地獄兄弟は今日も平和

矢車・影山の地獄兄弟二次小説です。

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学園迷走サバイバル(7) 

学園迷走サバイバル

 スピードを上げ、オートバイが風を切る。後ろに乗った俺は、矢車さんの背中にしがみつくのがやっとで、口を開くことはできなかった。
 矢車さんも、何も話しかけてこない。

 俺がプリン・ア・ラ・モードを食べ終わるのを待って、矢車さんは俺の腕を引き、店を出た。
 天道も加賀美も、俺たちを引き留めなかった。何を言っても無駄だと諦めたのだろう。

 加賀美邸に向かう途中の公園の傍で、矢車さんはなぜかバイクを停めた。俺が降りかけると、「そのままでいい」と制止が掛かる。

「メットは取ってろ。鬱陶しいだろ」
「え、うん」

 どうしてこんなところで停まったのか尋ねようとした時、上空から、こちらへとまっすぐ飛んでくるものが目に入った。

 矢車さんの右の掌に静かに着地したそれは、矢車さんが所有する蜂型のゼクター、ザビーだ。
 ザビーゼクターは、何かを体に引っ掛けて運んできた。後ろから身を乗り出した俺は、思わず「あっ」と叫ぶ。

「俺のブレス!」

 教室に置いてきたはずの俺の護身用ガジェット。矢車さんはブレスを受け取った後、再びゼクターを空へ放つ。

「加賀美のガタックゼクターから、取り返してくれたようだ。さすが、ザビーだな」

 矢車さんはバイクに跨ったまま、俺の左腕を取り、ブレスをはめてくれた。

「あのっ、矢車さん。聞きたいことが……」

 今がチャンスとばかりに、口を開きかける。

「三年前、俺は、天道と共に反ZECT派にいた」
「へ?」
「お前の聞きたいことってのは、それじゃないのか」
「えっ。いや、その、そうだけど」

 あまりにもあっさりと矢車さんが答えてくれるので、戸惑ってしまった。絶対、はぐらかされるか機嫌を損ねるか、どちらかに違いないと身構えていたのに。

「別に、隠すつもりはない。加賀美総帥も知ってる。反ZECT派を離脱して、ZECTに寝返ったのさ、俺は」
「寝返る、って」

 先程の二人の会話が、俺の頭の中で再生された。
 天道が矢車さんを変節漢と呼んだのは、そういう過去があったせいか。

「どうして、矢車さんはZECTに入ったの?」

 反ZECT派や天道を裏切って、という言葉は、あえて仕舞っておく。矢車さんを非難する気持ちは、俺には毛頭ない。

「そりゃ、ZECTのほうが待遇が良かったからに決まってる」
「え、そういう問題?」
「俺にはZECTのほうが性に合ってたってこと」

 もう行くぞ、と告げられ、エンジン音が聞こえた。こちらも慌ててメットをかぶり直す。

(……結局、はぐらかされた)

 肝心なところを、矢車さんは告げない。
 反ZECTだった矢車さんをZECTの幹部クラスに迎え入れ、自分の息子が反ZECTと接触するのも咎めない加賀美総帥。反ZECTにしても、武力でZECTを攻め潰そうとする様子はなかった。

 ZECTと反ZECT派は、本当に敵同士なんだろうか。
 俺には分からない裏の事情が、まだ他にもありそうな気がする。





 一週間は、あっという間だった。

 審判が下されるその日の授業後、俺はレベル判定試験を受けるため一人教室に残っていた。判定に落ちれば、レベルE。俺の命運もそこまで。

 あの日以来、俺は俺なりに矢車さんと勉強を頑張ってきたし、加賀美も反ZECTの件は持ち出さなかった。
 田所さんは、「香典は五千円でいいか」など、まだそのネタを引きずりつつ励ましてくれる。けど確か、「金額ははずむ」と言ってたくせに。

(深呼吸、深呼吸)

 どうでもいいと豪語しても、一応俺の生死に関わることだから、やはり緊張から手が汗ばむ。

(矢車さん、どうしたのかな……)

