refraction -リフラクション-

refraction(3)

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 天空の梯子計画が実行に移される、まさにその日。突然、非常事態を告げる警報がZECT内に響き渡った。

 書庫で書類整理をしていた影山も、耳を突くけたたましい音に驚いて廊下に飛び出した。
 バタバタという大勢の足音と喧騒。呆然とする影山を押しのけるようにして、隊員たちが慌てふためいて走っていく。その中に、見知った同僚の姿があった。

「おい、何が起こったんだ!?」
「ネオゼクトだ! お前も早く避難しろ、影山!」

 詳しく聞こうとしたが、同僚は足を止めることなく叫ぶ。
 そのすぐ後を、トルーパーのひとりが援護するように続いた。

「非戦闘員は地下に急げ! 早く!」

(ウソだろ……!)

 影山は唇をかんだ。
 ネオゼクトの強襲――よりによって、こんな日に。今日は、地球に海を取り戻す大事な日になるのに。

 いや、この日を狙って、なのだろうか。
 ネオゼクトのリーダーの一人は、こちらの内通者のはずだ。ならば、何らかの裏があるのかもしれない。

(矢車さん……)

 真っ先に思い浮かんだのは、上司の安否だった。
 ザビーとなった矢車が負けることなどあるはずはない。だが、なぜか妙な胸騒ぎがする。

 トルーパーの制止の声も耳に入らない。地下へと向かう人の流れに逆行して、影山は駆け出していた。





 激しい銃撃戦の間をかいくぐって、影山は矢車の姿を探した。
 敵味方入り乱れ、あちこちで倒れている隊員たち。血なまぐさい光景に胸が悪くなりそうだった。

 武器を持たず、丸腰で来てしまったことを後悔する。
 ネオゼクトはもちろん、ZECT側に見つかってもマズイことになるだろう。

 ようやく、隊を率いて立つ上司を見つけた時、影山は物陰に身を隠したままほっと安堵した。

(よかった。無事だった)

 しかし、目の前で展開された銃撃に、思わず息を飲む。
 ひとりに向けて、一斉に発砲するゼクトのトルーパーたち。それを矢車は、微笑すら浮かべて見つめている。
 穏やかで優しい、いつもの笑顔。けれど、とてつもなく冷酷で。

「馬鹿だな、ZECTに歯向かうなんて」

 白い手袋をキュッとはめ直し、矢車はトルーパーたちに右手を上げて合図する。

「別のネズミが動いている、行くぞ!」

 出て行くこともできず、影山は事の成り行きを見守っていた。
 撃たれた男にちらっと目をやるが、もう動く気配はない。

(死んだ……のかな)

 のろのろと足を動かし、それでも影山は矢車の後を追う。
 良くないことが、起こりそうな予感がした。

 ネオゼクトとの攻防は、今なお続いている。
 にもかかわらず、天空の梯子計画は中止することなく、予定通り進められていた。

 あれほど待ち望んでいた計画。しかしそれを見届ける余裕が、影山にはない。

 ヘラクス、ザビーに変身した織田と矢車は、ライダー同士の熾烈な戦闘を繰り広げていた。
 超高速の動きは、肉眼で捉えられないほど速い。影山は、二人の戦いを必死で目で追う。

 影山のいる場所から少し離れ、ネオゼクトの北斗修羅も、戦いの行方を見守っていた。感情の篭らない表情で。
 彼女は、一体どちらの味方なのか。

 敵組織のライダーを相手にしながらも、矢車にはまだ余裕があった。
 織田は、修羅の裏切りに少なからず衝撃を受けている。ドレイクが倒されたことを告げたのも、織田の動揺を誘うためだった。
 心の揺らぎは、そのまま戦闘に反映される。

 残党を狩っている部下たちから、そろそろ報告が入る頃だろう。そう思い、矢車は周囲に目を走らせた。

 自分と織田の戦いを遠巻きに眺める修羅の姿が見える。
 そして、その後方には――。

(……影山!?)

 思いもかけなかった部下の姿を認め、矢車の動きは一瞬止まった。そのわずかな隙が、勝敗を決することになろうとは。

 ヘラクスは、配管を砕き、蒸気で目眩ましをかけると、クナイガンのアックスでザビーに深い一撃を与えた。
 渾身の力で振り下ろされたアックスに、ザビーの強化スーツも意味を成さない。

 全身を走る痺れにも似た感覚に、矢車は堪らず膝をついた。
 変身を保てず、ザビーゼクターが離れて行く。もう、用済み、とでもいうかのように。

(まさか……、矢車さんが……)

 膝を折り、前屈みにうつむく上司。影山には、自分の目にした光景がにわかに信じられなかった。

「矢車さん!」

 ヘラクスと修羅の姿が見えなくなるや、矢車のもとに無我夢中で駆け寄っていた。

「矢車さん! しっかりしてください!!」

 動かない矢車に、もしや、と不安になる。だが、そんなこと、あるはずがない。矢車が敗れるはずは、ない。
 肩を揺り動かし懸命に呼びかけると、矢車はうっすらと目を開けた。

「影山……、避難……しろ……。ここは……危険……」

 途切れ途切れに、矢車は言葉を継ぐ。その青ざめた顔に、影山は身震いした。

(矢車さんが、死ぬわけない……!)

 顔を歪め、声を出すことさえ辛そうだ。そんな上司を見ているのは、いたたまれない。

「今、救護班を呼んできます。待っててください!」
「逃げ……ろ、影山……」

 最期の力とばかりに、矢車は影山の腕を強くつかんだ。

「ZECTを……信じる、な」
「……矢車、さん?」

 掠れ気味の声で、影山は上司の名を呼ぶ。
 しかし、矢車は何も答えてくれない。影山の腕を掴んでいた手が、静かに離れ、地面に落ちた。
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