refraction -リフラクション-

refraction(2)

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 血で血を洗うネオゼクトとの抗争は、激化の一途を辿っていた。
 ワームという本来の敵だけでなく、ネオゼクトとの戦闘によって、日々多くの隊員たちが傷付き、殉職していく。

 ネオゼクトに関する資料を整理しながら、影山はやりきれない気持ちになる。
 なぜ、彼らはZECTを倒そうとするのだろう。

 指名手配の犯人よろしく撮られた反逆組織のリーダーたちの顔写真を並べ、書類の上にホチキスで留めていく。

「……あれ?」

 ふいに、影山は写真に視線を落とす。そのうちのひとりの顔は、どこかで見たような気がした。





 コンコンと遠慮がちにノックをすると、中から「どうぞ」という柔らかな返事。
 矢車の声だと分かっていたが、一応気を遣って影山はドアを開けた。

「……失礼します」

 共用の執務室とはいえ、面倒な書類関係の処理はほとんど矢車の仕事になっていた。よって、この部屋には、矢車がひとりでいる時が多い。

「影山か、どうした?」

 ペンを走らせる手を止めて、上司は顔を上げる。
 予想通り、矢車だけだと確認すると、影山は駆け出して詰め寄った。

「矢車さん! これ、どういうことです!? どうしてこの前、この人と一緒だったんですか!?」

 その剣幕に驚いたものの、矢車は影山の手に握られた資料の写真を見て、ああ、と納得する。

 北斗修羅。女ながら、ネオゼクトのリーダー格のひとり。
 数日前の夜、矢車がこの女といるところを、影山は目撃していた。

「任務でね、修羅と会っていた」

 トップシークレットだから漏れたらクビだぞ、と矢車は冗談めかして釘を刺す。
 あっさりと機密事項を話したのは、誤魔化しても無駄と思った為か、影山を信用しているゆえか。

「ネオゼクトを潰すには、内部からの方がいい。そのための手回しだ」

 修羅を引き込んで内通者にした、という意味のことを、矢車は告げる。

「でも、どうやって……?」
「女をおとすのは、簡単だ」

 さらりと言われ、影山の頬に朱がさした。

「そ、そんなの、いくら任務だって……よくない、と思います! 俺、そういうのって……」

 自分でも何を言っているのか分からない。
 真っ赤な顔で真剣に抗議する影山に、矢車は思わず吹き出してしまう。

「バカ。お前が想像しているような意味じゃない」

 おかしそうにくっくっと笑う上司に、影山はさらに顔を赤くする。
 ひとしきり笑った後、矢車は大きく息をついた。

「女は理想に弱い。理想論を掲げれば、簡単に言いくるめられる。特に、野心を持っている女は」

 ZECTの正当性、目的達成後の見返りなどを言葉巧みに語り、矢車は修羅を懐柔した。何食わぬ顔でネオゼクトに戻る彼女を、立派な “裏切り者” に仕立て上げて。

 ZECTという組織の頭脳でもある矢車は、こういった駆け引きに長けている。
 しかし、純粋にZECTを信じ、自分を慕ってくれる影山には、隠しておきたい一面でもあった。

 矢車は、影山の反応を待つ。
 何を考えているのか。黙ったままうつむいている部下からは、表情が窺えない。

 影山は、自分の知っている矢車とは違う矢車を、見せつけられた気がした。
 強くて頼りになって、いつも『完全作戦』を遂行する上司。目的のためには、手段は選んでいられないのかもしれない。
 でも、と影山は思う。

(矢車さんが汚いマネをするのは、嫌だ……)

 いつまでも動かない影山を見かね、矢車は椅子から立ち上がった。

「影山、ちょっと付き合ってくれ」
「……えっ?」

 デスクの上の書類もそのままに、矢車は影山を連れて執務室を出た。

 ZECT内には様々なトレーニングルームが設けられている。
 射撃、体術、戦闘シュミレーション等の実技はもちろん、イメージトレーニングや催眠学習といったものまである。二人がやって来たのも、そんな施設のひとつだった。

 体育館ほどの広さだが、がらんとして何の設備もない。
 待ってろ、と言い置いて、矢車は隣の機械室のような部屋に入っていってしまった。

 ひとり残された影山は、訳も分からず不安げに周囲を見回す。
 影山のZECTでの仕事は、もっぱら書類整理だ。まだ実戦に赴いたことはなく、戦闘訓練も数えるほどしか受けていない。

「あの、矢車さん……?」

 待つのに耐え切れなくなり、おそるおそる口を開いた時。
 突如として、目の前に海が現われた――。

「うわっ!?」

 大きな波に飲み込まれ、影山は慌てて水面に顔を出そうとする。けれど、息は苦しくない。服も濡れてはいない。
 足元はフワフワとして浮遊感はあるが、本当に水中にいるわけではなさそうだ。

「や、矢車さん? これって……」

 助けを請うように尋ねると、機械室から出てきた上司は優しげに笑う。

「ホログラフィだ。重力や圧力も水中と同程度にしてある」
「……はぁ」

 どうやら、水中や宇宙空間での戦闘の模擬訓練に使われるシステムらしい。
 しかし、どうして今自分がそれをする必要があるのか。

「海に行きたいと言ってただろ。今はこれぐらいしかできないが……」

 矢車は、片手を打ち寄せる波に伸ばした。実際に存在しない波は、触れることもできず、手の中をすり抜けていく。

「計画が成功すれば、本物を見せてやれる」

(俺に、これを見せるために……?)

 矢車の意図を、影山はようやく理解した。
 海が好きだと、取り戻したいと告げた自分。それを、矢車は心に留めていてくれたのだ。

 凝り固まりかけたどろどろした気持ちが、ゆっくり溶けていく気がする。
 海を、取り戻したい。そして、青い海を矢車と見たい。その為には、天空の梯子計画を実現させなければならない。

「俺、もう戻ります。ありがとうございました!」

 ぺこりと頭をさげて、影山は駆け出した。

「ああ、またな」

 矢車は腕を組んだまま、壁に背を預けている。
 部下の後姿が遠ざかってから、矢車はシステムのスイッチを切った。すぐさま海は消え、現実が戻る。

 ふぅと息をつき、矢車は左手で両眼を覆った。
 無邪気な笑顔を向ける部下に、ちくりと胸が痛む。影山が思っているほどに、ZECTは善ではないというのに。

「……黄金のライダーに手を回しておくか」

 矢車は冷静に呟いた。策士の顔で。
 そろそろ、次の任務に移る頃合いだろう。


※なんか、矢車さん→腹黒さ3割増し、影山→純粋さ3割増し、くらいになってるような・・・(汗)。なんでだろう(--ゞ
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~ Comment ~

>kou様 

コメントありがとうございます(^^)
矢車さんファンに怒られるかなぁ、と思いつつ・・・GSLの矢車さんはTVと違うトコロを書きたかったんですが、今回またさらに黒いです(苦笑)。
その反動で(?)影山がイイ奴になっちゃいました(笑)。
コメントいただけると、とっても嬉しいですv
すごく励みになりました。少しでも楽しんでいただけるよう、がんばりまっす(^^)

 

マーリン様のコメントに笑ってしまいました。でも、影山はともかくGSLの矢車さんは、あんなモンじゃ・・・。(TVの矢車さんとは双子の別人みたいな感じだとか。)その点マーリン様の矢車さんは安心してみていられます。ある意味、影山に誠実な感じで。続きが楽しみです!
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