 朝別れたきり、今日に限って矢車さんと連絡が取れなかった。こちらから連絡しても、応答なし。判定試験が始まる前に教室に来てくれると、約束したにも関わらずだ。

 心配ではあるけれど、俺にはどうしようもない。
 絶対諦めるな、途中で試験を放棄するな、と矢車さんにさんざん念を押された。今は判定試験を頑張ることが、自分の務め。
 そう頭を切り替えようとした矢先、俺の携帯が鳴った。発信者は、加賀美だ。

「何だよ、こんな時に」
『影山さん、非常事態です! 落ち着いて聞いてください!』

 落ち着け、とこちらの方が言いたいぐらい、携帯から響く加賀美の声は切迫していた。
 嫌な予感に、手だけでなく背中に冷たい汗が伝う。

「まさか、矢車さんのこと? 何かあったのか!?」
『矢車さんが、ハンターの手に落ちました。監禁されたようです』
「カンキン?」

 咄嗟に漢字に変換できないほど、俺には信じられない言葉だった。
 監禁、つまり、矢車さんが捕まるなんて、一体どうやったら想像できるだろう。

「それで、矢車さんは無事なのっ!?」

 何よりもまず、その最重要事項を問う。

『多分』
「多分て何だよ、多分って!」
『犯行声明のメールがZECTに送られてきたんです。矢車さんの携帯から。メールに書かれてたのは、矢車さんを捕らえたことと、その場所だけです』
「場所? どこさ、それ!」
『とにかく落ち着いて! 影山さん』

 携帯を握り締め叫ぶ俺を、加賀美は必死に宥めようとする。

 加賀美の話によると、矢車さんはプロのハンター集団に拉致された。目的は不明だが、矢車さんへの私怨込みでZECT転覆を狙っている可能性が高いとのこと。

『ご丁寧に場所を教えてくるなんて、罠に違いありません。これから、SATの要請を』
「矢車さんがいる場所、教えろ。加賀美!」

 矢車さんや天道のようにドスのきいた口調は、俺には無理。それでも、精一杯の威圧感で訴えた。

『……エリアX。ZECTの治外法権区域です』
「ちがいほうけん?」
『毎年数十人が、そこで行方不明になってます。とんでもない危険地帯なんですよ』

 脅しの上手さは、俺より加賀美のほうが数倍上らしい。暗に、俺などが行っても、簡単に殺されるという含みを込めている。

『矢車さんは必ず助けます! 影山さんは、矢車さんのためにも試験を受けてください』

 矢車さんのため、と言われ、俺の反論は言葉にならなかった。
 同時に、試験開始5分前の予鈴が、加賀美との通話を強制的に終わらせた。試験官の足音が、廊下から響く。

 試験開始とともに、教室のドアは施錠される。
 外へ出るなら、今しかなかった。

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学園迷走サバイバル(6) 

学園迷走サバイバル

「加賀美。悪いが、そっちに移ってくれ」
「え、あ! はい」

 矢車さんと天道の醸し出す異様な緊張感の中で為す術もなく固まっていたところ、矢車さんは、加賀美を向かいの席に移動させ、俺の隣の椅子に座った。

「加賀美は、ホットでいいか」

 そんなふうに柔らかく尋ねる矢車さんの脇を、俺は軽く突付く。

「……俺には聞かないの?」
「お前はどうせ、プリンだろ」

 とりあえず、俺の分も注文してくれるつもりらしいので、そこで口をつぐんだ。これ以上、あれこれ聞けるような雰囲気じゃない。

「ひより。ホット二つとプリン・ア・ラ・モードを」

 オーダーを取りに来た若い女店員に、矢車さんがそう告げたとき、

「人の妹を気安く呼ぶな」

 地の底から響くような声を発し、天道が鋭い視線で射抜く。

 四人テーブルの対角線上に再び火花が散り、俺と加賀美は息を飲んだ。
 やはり、矢車さんと天道は顔見知りらしい。もうひとつ分かったのは、“ひより” という店員は、天道の妹だということ。
 発端となった彼女は、この一触即発ムードに怯むことなく、「店の中で揉めるなよ」とだけ言って厨房へ引っ込んでいった。

「いつ、ここにいると気付いた」

 それほど関心はなさそうに天道が矢車さんに尋ねる。

「発信機が妙な動きをするし、影山と通信もできない。サーチを加賀美に切り替えてみたら、案の定、ってところさ」
「ガタックゼクターには引っかからなかったのか」
「向こうは、ザビーゼクターに追跡させている」

