。
 長く眠っていた頭と体は、まだ現実を認識できないらしい。

「ああ。寝過ぎだ」

 軽口を叩いて、俺は相棒の頭を引き寄せた。自分の肩口に押し付けて、俺もうつむき加減に顔を伏せる。
 今の俺の顔を、相棒に見られないように。
 嬉しいような、泣きたいような。きっと今の俺は、情けない顔をしているだろう。

 加賀美陸の対処は早かった。
 呆れるくらいあっさりと影山のリジェクション治療の指示を出し、その日のうちに、俺をZECTから解放したのだから。

「残念だよ。隊員たちも、君の復帰を望んでいるのに」
「ガラじゃないんでね」

 狸親父の引き止めの言葉に、俺は顔をしかめた。
 隊長職などに、今更何の魅力も感じない。
 他人の命を背負うのがいかに重いか、ZECT時代にも増して痛感していた。相棒ひとりさえ、まともに助けられなかったというのに。

「立てるか」
「肩、貸してくれる?」

 相棒は覚束ない足取りでベッドから起き上がった。
 ふとベッド脇に置かれたザビーブレスに目を留める。返しそびれ、ここまで持ってきてしまったものだ。

「兄貴。ザビーになったんだ」
「ホッパーゼクターを奪われたから、仕方なく、な」

 見つかるところにブレスを置きっ放しにしてしまった自分の迂闊さを呪う。
 俺にとって、ザビーは裏切りの象徴でしかない。
 田所さんからザビーに戻るよう誘いを受けた時も、俺はザビーブレスを収めたジェラルミンケースを蹴り上げた。

 様々に変化してきた俺と影山の関係を、最悪の形で具現するのがザビーだ。
 ザビーを避けることで、無意識に、影山との確執に蓋をしようとしたのかもしれない。

 相棒は、じっとザビーブレスを見つめている。
 ザビーへの執着、俺への引け目。一体どんな思いでザビーを受け止めるのか。
 しかし俺の予想と違う明るい声で、相棒は言った。

「兄貴のザビー、俺も見てみたかったな」
「戦い方を忘れちまってる。無様なもんだったぜ」

 俺もこだわりを捨て、軽く返す。

 一歩一歩、俺と相棒は医療施設の長い廊下を外へ向かって歩いた。
 まだひとりで歩くことのできない相棒と共に、その歩みは遅かったが、それでも確実に前に進む。

「ね、ザビーゼクター、もらっていこうよ。白夜の国にさ」
「……好きにしろ」

 俺が渋々承諾すると、相棒は嬉しそうな顔をした。

「やたっ! 俺もザビーになれるし、兄貴と着回ししよう」
「服じゃないだろ」

 他愛ない会話。追い求めたひとかけらの日常を、俺たちはやっと取り戻した。





 ZECTによるワーム掃討も、ひと区切り付いたようだった。
 加賀美陸は警視総監として、その息子・加賀美新は警察官として再出発をした。天道は、相変わらず。

 ワーム化した人間たちは、治療後日常生活に戻ってからも、定期的に検診を受けることを余儀なくされた。
 もともとネイティブだった者たちと違い、いつ自我を失って暴走するか分からない。完全にワーム化を抑止する手段は、いまだ見つかっていなかった。

 相棒の体も、リジェクションは回復したが、ワーム化抑制のZECTの治療を必要とした。
 そのため、白夜の世界への旅立ちが無期延期になり、俺たちは以前と変わらない日々を過ごしている。

 季節が移り変わっていくのを、俺はぼんやりと感じた。
 地獄に堕ちてからは、四季の変化など気に留めたこともなかったけれど。

「あ、兄貴の頭に桜ついてる」

 土手に寝転がった俺たちの側には、大きな桜の木。
 相棒は、俺の髪に舞い落ちた桜の花びらを手に取った。

「今頃は、日本を離れてるはずだったのにね」

 ぽつりと相棒が呟く。何を言いたいかは分かっている。

「兄貴、ごめん。俺のせいで……」
「やっぱり、春は桜だ」

 相棒に言葉を続けさせない。聞く必要はなかった。

「白夜の国には咲かない。桜が見られればいいさ」

 寝転がったまま、眩しいほどの青空を瞳に映す。
 俺たちの上にも、陽の光は分け隔てなく降り注いでいた。
 相棒も、起こしていた体を俺の隣にごろんと横たえる。

「もし、俺がまたワームになったらさ。今度こそ、兄貴の手で俺を倒してよね」
「当たり前だ」

 否定の返事を期待していたらしい相棒は、俺が即答すると、少しむくれた顔をした。

「安心しろ。ひとりで地獄に置き去りにはしない」

 あの時、意識のなかった相棒に言った言葉を俺は繰り返す。

「相棒、俺たちは永遠に一緒だ」

 たとえ、どこにいようと、どんな結末が待っていようとも。
 俺たちは共に、白夜の中を歩いていくだろう。
 沈まない太陽は、きっとここにもある。手の中に、俺は既に、光を掴んでいるのかもしれなかった。


 END


※ようやくラストです。お付き合いありがとうございましたm(__)m
捏造だし、なんか矢車さんの性格変だし・・・ちょっとマズかったかなぁ、と書き終えてから反省してます。
二人の関係をどうやって描写するか、それがいつも悩みどころです。ギャグは何も考えなくていいんだけど(笑)。
矢車ザビー復活で、キックホッパーとの戦法の違いに戸惑う矢車さんとか、もっと掘り下げたかったんだけど今回は入れられませんでした・・・。
ちゃんとしたザビーじゃなくてスミマセン(汗)。
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~ Comment ~

>海様 

こちらこそ、妄想しがいのある(笑)素敵なリクエストありがとうございました(^^)
ザビーがかっこよく書けなかったのが心残りなんですが・・・。
少しでも楽しんでいただけたのなら嬉しいです。
私もまだまだカブトで頭の中いっぱいですよ(^^ゞ
当分熱は冷めそうにありません(苦笑)。

おぉ!!すげぇ!! 

この前リクエストした海です。矢車ザビー復活有り難うございます!!僕の頭の中のザビーはAll矢車さんな僕はとても嬉しかったです。
電王が始まっても未だにカブトが頭から離れません!!マーリンさん、今後また頑張って下さい!!

>ありがとうございます 

お名前出せませんが、ご忠告くださり、ありがとうございましたm(__)m
さっそく例のコメントは消しました。
お気遣い、とっても嬉しかったです。
ありがとうございます(^^)

>きっぽう様 

コメント、ありがとうございました。
違和感なかった、と言っていただけるのが一番嬉しいです。こんなの矢車さんじゃねー、と言われるのが一番怖いかも(苦笑)。
いや、でも自分では「こんな矢車さん、絶対ヘン!」とか思ってるんですが(--ゞ
温かいお言葉に励まされました。がんばりますんで、よろしかったらまた読んでやってくださいv

 

初めてコメント書かせていただきます。白夜行、毎回更新されるの楽しみにしていました。矢車さんにも影山にも特に違和感なくすんなり読めましたよ。
相棒のために頑張る(?)矢車さんも、やっぱり可愛い影山も大好きです。
他のお話も面白くて大好きなので、これからも更新を楽しみにしています。無理にならないペースで頑張って下さい。応援しています。長々と失礼いたしました。
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