 ピリピリした空気の中で、交わされる会話。
 加賀美はともかく、ZECTに忠実な矢車さんが、反ZECTのリーダーと知り合いというのも不思議な話だった。それも、妹の名前を知ってるほど親しい間柄なんて。

「天道、矢車さんと知り合いだったのか?」

 そして、どうやら加賀美も、俺と同じく蚊帳の外にいるという事実が思いがけず判明した。
 二人がどういう関係なのか、説明を求める加賀美に、天道は「古い知り合いだ」と返すのみ。
 俺の方も、矢車さんに直接確かめる度胸はなかった。いまだ、黒いオーラを背負っている矢車さんには。

「さて、話を戻そう」

 少し緩んだ空気が一転。突然矢車さんの手が動き、ホルダーから小型の拳銃が引き抜かれた。
 銃を目にした店の客たちにザワッと動揺が走るものの、大げさに騒いだり席を立ったりする者はいない。殺人許可証を持つ者と居合わせた場合、見て見ぬフリが鉄則だ。

 撃鉄を起こし、銃口を天道の額に突きつけてから、矢車さんは低い声で言う。

「影山から手を引け。こいつに構うな。反ZECT側に囲うつもりなら、俺も黙っちゃいない」
「そいつが殺されてもいいのか」
「殺させはしない」

 至近距離で拳銃を向けられているのに、天道はまったく動じない。

「影山に、ZECTを裏切らせるわけにはいかない」
「変節漢のお前が言うとはな。なぜ、そこまでZECTにこだわる」
「無駄話はいい。……返事は?」
「ノーだ」

 眉ひとつ動かさない天道を前に、トリガーにかかった矢車さんの指が引かれた。俺や加賀美が止める隙などなかった。てっきり、ただの脅しだと思っていたのに。
 俺は反射的に顔を伏せ、ぎゅっと目を閉じた。しかし銃声は轟かず、小さくカチリと音を放っただけ。

 あまりに驚いたおかげで、銃に弾が入っていなかったのだと気づくまで、しばらく時間がかかった。

「弾を込めないのは、今も同じか。よくそれで、殺人許可証なんて所持できる」
「……今日は偶然だ。悪運の強さに感謝しとけ」

 呟くように言って、矢車さんは銃をホルダーに戻す。
 最悪の事態にならずに済んだことにほっとし、俺と加賀美は大きく息をついた。

 矢車さんは、簡単に人を殺めることはしない。殺人許可証は、あくまで保険。そう分かっていても、時々矢車さんが怖い。
 なのに、天道は矢車さんが銃の弾を抜いていると確信していた。

(昔、何があったんだろう)

 知りたい気持ちと知りたくない気持ちが、俺の中でぐるぐる回る。
 悶々としつつ、口に運んだプリン・ア・ラ・モードは、それでもとても美味しかった。

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ISO800 

SS・お題

※突発的に、『白夜』のコメディが書きたくなりました。ISOについて、間違ってるところあったら見逃してください・・・。

『白夜』は、ノルウェーが舞台で、兄弟は対ワーム機関に所属してます。その傍ら、影山は兄貴を巻き込んで、「S&S Co. Ltd.」という害虫駆除会社を設立。田所さんもノルウェーに来ているという、トンデモ設定です(笑)。




「兄貴、聞いてよ! ついに、『S&S』がUSO取得したよ!」
「は?」

 年末も押し迫った十二月、相棒がまた訳の分からないことを言いながら、嬉しそうに駆け寄ってくる。
 その後ろに、田所さんがうさんくさい笑顔で付いてきているところを見ると、おそらくロクなことじゃない。

 俺は夕食の支度の手を止めて、キッチンから逃走したくなった。
 が、あいにく、フィスクスッペを火にかけている最中のため、動くことができず。ゆえに、この厄介な二人組に捕まることとなった。

「聞いてやる。聞いてやるから、手を離せ!」

 俺が逃げると踏んだのか、相棒は俺の左腕をがっちりホールド。スープが焦げ付かないよう、ときどきレードルで鍋を混ぜる俺の右手。

「で、USOって何だ」
「ほら、JISマークみたいなヤツ、取るって言ってたじゃん。見てよ、認定証!」

 もったいぶって相棒が見せたその証書には、独特のマークが表記されている。
 International Organization for Standardization(国際標準化機構)、通称『ISO』のマーク。

「……USOじゃなく、ISOだろ」

 ISOとは、要するに、格付けブランドのようなもの。これを取得していると、いい企業だというお墨付きがもらえるわけだ。
 そういえば、以前相棒が事業拡大のためにISOを取るだなんだと、夢みたいなことをほざいて騒いでいた気がする。

「いつの間に……。費用だって、かなり掛かったろうが。どこから出たんだ、その金は」
「だから。こちら、スポンサー」

 相棒が言う前から、「いや、俺は何も」などと謙遜しつつ、田所さんはコンロの鍋を覗き込んでいる。
 俺が問いただすのを予想して、この人を連れて来たらしい。

「今夜は、矢車のお手製シチューか。わざわざ済まないな」
「フィスクスッペです。田所さんが来ると分かっていれば、他のものにしたんですが」
「まあ、そう、気を使うな」

 にこやかに俺の肩をポンポンと叩く田所さん。
 本当に、田所さんが来ると分かっていれば、今夜はパンとジャムだけにしたものを。

 こんなことをやっていると、一向に本題に入れない。クッキングヒーターを切り、俺は相棒に向き直った。

「スポンサーと言ったな。費用は田所さんが払ったのか」
「貸してもらっただけだよ。でも、これで社会的信用もバッチリだし。これからいっぱい仕事も入るだろうから、盆も正月も返上で、馬車馬のように働いてよね、兄貴」
「ちょっと待て」

 正月はともかく、ノルウェーに盆はあるのか。いや、ツッコミたいのはそこじゃない。

「勝手にお前が作った借金で、なんで俺が巻き込まれなきゃいけないんだ」
「だって、S&Sは、俺と兄貴の共同経営じゃん」
「そもそも、そこから間違ってるだろう!」
「よせ、お前たち! 俺を巡って、喧嘩をしてくれるな!」

 そういえばいたな、というぐらい眼中になかった人が、俺と相棒の間に割って入る。

「田所さん、どうして影山を止めなかったんですか。金まで出して、馬鹿げてる!」

 俺の怒りの矛先は、田所さんにも向いた。

「人類は皆兄弟。助け合いの精神だ」

 人類ではなく、ワームの田所さんに、そう諭される。

「なんでこんなどうでもいいことのために、大金を」

 考えれば考えるほど情けなくなってきて、俺は深い溜息をついた。
 一応俺たちはワームを相手に戦っているはずで、会社経営が本業ではないのだが、そんな事実はこの二人の頭からきれいさっぱり消え去っているらしい。

「やっぱり、これからは副業の時代だよ。田所さんのそば販売とタイアップして、会社を大きくするんだ」
「いつリストラされるか、分からんからな。老後の貯えも必要だぞ、矢車」
「どうしてそこで、俺に振るんですか」

 どうやら、田所さんが自分のそば事業のために、相棒を焚きつけたというところだろう。
 確かに、ISO認証取得となれば、企業としての強みになる。しかし、こんないい加減な会社組織が認証されるほど、審査は簡単ではないはず。

「ん?」

 ふと、妙な点に気づいた俺は、相棒の手から認定証を取り上げた。
 ISOマークの下にある規格番号が、明らかにおかしい。

「なんだ、これ。ISO 800って……」
「やだな、兄貴。ボケないでよ。フィルムの感度のことだろ」
「ついに、矢車にも着々と老いが忍び――」
「……寄ってないんで。ご心配なく」

 フィルムの感度は、別のISOの話。ぼけてるのはどっちだ、と言ってやりたい気持ちをぐっと押さえ込み、俺は話を進める。

「ISO 800なんて、存在しない。規格番号は、たいてい4ケタか5ケタの数字だ」
「え。ど、どういうことさ?」

 さすがに、相棒も俺の言わんとしていることを理解したようだ。

「よく見れば、印刷も粗いし、つまり……」
「プリントゴッコで刷ったということか!?」

 田所さんの方は、理解したかどうか甚だ怪しい。しかも、プリントゴッコは既に販売を終了している。

「どこのコンサル会社に頼んだか知らないが。まあ、そいつは十中八九、詐欺だな」

 とどめの俺の宣告に、相棒と田所さんは顔面蒼白。だが、同情する気にはなれない。俺の許可なく、こんな暴挙に手を出す方が悪い。
 ともかく警察に届けて来い、と俺は連中をキッチンから追い出した。
 すっかり冷めてしまったフィスクスッペに、もう少し火を通したかったので。

「戻ってきたら、飯だ」
「……うん、分かった」
「すまんな」

 気落ちしている相棒に掛けた言葉に、余計なもう一人までも返事をした。

「まさに、ISOが嘘八百ってやつか」

 巻き上げられた金は、おそらく戻って来ない。
 相棒たちに悪いと思いつつ、呆れた顛末に可笑しさをこらえられず、一人でくっくっと笑う。

 今年も、あとわずか。
 馬鹿みたいに平和な日々が、来る年もまた続くことを俺は切に願った。


END

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学園迷走サバイバル(5) 

学園迷走サバイバル

 てっきり倉庫か何か、人目に付かない場所に行くと思っていた俺の予想は見事に外れた。
 意外にも、加賀美が案内したのは、通りに面した小さなイタリアンレストラン。『Bistro la Salle』という看板が出ている。

「おごってくれるわけ?」
「コーヒーぐらいなら」

 俺の冗談にも、あいにく手持ちが少なくて、と加賀美は真顔で答えた。

 店の中に入った俺たちを、「いらっしゃいませ」と店員の声が迎える。まばらに座る数人の男女は、狩人ではない普通の客で、こちらには一切関心を示さない。
 きょろきょろと俺が周りを見回しているうちに、加賀美は奥のテーブルにいる若い男に声を掛けた。

「連れてきたぞ、天道」
「遅い。15分の遅刻だ」

 天道と呼ばれた男は、不遜な物言いで、コーヒーカップを口に運ぶ。
 少し癖のある髪と鋭い瞳が印象的な、整った顔立ちの男だ。歳は俺たちと同じくらいだろうに、この偉そうな態度。仮にも、加賀美はZECTのトップの御曹司なのに。

「しょうがないだろ。影山さんにはボディガードが付いてるんだから、撒くのが大変だったんだよ」
「大変? ゼクターに発信装置を付けて飛ばすのが、か」
「……え?」

 最後の「え」は、俺。会話の外にいた俺が声を発したことで、二人の視線が俺に突き刺さった。

「まさか、加賀美、お前……。ゼクターに俺のブレス持たせて、矢車さんをそっちに引きつけておくとか、したんじゃないよな」

 おそるおそる尋ねてみる。

 ゼクターは、ボディガードの役割も兼ねた多機能ガジェットの通称。ゼクターはそれぞれ特徴が異なり、加賀美のガタックゼクターは、クワガタの形をしている。
 ZECTの主要な人間は、このゼクターを持つ。ちなみに、俺は持っていない代わりに、ボディガードに護衛してもらってる。ゼクターを扱うにも相応の能力が必要で、レベルEの俺じゃ到底ゼクターは使いこなせない。

 加賀美は、ゼクターを操って机に入れた俺のブレスを引っ張り出し、矢車さんの目を欺いているらしい。

「ゼクターで時間稼ぎしてるんです。矢車さんに怪しまれないように」
「あちこち移動させて、矢車を振り回す手はずになってる。あいつには悪いがな」

 しきりに恐縮してる加賀美と、言葉と裏腹にちっとも悪びれる様子のない天道。
 加賀美がそこまでするなんて、余程のことだろう。天道という男にしても、矢車さんを知る口ぶりだった。

「あんた、一体誰だよ。俺に用があるんだろ、何?」

 さっさと済ませようと、俺は話を切り出した。

「金は自分で払えよ」
「……あのさ、会話のキャッチボールって知ってる?」
「オーダーしないのか」

 天道はあまり抑揚のない声で、向かいに座れと指図してくる。
 寄越されたメニューを開くことなく、俺はしぶしぶ腰を下ろした。その横で、加賀美も椅子を引く。

「まず、俺は、お前らと敵対する立場にいる。反ZECTの対抗勢力と言えば分かるか」

 自分だけコーヒーを飲みながら、何食わぬ顔で天道がサラッと告げた。
 衝撃の事実に固まるけれど、どうやらこれは引き抜きというやつ。加賀美が一枚噛んでいたことにも、驚いてしまう。

「お前も知ってるだろう。レベルEとみなされれば、人権さえ奪われる。俺たちは、この馬鹿げた社会体制を変えたい」

 天道の眼差しは、真っ直ぐで曇りがない。
 反ZECTといっても、想像していたようなテロリストと程遠いことは理解できた。他人の命や財産を脅かしたりはしない。俺を狩るハンターたちのほうが、よっぽど暴力的な上に過激だ。

 ZECTの体制に従わないという理由で、危険分子扱いされている反ZECT。天道はそのリーダーであり、加賀美とは親友同士だと言う。俺様な態度が癇に障るものの、多分悪い奴ではない。

 でも、だからといって、すぐさま反ZECTに寝返る気にはなれなかった。

「悪いけど、協力はできないよ。俺のことは、矢車さんが守ってくれてるし」
「守りきれなかったら、どうする」

 以前、矢車さんにも同じことを聞かれた。

「絶対、守るって言った」
「だが、実際今も、あいつはお前の傍にいない」

 反論できない俺に、天道が続ける。

「もし俺が狩人だったら、お前は今頃生きていないだろう」
『……もしお前が狩人だったら、生きてないのはお前だと思うけど?』

 ふいに加賀美の方から、加賀美以外の声がした。

 びっくりしてそちらに目を向ければ、本人も驚いているようで。慌てふためき、服のあちこちを探り始める。
 声が胸の辺りから聞こえたことに気づいた加賀美は、胸ポケットに差したボールペンを取り出し凝視した。

「……矢車さん、俺に盗聴器仕掛けました?」
『人聞き悪いな、加賀美。影山のブレスと同じタイプの発信機だ』

 それは、俺にとって聞き馴染んだ声。と同時に、店のドアが開き、客がひとり入ってきた。
 つかつかと靴音を響かせ、俺たちのいるテーブルまでやってきたのは、紛れもなくその人だった。

「矢車さん……」

 ゴクリと息を飲む俺。姿を見せた矢車さんは、ものすごい怒りのオーラをまとっている。傍目からは、いつも通り穏やかに見えるに違いない。
 矢車さんは加賀美の手からボールペンを取り上げると、ペン先を外して小さな機器を抜き取った。

「念のため、お前の動向も掴めるようにしてる。ZECTの大事な後継者だからな」

 薄く笑い、呆然と見つめる加賀美の胸ポケットにボールペンを戻す。

「出てくるつもりはなかったんだが。挨拶なしじゃ不義理だろ、天道」
「不義理のほうが、ありがたい」
「同感」

 不機嫌もあらわな天道に、矢車さんは身も凍るような絶対零度の微笑を返した。

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学園迷走サバイバル(4) 

学園迷走サバイバル

 いつものこととはいえ、授業もうわの空。矢車さんは校内に入ってこなくても、学校の近くにいるはずなので、下手にエスケープしようものなら、あとが怖い。

「なんか、生気ないですね。影山さん」

 放課後になってもぼんやりと席に座ったままの俺を見かねたのか、加賀美が声を掛けてくる。
 同じ家から通い、同じクラス。それでも、矢車さんというボディガードがいる俺は、加賀美とは別々に登下校をしていた。

「どうせ、あと一週間の命だからな」
「あ、レベル判定の件ですか」

 冗談のつもりで返事をしたのに、レベル落ちの件を把握しているらしい加賀美。まさに、知らなかったのは当の本人の俺だけ。

「でも、まだ落ちるって決まったわけじゃないし」

 気を遣って励ましの言葉をくれる加賀美も、本当は承知しているだろう。宣告を受ければ、99%はレベル落ち確実。猶予期間なんて、お飾りに過ぎないということを。
 だからこそ、無駄に一週間も個人授業が続くのは気が滅入るし、矢車さんにも悪い。

「この辺りに、他にレベルEの奴って、いたっけ?」
「え?」
「いくらなんでも、落ちこぼれが俺ひとりってことないだろ。他にも、そういう奴いないのかな」
「……その、いないことはない、ですけど」

 俺の質問に、加賀美は奥歯に物の挟まったような言い方をする。

「え、いるの!?」
「反ZECTの対抗勢力なら、います」
「……ああ、そういえばそっか」

 思い出して、俺は肩を竦めた。
 ZECTに敵対し、弱肉強食の現体制を壊そうとする反ZECT派。そういった連中は、すべてレベルE認定されている。

「反乱分子はみんな生存権剥奪なんて……、間違ってます」

 加賀美の口調は、まるで対抗勢力の肩を持つみたいで、ZECT総帥の跡取り息子としては問題ありかもしれない。

 この熱血漢は、日ごろから親父のやり方に反発している。
 ZECTの幹部たちは、いつか総帥の息子が反旗を翻すんじゃないかと懸念してるけど、その点については杞憂だ。加賀美は、実の父親を裏切れるような男じゃない。

「なんにしても、影山さんがレベルEはマズイですよ」
「だよな」

 俺はといえば、自分の命が懸かってるというのに、実感がいまいち。
 ZECTの頂点に立つ加賀美の親父に対して、俺は別段恨んでないし、反ZECTに賛同してもいない。それは、養子として引き取ってくれた恩とかではなく。こういうルールがあるおかげで、混沌とした社会の秩序が保たれてるのは確かだから。

 まあ、要するに、世の中を変えようなんて考えるのが面倒くさい。
 今を生き残れさえすれば、どうでもよかった。

「それより、影山さん、今日これから空いてますか? ちょっと、紹介したい人がいるんですけど」
「え、まさか、お前の彼女!?」
「そんなわけないでしょ」

 否定しつつ、加賀美はどことなく不自然に目を泳がせる。
 他の生徒と違い、俺に危害を加える心配は皆無とはいえ、ぎこちない素振りに違和感を覚えた。

「いいけどさ。矢車さんに連絡入れとかなきゃ」
「その……、矢車さんには内緒で、っていうか。あとで俺から謝っておきます。だから、ブレスも外していってくれませんか?」

 意外な加賀美の申し出に、俺はただ目を丸くした。

 ブレスを通して俺の位置は矢車さんに知れる。外せば当然、俺の所在は確認不可能。何が起こっても、自分の身は自分で守るしかなくなる。

「あ、危険な場所じゃありません。影山さんの身の安全は、俺が絶対保証します!」

 誤魔化しようがないほど必死に訴える加賀美を前に、ま、いいかと自分自身の冷めた声が頷く。
 うまく嘘をついて俺を連れて行くこともできたのに、馬鹿正直に話すなんて、こいつらしい。

「で、行くってどこさ」

 俺は聞きながら腕からブレスを外すと、自分の机の中に入れた。
 教室に残していっても、そのうち矢車さんが来て回収してくれるだろう。無事にまたこのブレスをはめられるかは、ともかくとしても、だ。

 古い学校にありがちな、外部に通じる秘密の抜け道というやつが、体育館倉庫の裏手に存在する。

 鉄柵の下方の一部を外すことができ、人ひとり通れる幅ができる。
 教師はもとより、生徒の中でも、これを知ってるのは俺だけじゃないかと自慢したいぐらいの最高級の秘密。
 加賀美に教えてやるのは癪だが、矢車さんにバレないよう外に出るためには仕方ない。

「なんかこう……、レトロですね」
「レトロ言うなっ」

 加賀美は、かがみ込んで柵をくぐった。言っとくけど、シャレじゃない。
 俺より幾分背が高いから、俺より幾分キツいらしい。うわっ、とか、ひーっとか叫び、それでもなんとか脱出に成功した。

「あはは。冒険心、くすぐられただろ?」
「呑気ですね。これから誰に狙われるか分からないってのに」

 声を上げて笑う俺に、加賀美は服に付いた土を払い、呆れた風に言う。

「学校の奴に見つかってもヤバイし、さっさと連れてけよ。どこへでも行ってやるからさ」

 さすがに日が暮れる前には戻らないと、いろいろ厄介になる。

 赤く染まり始めた空を仰いで、俺と加賀美は走り出した。
 俺と話がしたいという人物が待つ、数ブロック先の目的地へ向かって。

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